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価格の一部としてのFVA

2014年8月号

投資情報サービス事業部 上席クオンツアナリスト 榛葉清人

数年前CVAが登場し、市場に認知されてきた。今はFVAに関する議論が盛んである。しかし、CVAの導入時よりも、価格への反映方法についての市場の合意形成に時間が掛かっている。FVAは価格として認識されるべきなのか、それはどうして決まるのか?

議論はCVAからFVAへ

 数年前までデリバティブの評価やプライシングに関する話題と言えばCVA(Credit Valuation Adjustment)やDVA(Debit Valuation Adjustment)であった。CVAやDVAはデリバティブ取引に取引関係者の信用リスクを反映させるものである。債券であれば当然の如く昔から行われてきたことであり、導入に関して計算負荷という課題はあったが、論理的な障害はなかった(※1)。

 今、話題の中心にあるのはFVA(Funding Valuation Adjustment)である。金融危機以後ディーラー間のデリバティブ取引で担保差入を行うことは必須となった。これはプレーヤーとしてのディーラー自身のリスク管理上の判断でもあるが、国際的な金融システムの安定という意味で監督当局の期待するところでもある。ディーラーにとって理想の状態は、市場リスクをヘッジしてポジションがフラットになっているとすれば、すべての取引で担保差入を行い、その結果担保の差入状況もバランスし担保の過不足が発生しない状態である(図表1上部)。しかし担保差入を行いたくない取引者もいる(※2)。担保差入を行わない取引の発生はディーラーの美しい担保バランスを乱すことになる(図表1下部)。そのバランスを戻すためにディーラーが支払うコストがFVAである。

 金融危機以後、デリバティブ取引の収益性は低下した。収益性の低下と信用リスク管理強化に伴うデリバティブ取引の担保差入一般化(※3)は、今まで明示されていなかった取引のコスト構造の分解・分析を加速させたのである。

CVAとFVAの微妙な関係

 CVA/DVAは技術的な問題はあるにせよ、これを導入し、かつ価格に反映させることにほぼ問題はないと言ってよい。しかし、FVAについては価格への算入に関しての議論に決着が付いていない(※4)。これはCVA/DVAとFVAの微妙な位置関係によるところが大きい。

 関係性を見るためにCVA/DVA/FVAの構成要素を見てみよう。デリバティブ契約期間中に時価評価は変化する。担保差入がない場合、自らの評価損益がプラスの状態でカウンターパーティ(以下CP)がデフォルトすると損失を被ることになる。この期待損失をCVAと呼ぶ。

 CVAの計算式を簡略化して書くと以下のようになる;

CP側から見た、この自社に対するCVAがDVAである。

2つの式を比べるとCVAでの「CP」がDVAの式では「自社」に、「評価益」が「評価損」に変わっていることが分かる。

 ではFVAはどうなのか?担保差入を行わないCPとの取引でディーラーの評価益が出ている場合、ヘッジで行っている取引は評価損が出ていることになるので担保が必要だが、CPからの担保が入ってこないため別途調達してくる必要が生じる。この場合のディーラーにとってコストとなる値を、FVAの中でもFCA(Funding Cost Adjustment)と呼ぶ。概念的な数式は以下の通り;

逆にディーラーに評価損が出ている場合、担保が余剰となるのでこの分のベネフィットをFBA(Funding Benefit Adjustment)と呼ぶ。

 CVA/DVAとFCA/FBAを整理すると図表2のようになる。ここから2つの重要なポイントが浮かび上がる。1つは(自社クレジット)×(自社評価損)の欄にDVAとFBAが同居していることである。前述した2つの計算式を見比べると、違いは[自社破綻確率]×[自社破綻時損失率](DVA)と[自社ファンディングスプレッド](FBA)の部分であることがわかる。自社ファンディングスプレッドと自社デフォルト確率やデフォルト時損失は同種の数値(※5)であり、DVAとFBAはダブルカウントになっているとの意見が多い(※6)。

 もう1つは、「CVA/DVA」では自社の視点とCPの視点が対称になっているが、「FCA/FBA」では対称ではないという点である。これはFVAがディーラーの立場(※7)でないと見えてこないコスト(ベネフィット)だからである。

 FVAのダブルカウントはどう考えるべきなのか?ディーラーにしか見えないFVAは価格として認知されるべきなのか?

FVAは価格の一部なのか?

 ディーラーにとって価格には提示価格と評価価格としての視点がある。提示価格であれば、CVA/DVAでもFVAでもその他のコストでも、健全な価格競争が行われている市場ならば、適切なところで回収できるような価格設定をする裁量がディーラーにはある(※8)。必要なコストを認識していないディーラーがいると、将来マーケットを揺さぶる可能性のある歪みがどこかに溜まるリスクが高まるので、市場にとって正しいコスト認識が広まることは重要であり、FVAもその候補と言える。

 一方、会計上の評価価格(公正価値)は、「出口価格」と定義されている。ディーラーのコストとは言え、FVAが常に取引価格で考慮されるようになれば、これを出口価格と認識せざるをえなくなる(※9)。FVAに対する対応はまだ収斂していない(※10)が、出口価格を見極めるためには市場のコンセンサスの行方を注意深くフォローしていく必要がある。

1) 金融ITフォーカス2013年12月「CVAは価格の一部です」等。
2) 主には担保適格な資産を保有していない、あるいは保有したくないプレーヤーで、ソブリンや一般事業会社等。
3) 担保差し入れについては金融危機の前から、各国あるいは国際的な規制当局やデリバティブのメジャープレーヤーは一般化を進めていた。
4) 金利モデルで有名なHull&White氏はFVAの価格への反映に反対している。Risk誌「Risk25」2012年7月など。
5) この部分は条件が揃えば同じになる。条件とはファンディングスプレッドが、期待デフォルト率とデフォルト時損失率で一意に決定されることであり、理論上は無理がない。
6) 実際、「CPのオプションの買い」というポジションのみがあった場合、DVAとFBAを両方適用すると、ディーラーから二重のギフトを送ることになってしまう。
7) ここで「ディーラーの立場」とは、担保差し入れを原則としていて、ある種の価格提示の義務を負っているプレーヤーのこと。
8) もちろん競争に晒されている中での価格設定となる。
9) すでにFVAの採用によって発生する損益の変動を報告している金融機関もある。
10) 傾向としてはDVAをカウントせず、CVAとFVA(つまりFCAとFBA)をカウントする方向に向かっている。理由は、理論上はDVAとFBAを同じと見なせること、FCAとFBAをバラバラではなく一緒に計算することで計算効率が良くなることである。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

榛葉清人

榛葉清人Kiyoto Shimba

投資情報サービス事業部
上席クオンツアナリスト
専門:債券分析

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