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米銀における預金関連手数料引上げと地域銀行経営への示唆

2014年8月号

NRIアメリカ ヴァイスプレジデント 吉永高士

米国では、銀行にとって長らく最大の手数料ビジネスであり続けた預金関連手数料が金融危機後の規制強化を受け4年連続で減少した。しかし、口座維持手数料の引上げや有償化を中心とする彼らの取り組みは、邦銀の預金事業モデル革新に向けた有用な視座を呈示している。

4年連続で預金関連手数料が減少

 FDIC(米国連邦預金保険公社)の集計によると、2013年の米銀の預金関連手数料は前年比3.8%減の325億ドル(約3兆2,500億円)と、4年連続の減少となった。米銀にとり、預金関連手数料は四半世紀以上前から現在に至るまで最大の手数料項目であり(※1)、かつ4年前までは米銀手数料ビジネスの最大の成長分野だった。しかし、2008年のグローバル金融危機をきっかけに導入されたデビットカード加盟店手数料への上限設定と当座貸越手数料徴収に際しての顧客同意の事前取得義務化という2つの規制強化により合計で兆円単位の大幅かつ構造的な落ち込みや既存収益機会逸失をみせている(図表)。

 預金関連手数料の落込みは、大部分の米銀にとり中核業務であるリテール(個人・中小企業顧客)向け地域銀行業務の収益モデル構造に対し深刻なインパクトをもたらしている。例えば、大手米銀のバンク・オブ・アメリカ(以下、バンカメ)のリテール部門では預金関連手数料収入がピーク時の2008年に比べ規制発効直後の2011年には39%減の42億ドルにまで激減した。また、米銀の預金口座1件当りの関連費用は200~300ドルといわれるが(※2)、バンカメに限らず他の大手米銀や地銀などでも広範な顧客基盤の不採算化や著しい低採算化をもたらしたことが指摘されている(※3)。米銀全体の粗利益や純利益は信用コスト減も相俟って、2013年に過去最高益を更新したが、預金関連手数料に関する限り、事業モデルはまだ修整途上にある。

口座維持手数料の引上げや有償化が広範に拡がる

 米国で預金関連手数料を構成する代表的なものはデビットカード加盟店手数料、当座貸越手数料、振替・振込手数料、決済性預金の口座維持手数料、他行カードのATMサーチャージ、銀行間手数料である。これらの手数料のうち、広範な米銀が預金関連手数料の落ち込みに対抗して実施してきた施策のほとんどは、決済性預金への口座維持手数料の引上げや有償化に関するものである。

 決済性預金の口座維持手数料の条件見直しについては主に、①口座維持手数料無料口座の提供打切り、②口座手数料有料口座の手数料免除条件の引き上げ、③口座維持手数料有料口座の手数料水準の引き上げ、という3つの観点での徴収強化の動きが拡がっている。

 ①については、口座維持手数料無料の決済性預金(無利子型)を提供する米銀の割合が2009年の76%から4年後の2013年には38%へとほぼ半減している(※4)。いまや米銀の約3分の2が徴収を基本としている格好だが、現在でもなお、大手米銀や大手地銀にとどまらず、中堅・中小地銀や信組など広範な金融機関において口座維持手数料無料の決済性預金の提供中止の動きは続いている。

 ②についても、口座維持手数料有料の決済性預金口座で一定残高(平残)を維持した場合に、同月の手数料免除を適用する残高基準の平均値は2008年に109ドルで底打ちした後に、2012年には723ドルにまで引き上げられ、2013年も668ドルと高止まり傾向が続いている。

 ③の口座維持手数料の平均値については、無利息型で2009年の月1.77ドルを底に2013年の5.54ドルへ、有利息型でも2006年の月10.74ドルを底に2013年の14.64ドルへと過去最高かそれに準ずる水準にある。

日本における預金関連手数料収入機会追及への示唆

 米国で決済性預金の口座維持手数料の導入が広範な銀行に初めて拡がったのは、金利自由化完了前後の80年代前半である。当時は貯蓄性預金の金利が採算的にも高くなりすぎたなかで、金利感応度が低い決済性預金の収益性を高める代替的収益源を確保する意味合いがあった。その後、80年代末期に中小銀行を中心に口座維持手数料無料を打ち出す動きが始まると、大手や中堅規模の銀行も追随し、90年代末までには無料口座が定番化した。それが可能になったのは、決済性預金を中心とする低コスト預金の付加価値を金利リスクをとらずに市場金利で運用した場合の調達利ザヤとして認識する収益評価法が浸透したことが大きく関係している。これにより米銀は支店(網)を基盤とする地域銀行ビジネスにおいて、金利サイクルを通じ粗利益の6割以上を低コスト預金で上げるという事業モデルを確立し、口座維持手数料も低コスト預金事業戦略と整合的に設定されていった。

 上記までの経緯を振り返るだけでは、日本の銀行が同時期に置かれていた経済・金利、規制等の環境の違いに照らすとさほど参考にならない。しかし、金融危機以降から現在に至る米銀の経営状況をみると、超低金利が長引くなかで低コスト預金の調達利ザヤが実質的にはほぼゼロであり、またバーゼル3対応等の資本増強もあって米銀のROEは株主資本コストを下回る水準で推移しているなど、多くの重要な収益指標で邦銀との共通性がある。その中での口座維持手数料の引上げや導入の動きである。

 日本の銀行経営者との過去二十余年にわたる議論などから感じる限り、多くの邦銀関係者は預金の口座維持手数料徴収の合理性に同意しつつも、日本での導入は「公共性」と「競合他社がやらない」を理由に諦めていたように思われる。しかし、地域銀行による地元経済への密着や貢献という点では、米地銀にも邦銀同様の強い矜持があるという印象を筆者はもっている。口座維持手数料を部分的にでも導入したことでそれが直ちに失われたわけではないし、また競合他社が一律同調せずとも、健全で効率的な金融機関として地域に奉仕し続けるために、それぞれの判断で必要な手数料を導入するところが日本でもあっていいはずだ(※5)。いずれ日本でデフレ脱却が実現でき、日米ともにゼロ金利時代が終わるときにこそ、邦銀は預金事業モデル革新の機会を創出することができるのではないか。

1) 2013年の米銀の預金関連手数料の非金利収益に占める比率は前年比0.5ポイント増の14.1%、業務粗利益に締める比率は同0.3ポイント増の5.6%。
2) 間接費も配賦したベースでの業界コンサルタントの試算。
3) ある大手米銀の試算では、デビットカード加盟店手数料への上限設定と当座貸越手数料の事前同意取得義務化という2つの規制強化直後に10万ドル以下の預金口座では約8割が不採算状態になったという。
4) バンクレート社。決済性預金の口座維持手数料に関する他のデータについても同じ。
5) 公共性の強い決済性預金の口座維持手数料徴収の是非やありようの検討については、利用者を含むさまざまな立場からの意見を考慮せねばならないことはいうまでもないが、地域銀行経営の観点からは、単純な徴収強化や有償化だけではなく、預金残高やサービス内容の違いに応じた徴収免除を行うなど、施策面でのバリエーションは少なくない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

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