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新規制で変わる欧州のCSDとカストディ

2015年1月号

金融IT イノベーション研究部 上級研究員 片山謙

欧州では、店頭デリバティブ規制や証券集中保管機関(CSD)規制を受けてCSDが新設されるなど、カストディ業界が変わりはじめており、投資家や金融機関はカストディ銀行の動静をより注視すべき時代に入りつつある。

 欧州では、金融危機の教訓から当局が金融機関の倒産リスクをより強く意識し、投資家資産の保管(個別投資家の残高管理等)サービスの提供者について、従来のカストディ銀行から証券集中保管機関(CSD)にできるだけ寄せる政策が導入されつつある。結果、カストディ業界に変化が生まれてきており、機関投資家や金融機関においては欧州のカストディ銀行について、その動静をより注視する時代に入りつつあるのではないかと考えられる。では、どうしてこのような動きが生じているのだろうか。

当局規制の影響

 まず、一つ目は、規制の影響である。欧州市場インフラ規制(EMIR)により、店頭デリバティブ取引の参加者に中央清算機関(CCP)の利用を義務付ける制度(清算集中)が進められたことがあげられる。EMIRは2009年のG20コミットメントから検討がはじまり、2012年7月に採択された。対象者としては証券会社や銀行等に加えて、大規模なファンドや年金など機関投資家も段階的に清算集中の対象となる。また、規制対象にならなくとも最終投資家の資産を保護する上でCCPに参加する機関投資家(運用会社等)も欧米では少なくない。

 CCPに参加するには証拠金および清算基金(ここでは両者を総称して担保と呼ぶ)を現金もしくは代用有価証券で差し入れる必要がある(※1)。機関投資家はCCPの利用にあたり、担保が他の参加者の破綻等に伴う損失処理に使われる恐れを極力避けるため、担保の分別管理機能を整備するようCCPに求めた。もっとも、担保が代用有価証券で差し入れられた場合、分別管理には相当な手間がかかりCCPの事務処理能力では対応しきれないことが懸念された。そこで編み出されたのが、CCPがカストディ銀行に開設した口座で機関投資家の担保を分別管理する仕組みである(図表の①)。

 ところがEMIRでは、CCPは「証拠金や清算基金として差し入れられた金融商品については、可能な限り、証券決済システムにおいて保管(後略)(※2)」すると定められたため、「証券決済システム」の解釈によっては上記の仕組みが使い難くなるという懸念が出てきた。「証券決済システム」にはカストディ銀行は入らず、事実上CSDを指すと解釈されるからである。そして実際、2012年12月に公示されたEMIRの技術基準において監督当局(ESMA)が「CCPが担保保管先の信用リスクを自ら入念に確認すること」を求めたことから、担保の保管先はCSDのみと狭く解釈される恐れが高まってきた。

 その場合、既存のCSDで機関投資家資産の分別管理能力を備えた存在となると、事実上、EuroclearとClearstreamの大手2グループに限られる可能性があった(※3)。両グループは、中核となる国際CSD(ICSD)でユーロ債の集中保管および投資家口座の管理業務を提供し、傘下のCSDで各国の国債や株、社債など集中保管業務を提供している。ICSDを介したCCP 担保の分別保管イメージは図表の②のようになる。

大手カストディ銀行による対抗策

 こうした中、カストディ銀行も新規制を座視していたわけではなく、米系の大手カストディ銀行を中心に対抗策を次々と打ち出してきた。先陣を切ったのはBNYMellon銀行である。2012年にベルギー当局からCSD設立認可を得、2014年にルクセンブルグ証券取引所から証券決済システムとして認可された。同年9月には店頭デリバティブ清算機関のCME Clearing Europeから証拠金(代用有価証券)の管理業務を獲得した(想定されるイメージは図表の③)。同業のJP Morganも、ロンドン証取グループ(LSEG)がルクセンブルグに新設するCSDを活用する意向を2013年に発表した。

 これを機関投資家の立場から見ると、担保の分別保管サービスの提供者としてカストディ銀行傘下のCSDを選択肢として検討し得る状況が生まれたといえる。また、新たなCSDが各国CSDとリンクを張る(※4)ことで、各国CSDが保管する証券を担保(代用有価証券)として使うことのコストが低減される可能性もある(※5)。

 BNY MellonやLSEGによるCSD新設の背景には、2014年に導入された新しいCSD規制がある。これによりCSDは欧州共通の基準で認可や監督が行われることになった。ある一国でCSDの認可を得れば域内全体でのサービス提供が容易になり、想定される費用対効果を改善することに繋がったのではないかと推察される。

 新規制による影響をより詳細に見ると、対抗策を打ち出してきた大手グローバル・カストディ銀行と比較して、各国で活動しているカストディ銀行、いわゆるサブ・カストディへの影響が無視できない。これまでグローバル・カストディはサブ・カストディに各国CSDへの参加や利金処理等を委託してきた。今回の店頭デリバティブ取引に伴う担保の分別管理では、図表における①のモデルと比較して、②や③のモデルではサブ・カストディの役割がより限定される方向になると見られる。新設されたCSDの業務が証拠金等の分別管理に留まらず、証券決済に展開する可能性は否定できない。無論、サブ・カストディの証券貸借やコーポレート・アクション処理機能は容易に代替できないが、中長期的に見て、サブ・カストディ銀行が今後どのような事業展開を描くのか、利用者が注視すべき時代に入ったのではないだろうか。

1) 万一、参加者の決済不履行や破綻等により損失が発生した場合には、まず破綻参加者の担保、それでも足りなければCCPによる補填、さらに破綻参加者以外の参加者の清算基金などにより補填する等のルール(順位)がCCPにより定められている。
2) 「証拠金や清算基金として差し入れられた金融商品については、可能な限り、証券決済システムにおいて保管し、当該金融商品を完全に保護すべきである。代わりに、認可された金融機関との安全性の高い取り決めを結ぶことも認められる」(第47条の3)
3) ベルギー籍のEuroclear Bankやルクセンブルグ籍のClearstream Bankingがユーロ債のCSD機能を提供することからICSD(国際CSD)と呼ばれている。Euroclearグループは傘下に英仏蘭白等のCSDを、Clearstreamグループは傘下にドイツのCSDを擁しており、証券の決済や保管に加えて、証券貸借やファイナンスなど証券決済に付随するバンキング・サービスを展開しており、地元欧州の大手カストディ銀行と長年競合してきた。また、アジア大洋州や米州、アフリカなどグローバルに証券決済関連サービスを展開しつつある。
4) リンクとは、例えば、あるCSDがもう1つのCSDに口座を開設することにより、あるCSDの参加者が両方のCSDの証券決済を行い易くするもの。欧州では、各国CSDが証券振替決済機能をTARGET2-Securitiesと呼ばれる新しいシステムにアウトソースする予定であり、CSD間のリンクはより実現し易い方向になると考えられる。
5) BNY Mellon傘下のCSDはEuroclear Bankへのリンクを2014年6月に発表した。少なくともEuroclearBankが保管するユーロ債、さらには傘下のCSDが保管する証券が対象になるのではないかと推察される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

片山謙

片山謙Ken Katayama

注目ワード : カストディ

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