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金融モニタリングレポートに見るリスク・ガバナンスの重要性

2014年10月号

ERM事業企画部 上級研究員 小林孝明

新しいスタイルの金融検査が開始され1年が過ぎた。2014年7月に金融庁より、この1年間の新しい検査の成果として『金融モニタリングレポート』が公表された。その中では特にコンプライアンスやリスクデータ分析など、“リスク・ガバナンス”に関する領域が着目されている。

 金融庁が公表した『金融モニタリング基本方針』(※1)に基づいた新しいスタイルの金融検査が始まってから1年が経過した。新しい金融モニタリングでは、オフサイトでのヒアリングなど立入検査以外の情報収集・分析を活用し、従来の検査手法における金融機関側の負担を軽減する狙いがあった。しかし、この1年で実際に検査対応した金融機関側の感想を聞くと、立入検査の負荷が減ったという意見もあるものの、逆にヒアリングの負担が増大したと感じる先もあるなど、すべての金融機関において負担軽減を達成できたわけではなかったようである。

 2014年7月4日に、この1年間の成果として『金融モニタリングレポート』(※2)(以下、本レポート)が公表された。そこで本レポートから当局の意図を分析してみたい。

『金融モニタリングレポート』の概観

 本レポートは、第Ⅰ章では金融機関を取り巻く経済・市場動向の評価、第Ⅱ章以降で個別の金融機関運営に対する評価を展開している。特に金融モニタリングの中で業態毎に水平的レビュー(※3)を実施した結果として、各業態の課題とその事例(プラクティス)を多数紹介している。

 従来の金融検査の結果公表(※4)においては、“うまく機能していない”事例を紹介するのが通例であったが、本レポートでは、“うまく解決している”事例の紹介を試みている点は非常に参考になる。金融自由化を迎えてから当局の具体的な考えが見えにくくなっていたが、水平的レビューの公表結果を解読すれば、当局が何に重きを置き、何を良いプラティスであると考えているのか、具体的な考えが伝わりやすくなる。ただし、どんなプラクティスであっても、自らの金融機関に合致するよう十分に咀嚼することが重要であるのは言うまでもない。

 ただ、初年度ということもあるだろうが、紹介されているプラクティスは“ベスト”と明確にいえるレベルのものはあまりないと感じた。例えば社外取締役に関するものでは、「社外取締役に必要なサポート体制を強化する事例がみられる」という記載はあるが、ベストプラクティスが何か良く分からず、やや消化不良の感がある。

金融機関に期待されるリスク・ガバナンス態勢

 本レポートにおいて、特に着目されているのがコンプライアンスやリスクデータ分析など、いわゆる“リスク・ガバナンス”に関する領域である。

 例えばメガバンク・グループについては、グループ持株会社が海外のG-SIFIs(※5)などの金融持株会社と比して遜色ないようにガバナンス態勢を強化することが重要だと明言している。持株傘下には様々な金融機能を持つグループ会社が存在するが、もし特定の傘下会社(例:子銀行)の役職員だけが持株会社を兼務した場合、他の傘下会社(例:子信託)の業務特性への配慮が不足し、リスク分析の際などに網羅性に漏れが出る懸念がある。そこで、重要なグループ会社各社から各々のリスク実態を理解している役職員が持株会社を兼務することで、結果として、グループのリスク分析などガバナンスがスムーズに進められることが期待されていると考えられる。

 地域銀行については、厳しいトーンの指摘がなされている。本レポートでは「収益管理業務は、一般に企業経営において基本であるが」とわざわざ前置きしつつ、一部の地域銀行は、リスク・ガバナンスの基本である収益性の把握すらできていないと記載されている。企業経営が成り立っていない現実に苦言を呈している内容であり、大いに反省すべき点である。

リスク・ガバナンスを支えるデータ基盤の重要性

 リスク・ガバナンスの実施にあたっては、経営実態の把握・分析のために、リスクデータを保持するシステム基盤を持つことが必須である。2008年に起きた金融危機では、リスクデータの管理態勢が整備されていた企業と、そうでない企業に大きな差がでたことが分かっている(※6)。その反省から、現在、国内のメガバンクを含むG-SIFIsでは、共通のフォーマットを意識したリスクデータの収集基盤の構築が進められている。

 このデータ収集基盤の構築においては、地球規模でグループ各社に分散して存在する膨大なリスクデータを特定し、抽出・集約し、保管する必要がある。その際、それぞれのデータ毎に単位や期間が異なっていたり、重複や欠落が存在していたりするため、非常に細やかなデータ補正作業が必須である。このように構築の手間は膨大ではあるが、それだけに期待される効果も大きい。例えば、各金融機関が自行のリスク・ガバナンス状況を把握・分析できるのはもちろんのこと、当局へ報告されたのちは、本邦金融機関全体で集計された「本邦のリスクデータ」として活用することも可能となる。さらに、グローバルに各国当局がそれぞれの国の金融リスクデータを持ち寄ることで「グローバルな金融システミックリスク」(※7)の動きを把握できるようにもなるのだ。

 もし金融危機時にこのような究極のリスクデータ集計システムが存在していたら、今とは違う世界を迎えていたことは想像に難くない。今まさにこのグローバルなデータ集計システムの一端が構築されようとしているのである。

1) 2013年9月に金融庁より公表された新しい検査の実施方針が『金融モニタリング基本方針』であり、従来の立入検査を中心とした検査スタイルから、事前の情報収集やヒアリング等をより重視する方針に変更された。
2) 2014年7月4日 金融庁『金融モニタリングレポートの公表について』http://www.fsa.go.jp/news/26/20140704-5.html
3) ある特定のテーマについて複数の金融機関を当局が統一目線でレビューし、最も有効な経営機能や業務機能を「ベスト・プラクティス」として推奨し、業界全体の向上・高度化を促すというもの。
4) 2014年7月30日 金融庁『金融検査結果事例集(平成25事務年度版)』http://www.fsa.go.jp/news/26/ginkou/20140730-1/01.pdf
5) グローバルなシステム上重要な金融機関。
6) 2009年2月 金融ITフォーカス『リスク管理の高度化とリスクコミュニケーション』
7) 2013年11月に、産学官にわたる経済学、ファイナンス、金融情報学などの研究者や実務家が金融システミックリスクに関する課題認識や研究成果を深める学術的研究会『金融ネットワーク研究会』が発足している。http://www.financialnetworkcrisis.org/fnc/index.php

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

小林 孝明

小林孝明Takaaki Kobayashi

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:リスク経営管理、規制動向調査・分析

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