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量的・質的金融緩和の効果はどこまで波及したか

2014年12月号

未来創発センター戦略企画室 上級エコノミスト 佐々木雅也

異次元とされる今回の金融緩和であっても、その効果が実体経済に波及する経路は銀行貸出を通じてである。アベノミクス以降、銀行貸出は確かに増えてはいるものの、銀行の預金超過の状況を大きく転換させるほどではない。

異次元緩和効果の実体経済への波及の鍵は?

 黒田日銀による金融政策は、デフレマインドを払拭するというその狙いもあって、人々の期待の変化という点に自ずと注目が集まる。しかし、政策によって人々の期待を動かそうとしても、その期待に応えるだけの成果が伴わなければ、肩すかしを食らった人々の期待は元に戻ってしまいかねない。

 現に、日本銀行が四半期ごとに実施している「生活意識に関するアンケート調査」によると、消費増税の影響が大きいとはいえ、2014年9月時点の調査では、人々の暮らし向きや景況感だけではなく、アベノミクスで大きく持ち直した、先行きの地価上昇や日本経済の成長力に対する期待感の低下が続いている(図表1)。その意味でも、黒田日銀による金融政策が「期待」だけではなく、実体経済にどのように波及していくかについて確認しておくことは非常に重要である。

 黒田総裁は、量的・質的金融緩和導入直後の記者会見やその後の講演のなかで、今回の金融緩和の効果は以下の3つの経路を通じて実体経済に波及することを想定していると述べている(※1)。

 1点目は、長期国債をはじめとするリスク資産の購入によって、長めの金利を中心とした資金調達コストが低下し、企業などの資金需要が増えるという経路である。2点目は、日銀が長期国債を大量に購入する結果、投資家が株式や外債などへ運用資産をシフトさせるポートフォリオ・リバランス効果であり、これによって銀行からの貸し出しが増えることが期待されている。そして3点目は、大胆な金融緩和の実施にコミットすることによって人々が予想するインフレ率が上がれば、実質金利が低下し、設備投資や住宅の建設といった民間の(資金を含めた)需要が喚起されるというものである。

 要するに、量的・質的金融緩和の政策手段そのものは確かに次元が違っても、金融機関側の貸し出しへの誘因を高めつつ、名目・実質両金利の低下を通じて借り手側の資金需要を増やそうとしているという点では、従来の金融政策の狙いと大きく変わるものではない。結局のところ、今回の政策による実体経済への影響を考える上で大きな鍵を握るのは、実は銀行からの貸し出しがどこまで増えるかの一点にかかっていると言える(※2)。

量的緩和から1年半でも反転しない銀行の預貸率

 それでは、実際の銀行貸出の状況はどのようになっているのだろうか。

 図表2は、銀行の貸出残高の前年比と預貸率(=貸出残高÷預金残高)の推移を示している。まず、銀行の貸出残高の動きを見てみると、2010年には前年比マイナス2%前後で推移していた銀行からの貸し出しは、2014年に入ってからは同プラス2%台で推移している。

 もっとも、野田前首相の衆議院解散によって円安・株高の流れが始まった2012年11月には、銀行の貸出残高は既に同プラス1.2%に達していた(※3)。つまり、アベノミクスが始まる前から資金需要は緩やかに回復していたのであり、このことから、今回の金融緩和やそれに対する期待感の醸成が、ある程度は資金需要を高めたとは言えても、それだけで回復すべてを説明しようとするのは無理があることが分かる。

 また、銀行貸出の増加基調がここ数年、定着した結果、図表2にあるように、1990年代前半から低下が続いていた銀行の預貸率も下げ止まりつつある。しかし、この程度の変化では、銀行が長らく悩んできた膨大な預金と貸出金とのギャップが解消し始めたとは到底言えない。

 銀行は、その膨大な預貸ギャップを埋めるための重要な運用手段である国債を日銀に吸い上げられており、ポートフォリオ・リバランス効果による貸出増の動機は(採算面を除けば)確かに揃っている。それでも銀行貸出の伸びが預貸率を反転させるほど強くならないのは、いくら黒田日銀が物価目標に対する強いコミットメントを示し、マネタリーベースを積み上げて人々の「期待」の変化を促しても、それだけでは実体経済での資金需要の増加に限界があることを示してはいないだろうか。

 そうだとすれば、10月末に行われた量的緩和の拡大ではなく、企業が日本国内で投資をするハードルを一段と下げていく政策、例えば、既に行われている設備投資減税や研究開発減税の拡充だけではなく、企業の人手不足の解消を促進する政策といったものの方が、資金需要の拡大にはより効果的なはずだ。

 人手不足の解消には、待遇の改善も一つの方策ではある。しかし研修や再教育など、企業による人への投資を助成することでスキルの向上を促し、ミスマッチの解消につなげることや、ロボット産業など、人手をかけない形で企業の生産性を上げる事業への投資促進は、中長期的な日本経済の基礎体力を高めることにもつながる。こうして新たな投資のために資金を調達する動きが一段と活発化すれば、人々の期待は、量的緩和の拡大という無理をしなくても、経済成長という裏付けに基づいた確かなものへと変わっていくことになるだろう。

1) 2013年4月4日に行われた黒田総裁の記者会見、同年4月12日に行われた黒田総裁の講演より参照。「総裁記者会見要旨」2013年4月5日。http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1304a.pdf『量的・質的金融緩和─読売国際経済懇話会における講演─』http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130412a1.pdf
2) ここ数年は大規模な企業買収など、株式の異動に伴う企業の資金需要も増えている。しかし、こうした貸出金は、一義的には対象株式の保有者へと流れていき、設備投資といった実際の経済活動にすぐにつながるとは限らない。このため、銀行貸出の伸びと実際の経済活動との関係を見る上では、この種の資金需要を割り引いて考える必要がある。
3) 銀行の貸出金の拡大は、量的・質的金融緩和が実施される前月の2013年3月までにさらに加速しており、この時点では前年比プラス1.9%に達していた。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

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