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「岩盤規制」に踏み込む改訂成長戦略

2014年8月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

2014年6月24日に閣議決定された改訂成長戦略は、これまで手が着かなかった農業や医療などの「岩盤規制」にドリルを入れた。その意義は大きいが、中長期の潜在成長率向上にはつながっても、短期的な景気浮揚の効果は薄いことを理解する必要がある。

農業・医療改革に着手

 政府は、2014年6月24日、「日本再興戦略」改訂2014、経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太方針」)、規制改革実施計画の三つを閣議決定した。第二次安倍晋三内閣の経済政策「アベノミクス」の「第三の矢」とされ、1年前に策定された成長戦略がアップデイトされたわけである。

 改訂成長戦略は、日本経済がこの1年間で大きく確実な変化を遂げたという認識を示した上で、その変化を一過性のものに終わらせないためには、日本経済の生産性を向上させ、「稼ぐ力(=収益力)」を強化することが不可欠だとする。また、2013年の成長戦略では残された課題とされた、①女性の活躍の場の拡大や海外の人材の受け入れの拡大を含めた雇用環境の改革、②農業の生産性拡大、③医療・介護などの健康関連分野の成長市場化、の3点についても、具体的な施策が講じられることになったと、その意義を強調する。

 これら雇用、農業、医療の各分野は、長年にわたって制度改革の必要性が叫ばれながら大きな変化がみられず、「岩盤規制」とも呼び慣わされてきた。今回の成長戦略と規制改革実施計画には、その岩盤にドリルで穴を開けるとも言うべき内容が含まれる。

 その一つは、農業分野における農業委員会・農業生産法人・農業協同組合(農協)の一体的改革である。すなわち、農業委員の選出方法を選挙や議会推薦から市町村長による選任に改め、事務局機能を強化する。また、農地を所有できる法人である農業生産法人への農業関係者以外の者の出資を2分の1まで認める。農協については中央会の機能を弱め、単位農協の活性化を進めるとともに信用事業や共済事業では窓口機能に特化させる。

 もう一つは、医療分野における保険外併用療養制度(いわゆる混合診療)の拡大である。すなわち、患者からの申し出を起点として、国内未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用などを迅速に保険外併用療養として実施できるよう「患者申出療養(仮称)」を創設する。

 これらの制度改革については、いずれも2015年の通常国会に関連法案の提出を目指すものとされている。

雇用改革は踏み込み不足

 一方、雇用規制については、残念ながら、農業や医療の分野におけるほどの画期的な進展はみられなかったと言わざるを得ない。

 例えば、不当解雇が無効とされた場合、現行の制度では労働者を原職に復帰させるしかないため、金銭解決の途が開かれるべきだとの指摘がなされてきた。この点については、各国の制度について調査・研究を進めるといった内容しか盛り込まれなかった。

 また、労働時間法制をめぐって、一斉始業・一斉休憩という工場労働を前提としたような現行制度を改め、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離す制度を導入すべきだとの指摘がなされてきた。この点については、年収1,000万円以上といった年収要件を満たす労働者に限定した制度とするという内容にとどまった。

 この労働時間の長さと賃金のリンクを切り離す制度は、一部では「残業代ゼロ」といったレッテルを貼られ批判の対象となった。しかし、それは大きな誤解である。

 例えば、現行制度では、育児のために時短勤務を選択した労働者は直ちに減収となる。仮に、帰宅後、子供を寝かしつけて夜10時以降に仕事をしようとしても、会社は深夜勤務として割増賃金を支払わねばならず、在宅勤務の管理も複雑であることから認めない。こうしたケースに新たな制度を適用すれば、時短出勤や深夜の在宅業務を機動的に行って、適切な成果さえ上げればフルタイム勤務と同水準の収入を維持できるだろう。このように本来幅広い層に適した新制度が、年収の高い労働者にしか適用されないのは残念なことである。

中長期の効果が期待される

 改訂成長戦略が、岩盤規制の見直しを打ち出したことには大きな意義がある。「既得権」に阻まれて進まないとみられてきた制度改革が動き出すのである。今後の実行段階で改革が骨抜きになるといった見方をする向きもあるようだが、少なくとも規制改革実施計画で細部が閣議決定された事項については、内容が大きく後退するようなことは考えにくい。

 もっとも、成長戦略の実現は、あくまで中長期的な潜在成長率の押し上げにつながるものだという点に留意する必要がある。政府は、「成長の果実をできるだけ早く国民の暮らしに反映していく」と意気込むが、構造的な制度の改革が目先の景気浮揚やそれを見越した株価上昇といった現象につながると考えるのは、正しい見方とは言えないだろう。

 また、各省庁における法案作成過程での審議会等への附議や国会審議といった民主的プロセスを丁寧に踏んでいく必要がある以上、盛り込まれた制度改革の実現は、どんなに早くても2016年度以降になるという点も押さえておく必要があろう。従来考えられなかったような制度改革が始動することは画期的だが、経済成長への即効性は期待できないという冷静な見極めが大事である。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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