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エクイティ・ファイナンスのプリンシプル

2014年11月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

日本取引所自主規制法人が策定したエクイティ・ファイナンスのプリンシプルは、上場会社がエクイティ・ファイナンスに際して踏まえるべき基本的原則を明らかにし、市場の公正性の向上を図るものである。

不正・不適切なファイナンスの横行

 東京証券取引所と大阪取引所を傘下に置く日本取引所グループ(JPX)の自主規制部門を担う日本取引所自主規制法人は、2014年10月、「エクイティ・ファイナンスのプリンシプル」を策定した(図表参照)。これは、上場会社が新株発行を伴う資金調達(エクイティ・ファイナンス)を実施する際に、株主や投資家の利益を損ないかねない手法をとらないよう、踏まえておくべき基本的なプリンシプル(原則)を明らかにしている。

 エクイティ・ファイナンスの実施は、株式上場の重要な目的の一つである。しかし、新株を発行すれば、既存株主の権利は必ず希薄化する。従って、エクイティ・ファイナンスは、既存株主が、権利の希薄化に伴って蒙る不利益を補って余りあるメリットを享受できるような形で実施されなければならない。

 端的に言えば、新株発行によって調達された資金が、企業価値の向上につながるように使われれば、既存株主は、短期的に持ち分権の希薄化という不利益を蒙ったとしても、中長期的な一株当たり利益の向上というメリットを享受することができるのである。

 ところが、近年、日本の株式市場では、株主・投資家の利益を著しく損なうような不適切なエクイティ・ファイナンスが少なからず行われてきた。大幅な希薄化や支配株主の異動を伴うような第三者割当て、株価を大幅に下落させるような公募増資などである。

 また、「箱企業」と呼ばれる実態のない上場会社を通じて、エクイティ・ファイナンスの名を借りた違法な資金集めが行われたり、大規模公募増資に着目した違法なインサイダー取引が行われるなど、投資家の市場に対する信認を損なうような不正も横行した。

再発防止への制度改革

 こうした不公正あるいは不適切なエクイティ・ファイナンスをめぐっては、明らかに違法なケースの摘発が進められるとともに、同じような事態の再発を防止するために様々な制度改正が行われてきた。

 例えば、大規模な希薄化や支配株主の異動を伴う第三者割当増資については、取引所規則改正によって、経営陣から独立した者による増資の必要性や相当性に関する意見入手や株主総会決議などで株主の意思を確認することが義務付けられた。公募増資の問題をめぐっても、インサイダー取引規制が強化され、増資の決定などのインサイダー情報を伝達したり、それに基づく投資推奨を行うことが禁じられた。

 また、従来の増資手法が批判を浴びる中で、新たに市場関係者の注目を集めるようになったライツ・オファリング(譲渡可能な新株予約権を既存株主に対して無償で割当てる増資手法)をめぐっても、引受証券会社による権利行使の保証を伴わないノン・コミットメント型と呼ばれる形態が株主・投資家の利益を損ないかねない形で利用されているとして、証券会社による審査や株主総会による承認を経ないものについてはライツ(新株予約権)の上場を認めないとする制度改正が行われた。

プリンシプルの重要性

 これらの制度改正は、いずれも一定の行為を罰則や上場廃止といった制裁を科すことで抑止する、いわばルール・ベースの規制強化である。しかし、ルールをどれだけ厳しくしても、不正を行おうとする者はその抜け穴を見つけようとするだろう。他方、あまりに厳しいルールが導入されれば、上場会社による正当なエクイティ・ファイナンスの実施が妨げられてしまうという弊害も生じかねない。

 今回策定されたエクイティ・ファイナンスのプリンシプルは、上場会社やそのファイナンスに関与する証券会社、公認会計士、弁護士、コンサルタントといった関係者が共有すべき基本原則を明らかにすることで、そうしたルールだけに頼った規制に伴いがちな陥穽を避けようとするものである。

 プリンシプルは、原則であるがゆえに、抽象度が高く、曖昧にも思える。実定的なルールではないので、それに違反した場合でも、直ちに制裁を科されることはない。また、今回策定された内容自体、人によっては、「当たり前のことが書かれているだけ」と感じるかもしれない。

 しかし、会社法の研究者である神田秀樹教授は、日本市場の大きな問題は、何が自由であるべきで、何が不正・不公正であるかという線引きに関するコンセンサスが欠けていることだと指摘する(本誌2013年12月号掲載の筆者との対談での発言)。市場が備えるべきプリンシプルを「見える化」し、当たり前のことだという感覚を幅広い市場関係者の間で共有することが、市場の公正性を高めるために求められているのである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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注目ワード : ライツオファリング

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