1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. ホールセールビジネス
  6. 再拡大する米国レバレッジド・ファイナンス市場

再拡大する米国レバレッジド・ファイナンス市場

2014年7月号

金融ITイノベーション研究部 主任研究員 嶋村武史

米国レバレッジド・ファイナンス市場が再拡大している。背景として、低金利下でより高い利回りを求める投資家からの旺盛な需要が挙げられるが、今後を見通すためにも投資家側の動向に着目する必要がある。

市場トレンドと近時の投資家動向

 2008年の世界金融危機以前に拡大した米国のレバレッジド・ファイナンス(※1)市場が近時再拡大している。米国レバレッジド・ローン(※2)の残高推移を見ると、これまでのピークであった2008年から2010年にかけては一時減少していたが、2011年以降再び拡大基調に転じ、2013年には2008年の水準を超えて過去最大の残高となった(図表)。

 金融危機後に一時停滞していたレバレッジド・ファイナンスが復活した主な要因は投資家側の旺盛な需要にあると考えられる。FedのQE3を筆頭に先進主要国が大規模な金融緩和策を採った結果、歴史的に低い金利水準が続いているため、少しでも高い利回りを求める投資家が相対的にリスクの高いレバレッジド・ローンや高利回り社債に対する投資配分を高めているというものだ。実際、発行額の拡大と共に、スプレッドの低下等、発行体側により有利な条件での発行が増えており、投資家側が進んで投資を行っていることが窺える。

 では、具体的にどのような投資家が投資配分を増やしているのか。金融危機以降の米国レバレッジド・ローン市場の投資家動向を見ると、主に二つのトレンドがある。一つ目は、CLO(※3)の復活である。1990年代の後半から市場規模が拡大したCLOはレバレッジド・ローンの主要な買い手であるが、金融危機後は新規発行が一時停滞していた。しかし、金融危機時に落ち込んだパフォーマンスが順調に回復したこと等から、近時はアセットクラスとして見直されており、2013年には新規発行額が800億米ドル超に達した。これは2006年及び2007年に次ぐ水準である(※4)。二つ目は、ローン・ミューチュアル・ファンドを通じたリテール投資家の拡大である。リテール投資家からの資金流入は、特に米国債利回りが上昇に転じた2013年に大きく拡大している。レバレッジド・ローンは変動金利であるため、当該資金流入の拡大は主に金利上昇に対するリスク・ヘッジの動きによるものだと考えられる。

規制当局の動向

 レバレッジド・ファイナンス市場の拡大及び借入コストの低下は、借り手企業側から見れば好ましい流れであるが、規制当局は警戒感を示している。規制当局の具体的な動きの一つとして、高レバレッジの銀行貸出に係るガイドラインが昨年3月に見直されたことが挙げられる。これはFRB、FDIC及びOCCが共同で出したもので、貸し手に対して引受基準やリスク管理の厳格化等を求める内容となっている。当該ガイドライン自体の効果は必ずしも明確ではないが、規制当局はガイドラインの改訂のみに留まらず、大手行に対して個別に働きかけを行い、対応を求めているとのことだ(※5)。

 このような規制当局の動きの背景としてあるのが、信用リスクの増大である。市場規模の拡大と共に、借入企業の負債比率の上昇や財務制限条項が緩和されたローンの拡大が見られる。これらは金融危機前にも見られたトレンドであり、規制当局がその動向に警戒を強めている。

今後の見通しと注目点

 上記のような信用リスクの増大や規制当局の動きが見られる中、今後の米国レバレッジド・ファイナンス市場の先行きを危ぶむ声もある。しかし、短期的には拡大基調が継続するのではないか。なぜなら、2014年に入ってからもCLOの新規発行が堅調に推移する等、依然として投資家側の旺盛な需要が継続しているためである。一方、中長期的な視点に立つと、現在のペースでレバレッジド・ファイナンス市場が拡大し続けるとは考えづらく、どこかで転換点を迎え調整が入ると考えるのが妥当であろう。

 そのような転換点がいつ、何をきっかけとして起こるのかという点も重要だが、より重要なのはトレンド転換後の調整がどのように行われるかではないか。拡大基調がどこかでピークを迎え、緩やかに新規発行ペースが下降基調をたどるのであれば良いが、市場が過度に拡大した結果、トレンド転換に伴い急激な調整が起こる場合は大きな問題に発展し得る。そのような観点で足許の状況を見ると、信用リスクの増大の他に幾つかリスクの萌芽が見られるように思われる。

 一つは既に述べたリテール投資家の台頭である。リテール投資家の過去の資金動向を見ると不安定な資金としての性格が強い。足許はリテール投資家の台頭が市場拡大に寄与している側面がある一方、局面が変わると一転して市場の不安定要因となり得る。

 二つ目は、銀行に対する規制強化が進む中、銀行以外の新しい貸し手が台頭していることである。具体的には、元々プライベート・エクイティ投資を中心に手掛けてきた運用会社が、レバレッジの高い買収ファイナンスを提供するファンドを立ち上げるケースが出てきている。規制当局が銀行に対する締め付けを強化しても、その分相対的に規制が緩い分野にリスクが移転される形となり、金融システム全体としては過度なリスク・テイクに歯止めがかかりづらい構造になっているように思われる。

 さらに、金融危機時の教訓に鑑みると、短期で借り入れを行った資金で投資を行うレバレッジを掛けた投資家の動向にも注意を払うべきであろう。そのような投資家を定量的に把握することは困難であるが、短期金利が低位に抑えられている中、レバレッジを掛けて投資を行う誘因は高いように思われる。

 今後の米国レバレッジド・ファイナンス市場の先行きを検討する上で、引き続き上記のような投資家側の動向に注目していきたい。

1) レバレッジド・ファイナンスとは一般に格付けがBBB未満の企業が発行する高利回り社債と同企業に対する貸出債権であるレバレッジド・ローンの総称を指す。
2) レバレッジド・ローンには大きくPro Rataトランシェ(短期資金の性格が強い貸出が中心)とInstitutionalトランシェ(より期間が長い貸出が中心)があるが、ここではInstitutionalトランシェのみを対象とする。
3) Collateralized Loan Obligationの略称。金融機関の貸付債権を証券化したもの。
4) Forbes等の報道による。
5) Bloomberg等の報道による。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

このページを見た人はこんなページも見ています