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店頭デリバティブ規制により求められるグローバル・オペレーションの再構築

2014年10月号

金融ITイノベーション研究部 主任コンサルタント

店頭デリバティブ規制の強化は、金融機関のビジネス、オペレーションに大きな影響を与えつつある。システムにおいては、グローバルで統一すべき機能とローカルで強化すべき機能を峻別することが一層重要となる。

店頭デリバティブ市場の規制強化

 2009年9月のピッツバーグ・サミットでのG20共同声明を受け、店頭デリバティブ市場の規制強化が進められている。具体的には、①取引情報蓄積機関への報告、②中央清算機関を通じた清算、③電子取引基盤での取引、④清算されない取引に対する資本賦課の4つである(※1)。これら施策により、店頭デリバティブ市場の安全性・透明性の向上、ひいてはシステミック・リスクの低減が期待されている。

 各国の進捗は、世界の金融システム安定化を目指すFSB(※2)も注視する。主要国の実施状況に対するFSBの評価は、1)米国では①~③が一部導入、2)日本は①、②が導入、3)欧州は①が導入となっている(※3)。また、④については、2015年12月の施行に向け、グローバルで議論がなされているところである。このように世界的に進む店頭デリバティブ市場の規制強化だが、金融機関のビジネス、オペレーションでは、無視できない変化が起こりつつある。

ビジネス:取引市場の分断

 店頭デリバティブは、取引の自由度の高さから、国を跨いだ取引が珍しくない。実際、BISの統計によれば、金利デリバティブでは過半の取引が国を跨いだ取引となっている。しかし、規制強化においてG20で共通の目標を掲げつつも、具体化では各国の詳細・進捗が異なる実情は、こうした特性に負の影響をもたらす可能性がある。

 ISDA(※4)が行った調査によると、規制の進展に伴い、「市場の分断」とも言える事象が一部で生じていると言う。他の主要国に先駆け米国で上述の③電子取引基盤での取引に関する規制導入が進むにつれ、米国ディーラーと欧州ディーラー間のユーロ金利スワップ取引が大きく減少したとされる(※5)。電子取引基盤を通したデリバティブ取引は、欧州でも議論中であるが(※6)、開始となれば、取引インフラの分散、規制の違いにより、更に欧米間など地域を超えた取引相手との取引を手控える動きが増すのではないかと懸念する関係者もいる。

オペレーション:ブッキング先LEの変更

 規制強化は、金融機関のグローバル・オペレーションにも大きな変化をもたらしている。従来、金融機関においては、資本効率・業務効率追求のため、デリバティブ取引のブッキング(ポジション計上)は、金融グループの本国で集中的になされる傾向が強かった。しかし、こうしたブッキングの慣行が規制により大きく変わりつつある。ある欧州の大手銀行では、これまでデリバティブ取引のブッキングをロンドンのリーガル・エンティティ(以下、LE)にて集中的に行っていたものを、現在、顧客の所在する地域のLEに変更しているところである。具体的には、米国顧客との取引については米国のLEに、アジア顧客との取引についてはシンガポールのLEにという具合である(図表)。

 その背景としてまず挙げられるのは、大手金融機関に対する再建・破綻処理規制(※7)である。これは、「大きすぎて潰せない(Too big to fail)」金融機関に関し、当該金融機関が破綻した際の影響をできるだけ国内で完結させ、海外への余波を軽減することを狙いとしたものである。現物証券と違い、デリバティブの場合、契約期間中も証拠金の受渡しがあるなど長期にわたり権利関係が続く。先の金融危機では、リーマン・ブラザーズ(英国法人)の破綻処理に際し、海外顧客と同法人の取引の多さが解決に時間を要した遠因となった。

 また、他の要因としては、デリバティブ規制の域外適用も指摘できる。例えば、米国CFTC(※8)規則にて定められたSD(スワップ・ディーラー)規則においては、米国外にあるLEであっても、米国顧客との取引(※9)が一定額以上あれば、SD登録義務付けの対象となる。この場合、欧州やアジアなど米国外の顧客との取引についても、当局報告など一連の負荷がかかりうる(※10)。

求められるグローバル・オペレーションの再構築

 デリバティブ取引については、欧米市場が日本市場に先行し発達した歴史的経緯から、我が国証券会社では、取引報告などのバック機能のみならず、約定や値洗いなどフロント、ミドルの機能も含め、欧米亜で異なる業務システムを構築しているところも少なくないと聞く。しかし、その延長では、各地における規制の進展に伴い、システム対応の負担が一層重くなることが懸念される。今後については、地域毎に業務プロセスの見直しを続けるのではなく、グローバルで統一すべき機能とローカル対応を強化すべき機能とを横串で峻別することが検討に値するのではなかろうか。

 すなわち、コンファメーションなどの約定処理やグローバル・リスク管理など金融機関グループ内において標準化が求められる機能については統一性をより意識しつつ、清算機関への接続や取引報告などローカル対応が求められる機能については、各LE向けに強化を図るといった手法である。機能に応じアプローチを変えることで全社的な負荷を軽減しつつ、効率性を追求することも可能になると思われる。

 金融規制の強化は世界的な潮流である。また、その対象も本稿で挙げた店頭デリバティブに留まらない。金融機関においては、各国、及び今後の規制進展を視野に入れつつ、戦略的にグローバル・オペレーションの再構築を図ることが改めて重要となっているのではなかろうか。

1) 日本では、①はDTCCデータ・レポジトリー・ジャパン、②は日本証券クリアリング機構が主な提供機関。③については、我が国では2015年9月の導入開始が予定されている。
2) 金融安定理事会。Financial Stability Board。
3) 2014年4月「OTC Derivatives Market Reforms Seventh Progress Report on Implementation」より。
4) International Swaps and Derivatives Association。
5) 2014年7月「Revisiting Cross-Border Fragmentation of Global OTC Derivatives:Mid-year 2014 Update」などより。米国では、電子登録基盤提供会社への最終規則適用が2013年10月に、対象商品についての取引義務化が2014年2月にそれぞれ施行となった。上記レポートでは、これらを受け、米国ディーラーと欧州ディーラーのユーロ金利スワップの取引が60%超減少したとしている。
6) 欧州(EU)では、取引報告・清算については、EMIR(European Market Infrastructure Regulation。欧州市場インフラ規制)にて定められているが、電子取引基盤での取引についてはMiFID(Markets in Financial Instrument Directive。金融商品市場指令)の改訂であるMiFIDⅡ/MiFIRに従う。同指令は現在議論が継続中。
7) Recovery and Resolution Plan(RRP)とも称される。
8) 商品先物取引委員会。Commodity Futures Trading Commission。
9) 厳密には米国拠点からデリバティブの保証を受ける海外現法も含む。
10) 同様の事態は、EMIR(注6)などでも想定しうる。なお、本稿では触れなかったが、外国銀行に対する米欧規制や銀行税(英国)なども誘因としては挙げられる。前者に関しては、米国では、同国における支店外の資産が500億ドル以上の外国銀行については、2016年7月より米国銀行同様のリスク管理・資本管理が求められる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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