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金融機関におけるPFM(Personal Financial Management)の活用

2014年8月号

基盤ソリューション企画部 上級研究員 藤吉栄二

銀行や証券、保険など複数の口座情報を集約して一元的に表示させるPFM(個人財務管理)が脚光をあびている。米国ではライフイベント毎の目的に応じた資産形成やモバイル利用を支援するPFMベンチャーの台頭が目立つなか、「ホワイトラベルPFM」を活用して顧客の金融活動の理解に務める金融機関も登場している。

海外におけるPFMのトレンド

 PFMとは、Personal Financial Managementの略称であり、「個人財務管理」あるいは「個人金融管理」と呼称される。PFMの厳密な定義はなく、お金の管理を手助けするソフトウェアの総称として扱われる。家計簿ソフトウェアもPFMの一種であるが、一般的にはID連携(アカウントアグリゲーション)機能を用いて複数の銀行・証券やクレジットカードなどの口座情報を一元的に確認できるオンラインサービスを示すことが多い。

 PFMの歴史は古い。すでに2000年代初頭には、シティバンクやバンク・オブ・アメリカなどの大手銀行が、複数の口座情報を画面上でまとめて表示するポータルサービスを提供していた。近年のPFMの特徴は、退職や住宅の購入などライフイベントでの支出に向けた資産形成支援や税金支払いなど、顧客のお金に関する目的(ゴール)に対応したサービスが、スマートフォンでの利用を前提として提供されていることである。

 特に最近は、この分野でベンチャーの台頭が著しい。たとえば、PFMベンチャーの草分けである米Mint社(※1)のPFMでは、利用者は貯蓄の目標額を設定し、進捗状況を確認することができる。さらに、残高不足の場合はアラートを受け取ったり、支払実績に応じてお薦めのクレジットカードを紹介される。同サービスの2013年の会員数は約1300万人に達している。米Personal Capital社のPFMサービスでは、利用者はスマートフォンを使って投資状況を確認しつつ、ポートフォリオに対するアドバイスをもらうことができる。また米LearnVest社の場合、顧客はポートフォリオの診断をオンライン上で受けたあと、専門家による対面でのアドバイスを有償で受けることが可能である。

 米Check社(※2)が提供するPFMでは、顧客はワンストップで公共料金や保険料金を支払うことができる。具体的には、PFM上で税金の支払い額と期日を確認し、自分の口座情報を確認しながら支払口座を選択する。情報提供に留まらない点が他社のPFMとは異なる。

PFMは顧客理解のための情報基盤

 銀行などの金融機関のPFMへの取り組みはどうか。米Aiteグループの調査によると、2013年末時点では米銀行7000行のうち、約4分の1がPFMを提供している。しかしながら、現在のところ、米金融機関が提供するPFMの多くは、複数口座の一元表示に留まる。

 PFMは生活者の「お金に関する個人秘書」となる可能性を秘めたツールである。金融機関がPFMを利用すれば、顧客のお金の使い方に関わるあらゆる情報を把握でき、お金に関する顧客の悩みに答えることができる。そのためPFMサービスの拡充を図りたい金融機関も多いと考えられるが、変化の激しいIT環境のもと、多様な顧客ニーズへの対応が必要な中で、自社でPFMを開発しID連携を行う他社のサービスに対抗していくことは容易ではない。そこで、「ホワイトラベルPFM」と呼称されるサービスを活用する金融機関が登場している。これは、外部事業者からPFMアプリケーションのOEM提供を受け、PFM構築のリスクを軽減するものだ。たとえば、シティバンクやバンク・オブ・アメリカは米Yodlee社提供のものを利用している(※3)。

 金融機関を取り巻く競争は厳しく、金融サービスにおけるカスタマーエクスペリエンス(※4)の向上は急務である。すでにホワイトラベルPFM事業者は、ファミリー向けPFMや目的に応じた資産形成を支援するタブレット専用PFMなど先進的なアプリケーションを開発しており、今後は金融機関による更なる採用が期待できそうだ。

能動的な金融活動を支援するツールとなるかどうかが国内PFM普及のポイント

 日本では、2002年にジャパンネット銀行が提供を開始した「JNBアグリゲーション」を皮切りに、大手都市銀行やネット専業銀行がPFMを提供している。しかしながら、国内の金融機関が提供するPFMの場合、ID連携可能な他金融機関やオンラインサービスの数は少なく、モバイルへの対応も遅れるなど、顧客への訴求力は低い。

 米国で提供されるPFMと同様のサービスが日本にも浸透するかどうかは未知数である。だが、国内でも相続税対策や退職後の生活費用の問題など、お金に関わる課題は増していく。そうした中、退職などのライフイベント時の支出に備えて計画的な資産形成をアドバイスし、お金に対する不安を解消するツールとしてPFMが貢献するのではないか。すでに貯蓄や資産形成、住宅ローンの試算を行うオンラインサービスが提供されているが、試算に必要なデータの入力は利用者任せであり、一意的である。PFMであれば、過去の支出傾向や保有資産の増減など時系列の実績を利用でき、精度の高いプランを提示することができるだろう。

 最近はマネーフォワードやマネーツリー、Zaimなどのベンチャーが、モバイルでの利用を前提としたPFMを提供し、新たな金融情報サービスの可能性を模索している。「貯蓄から投資へ」を推進する銀行・証券や、モバイル端末を活用した決済サービスへの取り組みを加速するカード事業者などがPFMを利用すれば、お金に対する顧客の能動的な取り組みを支援できるだろう。

重要度を増すプライバシーへの配慮

 PFMでは、自社だけでなく他社サービスのID、パスワードを利用して口座データを収集する。そのためPFMを提供する金融機関にとって、情報漏えいなどのリスクを考慮したセキュリティの強化は不可欠である。

 さらに、プライバシーへの配慮も重要になる。個人情報保護に関する各種法令に準拠した、口座情報取得の目的や第三者へのデータ提供の有無に関する顧客への告知と同意の取得はもちろんであるが、「忘れられる権利」などプライバシーをめぐる最新の議論も確認すべきだ。

 プライバシーに対する万能薬はない。口座履歴が収集されることのリスクの明示や統計処理化したデータの外部販売の有無、データの削除手段の提供など、一歩踏み込んだ対応が望ましい。その際、個人の金融情報が丸裸にされているといったネガティブな印象から、サービスが利用されないようであれば本末転倒である。PFMによって顧客のどのような課題を解決できるのか、利用のメリットは何かを適切に伝えることにより、顧客との良好な関係を維持する努力が求められる。

1) 2009年に会計ソフトウェア大手のIntuitが買収。
2) 2014年6月にIntuit社が買収。
3) ARC Federal CUなど信用組合の場合は米Money Desktop社のPFMアプリケーションを利用。
4) 顧客が商品を購入したり、サービスを利用する際に心理的・感情的に受け取る価値。「顧客経験価値」とも言う。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

藤吉栄二

藤吉栄二Eiji Fujiyoshi

IT基盤イノベーション本部 ビジネスIT推進部
上級研究員
専門:モバイル技術、サービス

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