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金融の正規化を進める中国金融当局

2015年1月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

過去数年間、市場主導で進んできた金利自由化や資産証券化が、今後は、規制緩和や規制の整備を通して徐々に正規化され、中国金融全体に広がることが期待される。

 最近数年間の中国金融を見ると、銀行のオンバランス取引を中心とする伝統的な金融取引と規制のかからない金融取引(シャドーバンキングや一部のインターネット金融)の並存、それに伴う規制アービトラージが一つの特徴となっている。規制のかからない金融取引は、金融システムに対する潜在的なリスクとなる一方で、新たな金融の形を示し市場主導で金融自由化を進めている面もある。人民銀行をはじめとする金融当局は規制緩和や規制の整備を進めることで、こうした動きに応えているように見える。

金利自由化の推進

 第一は、2014年11月の金利引下げと同時に発表された預金金利の自由化への動きである(なお既に貸出金利は2013年に自由化されている)。

 預金金利の変動上限が、基準金利の1.1倍から1.2倍へと引上げられた。また、期間毎に基準金利が定められているが、その満期構成が簡素化され(図表1参照)、5年超については今後基準金利は設定されず、各行が独自に決定できるようになった。

 人民銀行は、預金金利の変動上限引上げについて、金融機関のガバナンスの改善や金利決定能力・リスクコントロール能力の向上等を理由として挙げているが、2013年の「余額宝」(※1)ブームに続いて2014年にはP2P金融(※2)が話題になるなど、ネット金融を中心に小口の自由金利商品が市場主導で次々と現れている中で、市場から金利自由化を催促されている感は否めない。

 また、人民銀行は、今後、適時に企業・個人向けの大口預金等を導入するとしており、今後、金利自由化は従来から示されてきた順序通り大口預金から進んでいくことになる。

 さらに、預金金利自由化の前提条件とされる預金保険制度については、人民銀行が11月に2015年1月の預金保険制度開始について検討する会議を開催し、続いて国務院が「預金保険条例」草案を発表した(※3)。

 一般に、預金保険制度は、預貸金利自由化後に預貸金利差が縮小して経営難の金融機関が現れる可能性があるために必要とされる。ただし、中国の場合、預金保険制度がないという現状が事実上、暗黙の預金全額保証となっており、今のままで預金金利を自由化するとモラルハザードが発生するおそれがあるため、保護される預金に上限を設けた預金保険制度が必要ともいえる(※4)。いずれにしても預金保険制度導入から預金金利自由化へという流れが視野に入ってきた。

証券化のさらなる規制緩和

 第二は資産証券化の動きである。中国における資産証券化は、銀行間市場の融資資産証券化(銀行業監督管理委員会管轄)と証券会社の企業資産証券化(証券監督管理委員会管轄)の2つのルートで公式には進んできた。しかし実際のところは、シャドーバンキングにおいて信託商品等を使った事実上の証券化が市場主導で進んでおり、また、インターネット上の資金運用商品等も同様の状況と見られる。

 こうした中で、当局側も2013年には資産証券化業務を試行段階から通常業務化にするなどの措置を採り、それを受けて、2014年には、証券会社が上場会社から譲渡された売掛債権を基に組成した資産証券化商品を販売する例や、基金管理会社(以下基金会社)(※5)の子会社が小額貸付や売掛債権の証券化商品を作る例などが見られるようになった。

 基金子会社は、2012年以降、基金会社が私募ファンドの運用やファンド販売を行うために作ったものであるが、過去数年間はいわゆるシャドーバンキングのチャネルに使われてきた経緯がある。当局がシャドーバンキングを抑制する中で、上述の動きは基金会社子会社が本来的な証券化業務に戻る動きと言えるが、基金子会社の資産証券化業務については明示的な規定がなく、証券会社と同様の規定を適用すべきであるとの意見があった。

 こうした中で、証監会は2014年11月に「証券会社及び基金管理会社子会社の資産証券化業務管理規定」を改定・発表した(※6)。ポイントは、①(証監会が管轄する)資産証券化業務を行える主体を証券会社だけでなく基金会社子会社にも拡大する。②証券化商品についての事前行政審査を事後登録(中国基金業協会)に変更し、証券化商品の原資産についてはネガティブリスト管理を実施する。③情報開示を強化し、情報開示手引きを発表する、等である(図表2参照)。

 なお、証券化商品の原資産は、キャッシュフローが予測可能で、特定が可能である財産権や財産であり、具体的には企業の売掛債権(※7)、融資資産、信託受益権やインフラ設備、商業不動産、不動産収益権等が挙げられている。また、証券化商品は私募形式(投資家は200人以内)で適格投資家向けに販売され、証券取引所や(証券会社が運営する)私募商品の取引システム、証券会社店頭市場で取引可能である。

 このように規制緩和や規制の整備を通して、これまで市場主導で進んできた金利自由化や資産証券化が、徐々に正規化され中国金融全体に広がることが期待される。

1) アリババの「支付宝」(アリペイ)に口座を持つ顧客が、口座上の遊休資金をマネーマーケットファンドに投資する仕組みである。詳しくは本誌2014年3月号参照。
2) P2Pは、インターネット上において個人対個人の貸借の場を提供するプラットフォーム。中国の現状については本誌2014年9月号参照。
3) 「預金保険条例」草案は11月30日に発表された。2014年12月30日までパブリックコメントを募集。
4) 「預金保険条例」草案では保護される預金上限は50万元。
5) 投資信託運用会社のこと。
6) 同じく11月に銀監会も融資資産証券化について、やはり審査制から登録制にすると発表した。
7) 売掛債権等の証券化は、インフォーマル金融に依存してきた中小企業金融に新たな資金調達手段を提供する可能性を持っている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健Takeshi Jingu

金融イノベーション研究部
上席研究員
専門:中国経済・金融資本市場

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