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金融制度ロードマップ(金融ITフォーカス 10周年特別企画)

2014年12月号

金子久, 片山謙, 川橋仁美, 野崎洋之

銀行・保険・証券など従来分けられてきた金融業界の垣根が低くなり、取り扱い可能な商品が多様化したり、業態をまたがるグループ形態が多く見られるようになってきた。このため、他の業態の動向を意識することは不可欠となっている。しかし、各業態においてはそれぞれ高度な専門性が要求されていることもあり、他の業態についてまで将来導入される可能性のある制度を理解することは難しいのが現実と言えよう。そこで、野村総合研究所では、今後導入される可能性のある制度について検討状況や今後の見通しについて整理を試みた。それが『金融制度ロードマップ』である。

 まず、業態ごとの制度を見る前に、金融業界における問題意識を確認しておきたい。アベノミクスにおいても主眼がおかれているように、デフレ下において低下してきた金融機能の回復と強化を図ることが、その中心にあろう。その一つが国内金融の円滑化と好循環の実現である。そのために、個人や公的年金の豊富な金融資産が投資に向かう流れを作るとともに、企業に対して高いリターンを生み出すことを促したり、事業性を重視した融資の定着を図るよう銀行や証券・資産運用会社などに求める制度が検討されている。また、ボーダーレス化が進展する金融業界において、わが国の金融業のグローバル競争力の強化も重要課題の一つである。そのためには世界的な統一規定の策定に積極的に参画することや、世界の動きに見合った市場インフラの整備など様々な制度が検討されている。更に健全な市場の発展を促すために、金融サービスの利用者の保護や、金融機関による高度な金融人材の育成を支援する政策が検討されている。「金融機能の低迷」をこういった制度面で解決していくことで、「金融機能の回復・強化」が図られていくものと考える。

 では、業態ごとには具体的にどのような制度が検討されているのだろうか。次ページ以降、確認していきたい。

金融全般

 金融機能の回復・強化のために、金融の様々な業態を巻き込んで金融インフラの整備が行われようとしている。その一つが個人向け金融サービスに関わるもので金融所得課税の一体化や金融サービスを効率的に運営するため番号制度の利用範囲を拡大しようという動きがある。また国際的な働きかけとしてアジア諸国に対する通貨・債券等の取引・決済インフラの整備などの支援も進められようとしている。

 また人材面の環境整備も分野横断的に求められている。一例を挙げると海外の高度金融人材を確保するための雇用制度の柔軟化などが検討されている。また、今後数多くの制度が導入されていくことを考えると、これに対応する金融IT人材の育成も重要な課題として認識されるようになるはずだ。

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銀行

 先の金融危機で最も影響を受けた銀行セクターでは、危機の最中から規制と監督体制の見直しが進められてきた。日本は危機の影響が軽微であったこともあり、規制強化には慎重な姿勢を堅持する一方、国際合意を受け、金融システムの安定性を高めるための施策は着実に実施してきた。危機後の規制強化は、銀行のリスク管理における定量・定性面の高度化に主眼をおいている。定量面は、危機で顕在化したリスクの補足とリスク計測の精緻化である。包括的な見直しであるバーゼルⅢの国内基準行への適用も2014年3月期に開始された。次の大きなマイルストーンは、トレーディング勘定の抜本的な見直しとなろう。定性面は、リスク・ガバナンス強化、リスク・アペタイト・フレームワーク構築、リスク文化の醸成が課題である。リスク管理の質の向上には、息の長い取り組みが求められる。

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保険・共済

 保険業界の制度改正の動向をみると、グローバル化に伴うものと、契約者等の保護や国民生活の安定を目的としたものとに分けることができる。前者は、2008年の米国保険会社の経営危機をきっかけに、保険監督者国際機構等が中心になって策定を進めている規定・基準である。保険会社が本業以外の事業を行うことを前提に、グローバルな観点から統一的な概念によって、システミックリスクを防ぐという面の強化が図られている。後者は、保険会社の経営環境と消費者の意向を踏まえながら、保険の信頼性の確保や市場の活性化を図るというものである。

 自由化以降の統廃合等によって寡占化が進む保険業界では、事業規模の違いから経営戦略にも違いが生じている。従って、保険会社ごとに制度改正の影響と対応の重要度を適切に見極めて、個々に対処する必要がある。

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証券・資産運用

 豊富な個人金融資産や年金資金が成長マネーに向かう循環の確立はマクロ的な観点からばかりでなく、個人や年金基金自身にとっても、デフレからの脱却が本格化する状況下では重要と言える。こうした認識のもと、重要な仲介役として政府が期待しているのが投信の運用会社と販売会社、GPIFなど公的資金の運用機関を含む広い意味での資産運用業だ。それを担うプロとなる人材の育成を政策的に推し進めようとしている。また政府は、個人に対するインセンティブとしてNISAの継続的な改善や個人型DCの加入資格の拡大を検討している。さらに、市場への資金供給を拡大するためにも、東証の現物取引の時間拡大など様々な市場環境の整備を促進しようとしている。金融機関は資産運用サービスをコアに据えた新たなビジネスモデルの構築が求められている。

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金融全般

金融所得課税の一体化

 2016年1月以降、公社債等(公社債投信を含む)に対する課税方式が変更され、上場株式(株式投信を含む)等の運用損益(利子・配当・分配金と譲渡損益・償還損益)の通算が可能となる。具体的には、2016年1月以降、公社債等の利子所得が上場株式等の配当所得と同様に「源泉徴収により申告不要」とするか「申告分離課税」とするか選択可能となる。また、今まで非課税とされてきた公社債等の譲渡損益は申告分離課税となる。そして、公社債等の利子所得、譲渡損益が株式等の配当所得、譲渡損益と損益通算可能となり、特定口座で上場株式等と公社債等を管理することも可能となる。2014年夏に金融庁が発表した税制改正要望において一体化の対象を預貯金やデリバティブ取引へ拡大することを取り上げている。特に預貯金については保有者が膨大な数に上るため、導入までに金融機関は相当の準備が要求される。

番号制度利用によるサービスの円滑化

 マイナンバー法では社会保障、税、防災等の分野の事務に限定して番号の利用を認めている。一方で、この制度の利用開始に向けた取り組みを加速するため、金融、医療・介護・健康、自動車登録などの公共性の高い分野を中心に、番号利用の在り方やメリット・課題等について検討されている。金融分野の場合、具体的には金融機関が行う口座名義人の特定や現状確認、政府が金融機関に対して行う社会保障制度の資力調査や税務調査で番号が利用できるよう調整が行われており、2015年の通常国会に法案が提出される見込だ。今後、銀行等の金融機関では番号を利用した口座開設処理の簡素化について具体的に検討が進められるはずだ。

金融機関による中小企業の経営改善支援

 デフレ脱却と経済の持続的成長を企図した日本再興戦略(2014年改定)は、「デフレ下での縮小均衡メカニズム」から「物価安定下での拡大均衡メカニズム」への転換を標榜している。間接金融の担い手である銀行には、リスク・テイクに対する消極的な姿勢を転換し、借り手企業の事業の内容や成長可能性を適切に評価した上で融資や助言をし企業や産業の成長を支援することが求められている。銀行が財務データや担保・保証に依存せず、事業を適切に評価するためには、それに付随するリスクを評価する力をより一層養う必要がある。また銀行が企業等の成長を支援し続けるためには、バランスシートを健全に保つ力〜企業再生力も不可欠である。どのような事業に取り組み、どのようにリスク・テイクし、リターンをあげるか、銀行自身のビジネス・モデルの再検討も必要になろう。

銀行

バーゼルⅢ

 バーゼルⅢは、金融危機を受けた包括的な自己資本比率規制の見直しである。①所要自己資本比率の水準、②自己資本の質、③資本バッファの導入、④カウンター・パーティ・リスクの補足、⑤レバレッジ比率の導入(2015年実施予定)、⑥流動性規制から成る。2013年3月期に国際基準行、2014年3月期に国内基準行への適用を開始。なお、⑥のうち流動性カバレッジ比率は、2015年3月期に国際基準行に適用する予定。国内基準行への準用も予定。流動性管理高度化が課題となっている。

システム上重要な金融機関の特定と監視

 破綻時に金融システム安定に大きな影響を与える金融機関(銀行、保険、ノンバンク等も対象)に対して、1)自己資本比率の上乗せ、2)破綻処理計画策定、3)監督水準の引き上げ(リスク管理、データ統合、ガバナンス、内部管理等)を求めるもの。日本ではメガバンク3行がグローバルにシステム上重要な銀行に特定された。

 今後、特定が予定されている国内のシステム上重要な銀行に対しても同様の規制負担が求められる可能性がある。

トレーディング勘定の抜本的な見直し

 マーケット・リスクへの資本賦課の枠組みの抜本的な見直し。①トレーディング勘定とバンキング勘定の境界、②ストレス時のデータを用いた資本水準の設定、③市場流動性リスクの包括的勘案、④ヘッジと分散効果の取扱い、⑤リスク計測手法の改訂等から成る。①の延長線上には、バンキング勘定の金利リスクへの自己資本賦課がある。銀行にとって注視すべき規制の見直しである。

実効的なリスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)の原則

 RAFの構築は、2013年9月公表の金融モニタリング方針で大手行の検証項目となり、国内銀行業界において関心が高まった。RAFは、リスク文化醸成の有効なツールであり、健全なリスク・ガバナンスを担保する要素と考えられている。銀行のリスク管理の質を高める動きは、今後、国内において本格化すると思われる。

保険・共済

新しい資本規制の導入

 保険監督者国際機構(IAIS)は、Insurance Core Principles(ICP)において、保険監督機関が権限を持つ分野・管理すべき分野の原則を定め、官民・生損保を問わず保険会社とそのグループが、統合的リスク管理及びリスクとソルベンシーの自己評価(Own Risk and Solvency Assessment(ORSA))を実施するように監督すべきと規定した。

 現時点において保険会社の統合的リスク管理の標準的な枠組みは確立されていないが、金融庁は保険会社に対してERMヒアリングを実施し、統合的リスク管理体制の実態を把握するとともに、その結果の公表を行っている。更に、2014年2月には「保険会社向けの総合的な監督指針」を改正し、ORSAを含む統合的リスク管理態勢に関する指針を整備している。

 今後、2015年に米国で、2016年には欧州でこのような規定を法令として定めることが予定されている。また、2016年には国際基準としても規制が固められる予定であり、日本国内においても保険業法の改正が予想される。

保険会社を巡る経営環境の変化に対応した保険業法の改正

 保険商品の複雑化や販売形態の多様化と、複数保険会社の保険商品を販売する代理店等の出現等を背景として、2014年5月に「保険業法等の一部を改正する法律」が成立した。この改正で、既に施行された項目もあるが、保険募集の各段階におけるきめ細かな対応の実現や募集実態に応じた体制整備の義務付けについては2016年度の施行が予想される。

 今後、年度末を目処に公表されるであろう「内閣府令」や「保険会社向け総合的な監督指針」を受けて、保険会社や保険募集人・代理店への影響が明らかになるであろうが、保険募集の現場では、相当程度の業務負荷が発生するであろう。

国民生活の安定を意識した制度設計(地震保険制度改正)

 東日本大震災を踏まえ、「地震保険制度に関するプロジェクトチーム(財務省)」が発足した。プロジェクトチームの検討結果を纏めた報告書には、速やかに対応すべき課題・引き続き議論すべき課題として「商品性」と「保険料率」を挙げている。既にフォローアップ会合も開催・終了しているが、現時点で制度改正の具体的な目処は立っていない。

 今後、年明けから来年度にかけて更なる検討が行われ、損害保険業界による迅速な保険金支払いの仕組みの検討状況を確認した上で、2017年度には、損害認定区分の細分化(現在は、全損・半損・一部損の3段階)と料率の引き上げが行われると思われる。

 その場合、制度改正から5年間は旧商品の契約者と新商品の契約者とが混在するため、その間に大規模な地震災害が発生した場合でも、損害保険会社の調査担当者はもちろんのこと、消費者を混乱させないための十分な対策・仕組みの検討・構築が必要になろう。

証券・資産運用

東証 現物市場の取引時間拡大

 東証は「現物市場の取引時間拡大に向けた研究会」で制度見直しに関する検討を行った。研究会は夜間取引(21~23時)、夕方取引(15時半~17時)、取引時間延長(~16時)の3案について検討した。これを踏まえて東証は投資家や証券会社と議論を行い、2014年中に結論を出そうとしている。導入時期は2年程度先と見られるが、この間に証券会社等ではシステム対応や人員体制の変更、投信の事務フローの検討や準備を行う必要がある。

店頭デリバティブ市場改革

 金融危機を踏まえたG20コミットメントにより各国で市場インフラの利用義務づけ等が進んでいる。既に主要国では法律(米国ではドット・フランク法、日本では金商法の一部改正)は成立し、監督官庁がルール作りと導入を段階的に進めている。この改革により、市場参加者は①清算機関の利用、②当局もしくは取引情報蓄積機関への報告、③電子取引基盤の利用が義務づけられ、④非清算デリバティブ取引に係る証拠金規制に服するようになる。さらに各国の規制の枠組みに違いがあるため、クロスボーダー取引に係る対応負荷は高くなる恐れがある。

投信改革と投資運用業の強化

 金融庁は投信改革と資産運用業の強化に向けた環境整備について2014年中にとりまとめる。投信改革では投資目的やライフステージを踏まえた商品提供に向けた態勢構築の推進や、運用者の運用履歴を含めた運用態勢の透明性向上を行おうとしている。資産運用業の強化では、情報開示の充実、顧客との利益相反の防止、運用のプロとなる人材の育成を促そうとしている。投信会社や販売会社はビジネスモデルの変更が求められる可能性もある。

NISAの充実・DC年金の見直し

 金融庁はNISAの一層の浸透に向け、制度の拡充を検討している。2014年夏の税制改正要望では年間投資枠の拡大や子供向けNISAの創設などを取り上げた。来年以降、非課税期間(現在5年)の延長やNISA実施期間の延長ないし恒久化についても議論されると考えられる。

 また厚労省は個人型DCの加入資格を第三号被保険者(専業主婦等)、公務員、企業年金の加入者等に拡大する検討を行い、2015年の通常国会に法案を提出するとみられる。実現すれば個人型DCに加入可能な人が大幅に増え、NISA導入時に似た金融機関間の競争も予想される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

金子久Hisashi Kaneko

金融イノベーション研究部
金融制度イノベーション研究室長
専門:個人金融マーケット調査

片山謙

片山謙Ken Katayama

川橋仁美Hitomi Kawahashi

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:内外金融機関経営、ALM、リスク管理

野崎洋之

野崎洋之Hiroyuki Nozaki

リテールソリューション企画部
上級コンサルタント
専門:リスクマネジメント、リスクファイナンス

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