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市場インフラの監督強化を図る米国SEC

2015年1月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

米国SECは、市場のインフラストラクチャーとなる取引所、自主規制機関、ATS、清算機関等に対してシステムの脆弱性対策の徹底を求める新たな規則レギュレーションSCIを制定した。その内容は、日本への示唆にも富む。

システム化の進む市場

 コンピュータと情報通信技術の急速な発達によって、今日の証券取引は高度に電子化・コンピュータ化されている。日本市場においても、上場会社の株券が廃止され、振替機関における電子データの記録が株主の権利の拠り所となる一方、ミリ秒単位で注文を執行できる取引システムが登場したことで、1秒間に数百回もの売買を繰り返すHFT(高頻度取引)といったトレーディング手法もみられるようになった。

 こうした変化によって、証券市場の流動性、効率性は大いに向上した。しかし、同時に、システムの脆弱性が市場全体の大きな混乱につながるというリスクも高まっている。そうした危険性があることを関係者に強く印象付けた出来事の代表例が、米国で2010年5月6日に発生した「フラッシュ・クラッシュ」である。この日、ダウ工業株30種平均株価指数は、5分間で573ドル急落した後、1分半で543ドル急騰するという異常な動きを示した。

求められる対策

 「フラッシュ・クラッシュ」の原因は、ある投資運用会社が、約41億ドル相当という株価指数先物の巨額の売りを不適切な取引プログラムを用いて発注したという単純な判断ミスであった(本誌2011年5月掲載の拙稿「フラッシュ・クラッシュから一年」参照)。

 しかし、たった一件の注文が市場全体の大きな混乱につながった背景には、様々な取引プログラムを用いる自動化された売買注文が相互に複雑に連関していることで、短時間に想定外の状況に陥りやすいという市場の構造的問題がある。

 米国では、「フラッシュ・クラッシュ」後も、取引所のプログラムのミスで注目企業の株式新規公開(IPO)が混乱するなど、重大な問題が相次いでいる。システム障害による短時間の取引停止もたびたび起きている。売買停止制度の見直しなど、再発防止策もとられているが、システムの脆弱性対策は待ったなしである。

レギュレーションSCIの制定

 こうした市場の実情を踏まえ、米国の証券市場監督機関であるSEC(証券取引委員会)は、2014年11月、新たな規則レギュレーションSCIを制定した。この規則名は、システム、コンプライアンス(法令遵守)、インテグリティ(整合性)の頭文字を取ったものである。

 レギュレーションSCIは、市場のインフラストラクチャーの担い手である取引所、自主規制機関、代替取引システム(ATS、日本のPTSに相当)、清算機関、相場報道システムや気配表示システムの情報処理業務を行うプラン・プロセッサー等に対して、システムの容量、整合性、復元力、アクセス可能性、セキュリティを確保するためのルールと手続きを定め、その有効性をテストすることなどを義務付けている(図表参照)。一般にダークプールと呼ばれる、気配情報の公表義務を負わない取引量の少ないATSの一部も規制の対象となる。システム障害が発生した場合の報告義務なども明確に定められている。

 米国では、1989年以降、SECが自動化点検ポリシー(ARP)と呼ばれる監督指針を定め、取引所や清算機関のコンピュータ・システムの現状やシステム障害に関する情報把握に努めてきた。しかし、ARPに基づくSEC検査への対応は法令上の義務ではなかったため、本来規制の対象となるべき機関であっても、同意なしには検査対象とすることができなかった。また、検査対象機関が、SECのポリシーに盛り込まれたリスク管理等の水準を達成できていなかったり、大きな問題を引き起こした場合でも、直ちに行政処分の対象とはなりにくく、規制の実効性が低いという問題点もあった。

日本への示唆

 日本市場においても、2005年12月には、東証市場でのIPO銘柄の取引をめぐって、大規模な誤発注がシステム上の不備で取り消すことができず、市場が混乱するという事態が生じた。また、2006年1月の「ライブドア・ショック」時には、売買注文の急増で東証の取引・清算システムへの負荷が高まり、取引時間の短縮に追い込まれた。その後も、現物、デリバティブのいずれの取引においても、決して短時間とは言えない取引停止につながるシステム障害が発生している。

 このうち、誤発注問題や2012年8月に生じたデリバティブの売買システムの障害については、東証に対して金融庁による業務改善命令が発出されている。また、金融庁の監督指針にも、証券会社や清算機関等の業務継続体制やシステムリスク管理などに関する監督上の着眼点が明記されている。

 とはいえ、日本では、SECのレギュレーションSCIが規定するような、システム変更やテスト等に関する当局への報告や事後的な評価を含む手続きや監督態勢が十分に確立されているとは言えない。システム・インフラの重要性が増す中で、その脆弱性への対応を万全のものとすることは、市場制度の重要な課題である。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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注目ワード : HFT(高頻度売買)

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