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欧州における証券決済期間のT+2化

2014年9月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 片山謙

欧州は、株を含めた証券の決済期間T+2化を2014年10月に予定する。一時的なフェイル増加や米国等と決済期間が異なることに伴う影響はあるが、今後のグローバルなT+2化検討の重要な先行事例となろう。

株を含めた広範な証券のT+2化

 欧州では株や債券、上場投信など広範な証券を対象に決済期間のT+2(約定日の翌々日決済)化が2014年10月6日約定分より予定されている。既に、ドイツをはじめとする3カ国(※1)が先行しているが、残りの英国(※2)を含む27カ国が一斉に移行する(※3)。

 これまで、国債に限れば米国や英国は既にT+1(約定日の翌日決済)であり、日本では現行のT+2からT+1化するためのグランドデザイン(暫定版)が日本証券業協会・国債の決済期間の短縮化に関する検討WGより14年7月17日に発表されている。しかし、投資家層の裾野が広い株等の取引についてはこれまで、欧米日の先進主要国市場でT+3が大勢を占めてきた。

 今回、欧州が米国に先駆けてT+2化を具体化するのは、域内市場の各種制度を調和するという政策目標の一つとして、インフラ改革と制度改正が進んだためである。

 インフラ改革としては、欧州中央銀行(以下「ECB」)がTARGET2 Securities(以下「T2S」)(※4)と呼ぶ新たな欧州共通の証券振替決済システム構想を06年に提案。独伊仏西4カ国の中銀と共に開発し、15年6月から17年2月にかけて24の証券集中保管機関(以下、CSD)がシステム移行するまでに具体化した。

 制度改正としては、EUが欧州共通のCSD規制案(※5)を策定。2014年4月の欧州議会議決をふまえ、9月に公示、10月に施行される。CSD規制では、証券決済リスク低減方策の一つとしてT+2化を2015年1月までに実施することが明記された。従前は努力目標的な存在だった決済期間の調和が、規制により強制されることとなった。

市場参加者への影響

 T+2化すると、短期的には、コンファメーションや決済指図の授受、照合などが間に合わないことなどによりフェイル(※6)が増える可能性がある。CSD規制によるT+2化の確定から移行期限まであまり時間がなかったため、業務プロセスの詳細について市場参加者内部や取引関係者との準備状況確認が十分に行えないことが考えられるからである。移行後に段階的に課題の洗い出しや対策が進みフェイルの抑制が図られていくものと見られるが、一時的な影響を意識しておいたほうが良さそうである。

 また、一部の投資家と証券会社の欧州株受渡についてはT+3決済が当面(年単位)続く可能性に留意したい。そもそも、CSD規制が求めるT+2化対象は、取引所など「取引の場(※7)」で行われた取引における証券会社と他の取引所参加者あるいは清算機関との決済(場決済)である。従って、機関投資家の発注に伴う取引において、証券会社と投資家の決済(顧客決済)をT+3のままとしても法令違反とはならない(※8)。

 投資家が引き続きT+3決済を求める理由として大きなものにグローバル運用の進展がある。主要市場の米国では現在T+3決済であり、欧州でT+2に対応しようとすると、例えば米国株を売却して欧州株を買い付ける際、投資家は1日分のずれを埋める資金調達などが必要になる(※9)。こうした手間とリスクを避けるため、最大市場である米国のT+3に合わせることは珍しくない。今でも、場決済でT+2を実現済みのドイツの証券について顧客決済でT+3の扱いがある。欧州全域のT+2化は、この扱いを大きく拡げる可能性がある。

 無論、証券会社が場決済をT+2、顧客決済をT+3で対応するには、1日分の資金調達や証券調達が必要となる。在庫を持つプリンシパル取引が多い債券取引はともかく、注文を取引所に繋ぐエージェンシー取引の率が高い株式では、社内のレンディング・デスクや決済委託先の銀行の貸借サービス利用に追加的なコストやリスクが生じる。今後、最終投資家を含めた負担の検討が求められよう。

クロスボーダー決済T+2化の課題と対策

 欧州のT+2化に刺激されて、米国は株等の決済期間短縮化検討を再開(※10)、豪州はASX取引のT+2化を2016年第1四半期に行うことの是非を市場関係者に問いかけた。また、シンガポールはSGX取引のT+2化を2016年迄に行う方針を打ち出した。日本でも株等のT+2化の検討機運が高まりつつある。これらが実現すれば顧客決済のT+2化が進むと思われるが、日本のような市場より東側に遠く離れた地域の機関投資家にとっては、時差による実務上の課題が残る。

 例えば、日本の投資家が欧州市場に直接発注する場合、VWAP(出来高加重平均)取引であれば約定価格の確定は欧州時間のクローズとなる。日本は既に深夜であり、東京のバックオフィス部門や受託銀行、事務委託先等がコンファメーションを確認できるのは通常、翌朝となる(図表)。内容に齟齬がなければ特に問題にならないが、齟齬があれば現地の証券会社と連絡をとり修正、再確認する必要が生じる。関係する当事者が少なければ短い時間で対応できるが、投資家側、カストディ、証券会社それぞれで複数の部署が関係するような場合は時間がかかる。時差の関係から日本と欧州の間で営業時間帯の重なりが少ないため、連絡手段の電子化による効率化を進めたとしても、決済日の前日(S−1)中に修正、再確認作業が完了できない可能性がゼロとはいえない。

 決済日の前日までに準備が整わない場合、CSDが従来から主流である夜間バッチ処理を行っていると、止むを得ずフェイルとなる可能性が高い。しかし欧州でT+2化を推進する大きな要素となったT2Sでは、夜間バッチ処理に加えて、決済日(S日)のリアルタイム処理を充実、S日の午後4時まで決済指図を受付可能とした(※11)。そのため、万が一、決済日前日までに修正、再確認ができなくとも、決済日当日までにCSDに決済指図を入れられるよう市場関係者の業務プロセスが対応できれば、フェイルの抑制につながる。

 クロスボーダー取引では制度変更にあたって時差等の問題もあり様々な実務上の課題が生じうる。T+2化においても、上記のように課題の洗い出しと対策の検討を進めることで、円滑な移行の実現が期待される。

1) ブルガリア、ドイツ、スロベニア。
2) 英国では、国債については既にT+1が実現しているので、国債のT+2化は対象外。
3) 決済期間の具体的なルールは証券取引所等が定める。
4) T2Sは欧州各国のCSDから証券振替決済機能のアウトソースを受けて、中銀マネーを用いたより安全な証券決済方式に統一し、併せて欧州クロスボーダー証券決済コストを引き下げようとするもの。
5) CSD規制は、欧州各国間の制度の違いによる壁を下げ、CSD間の競争を促進し、また、CSDをより頑健な存在にするものとして策定、導入されることとなった。
6) 証券と資金の受渡が決済期限までに行われず、後日の処理となること。
7) 証券取引所、MTF(多角的取引システム)、OTF(適格取引システム)。
8) 債券取引で主流の店頭取引もCSD規制の対象ではないが、上場取引との決済期間のギャップによる市場参加者の負担が懸念されるため、ICMA(国際資本市場協会)は債券店頭取引(売買)にかかる標準的な決済期間を2014年10月6日約定分よりT+2化する方針を2014年5月に発表した(レポ取引は現在のT+2からT+1に短縮)。
9) バスケット運用では一層、市場による決済期間のずれを避ける意向が働きやすい。
10) 欧州のT+2化に刺激され、米国のCSDであるDTCCは決済期間短縮化の分析レポートを12年に発表。米国証券業金融市場協会(SIFMA)も短縮化を支持している。もっとも、具体的な短縮化の移行時期はまだ明示されておらず、欧州とは年単位でずれる可能性が高い。
11) T2Sの処理料金は夜間バッチ処理より2割高となる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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片山謙

片山謙Ken Katayama

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