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市場の成長が期待される中国私募ファンド

2014年12月号

ホールセールソリューション企画部 主任コンサルタント 井上まり

中国資産運用業界では規制改革により私募ファンドに係る法整備が進み、今では私募ファンドが市場の7割を占めるまで拡大してきている。登録義務化による規制強化と同時に設定・運用・オペレーション面での規制緩和が実行されたことが背景にある。

私募ファンドを中心に急拡大する中国資産運用市場

 中国の資産運用残高は2014年6月の時点で240兆円に達した。日本の資産運用残高が391兆円(2014年3月末時点)であることから、中国の資産運用市場は日本の市場規模に着実に近づいてきているといえる。

 中国の資産運用市場の構成は、2008年時点では公募ファンド8割、私募ファンド2割であったが、近年の私募ファンドの拡大により、2014年6月時点では私募ファンドの割合が全体の7割強となっている(図表1)。私募ファンドは主に、分離保管口座・年金運用、ヘッジファンド、集合理財(※1)に分類できる(図表2)。いずれのファンドも絶対リターン追求型であり、富裕層投資家等による投資ニーズの高い商品である。ただ、図表1では私募ファンドが急激に伸びてきているように見えるが、これは純粋な成長によるものだけではない。今まで規制監督下に置かれていなかった投資マネーの数値が、規制改革によりファンド投資額として数字に表れるようになってきているのである。

登録義務化と同時に設定・運用面で規制緩和を実行

 近年の中国資産運用市場の急激な拡大の背景としては、2013年6月1日に中国証券監督管理委員会(CSRC)による(新)証券投資信託法(Securities Investment Funds Law)の施行が挙げられる。従来の証券投資信託法では公募投資信託のみが規制対象であったが、新しい法律では一部の私募ファンドも規制の対象となったため、私募ファンドの数字が資産運用市場の残高として“見える化”してきている。

 私募ファンドに係る規制改革のポイントは主に2つある。1つ目が、前述のように、今まで規制監督外で運用されていた投資マネーについても、CSRCの定める基準に達していれば、CSRCによって規制されていくことになった点である。中国株式・債券・ファンドに投資する私募ファンドで、資産運用額が1億元以上、適格投資家が200名以上存在するファンドについては、中国証券投資基金業協会(Asset Management Association of China)への登録・情報開示が義務付けられ、CSRCの管轄下に置かれることとなった。なお、(新)証券投資信託法は上場証券に投資する私募ファンドのみを対象としており、当面、プライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルといった非上場投資証券に投資することが多いファンドは規制対象外となっている。

 二つ目のポイントは、規制強化だけでは市場の縮小に繋がる可能性があるとの懸念から、当局がヘッジファンド設定に係る緩和政策も同時に実施したことである。従来、ヘッジファンドは信託会社をファンド設定の器として利用しなければならなかったが、規制改革によりファンドの設定には信託会社だけでなく、ファンド・マネジャー自身によるものや、証券会社や運用会社の器を使ったファンド設定も可能となった。信託会社は中国銀行業監督管理委員会(CBRC)の管轄下にあるため、信託会社をファンド設定の器として利用した場合、当該ファンドはCBRCによる厳格なリスク管理規制の対象となり、投資家は比較的高額なファンド管理手数料を支払う必要があった。規制改革により信託会社を利用する必要がなくなり、ファンド管理関連のコスト負担を軽減できることは、多くの私募ファンド・マネジャーに好意的に受け止められているようである。こういった一連の規制改革が私募ファンドの成長を促進させている。

 証券会社傘下の資産運用会社による集合理財もめざましい成長が見られるが、これは2012年に実行された規制改革によるところが大きいと考えられる。CSRCは証券会社による資産運用事業に係る規制改革を2011年9月に試験的に導入し、2012年10月に本格導入した。具体的には、個別株投資や自己取引の投資上限枠を廃止したことや、中期債券や保証付き債券等への投資ができるようになった。このような規制緩和が運用の自由度を高め、全体の成長を押し上げたと考えられる。

非コア業務のアウトソース認可により今後の業容拡大に対応

 これまで述べたように、当局の規制強化と緩和両面からの政策アプローチにより私募ファンドは拡大してきている。一方で、運用会社にとっては資産運用残高の拡大はオペレーションの負荷を高めることを意味する。中国当局はこの点についても柔軟な姿勢を示した。(新)証券投資信託法により実施された規制改革の中で、私募ファンドを対象として非コア業務のアウトソースを認可したのである。日本では資産運用のアウトソースに関する明確な規制がなく運用会社としては手探り状態でアウトソースをしているわけであるが、中国の場合、私募ファンドの更なる拡大を見越して当局が明確に非コア業務のアウトソースを認可した。今年7月に実施した野村総合研究所によるインタビューでは、中国国内大手信託銀行や大手証券会社、ITベンダーによるBPOサービスへの参入が確認された。規制改革から1年未満でこれほどの数のプレーヤーが参入している事実は、BPOの浸透に対する期待の高さの表れであると言える。

 ファンドの設定・運用・オペレーションの観点での包括的な規制緩和が実行された今、今後さらなる私募ファンド市場の拡大に大きな期待が寄せられる。

1) 証券会社顧客資産管理業務試行弁法(2004年)により証券会社は複数顧客に向けた集合資産管理業務を行うことができる。集合理財商品は投資目的および最低投資金額に応じて、集合理財、小集合理財、定向理財資産管理の3種類が設定されている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

井上まり

井上まりMari Inoue

金融デジタル企画一部
主任コンサルタント
専門:金融市場

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