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HFTの何が問題なのか?

2014年7月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

ミリ秒単位で頻繁に売買を繰り返して利ざやを稼ぐHFT(高頻度取引)に対する関心が高まっている。HFTに対する批判も強まっているが、何が問題点かを見極めないまま全否定するような姿勢は望ましくない。

存在感を高めるHFT

 最近、株式市場におけるHFT(高頻度取引)に対する規制のあり方への関心が高まっている。HFTとは、取引所のメイン・コンピュータの至近に発注サーバーを設置するコロケーション・サービスなどを利用しつつ、ミリ秒単位で頻繁に売買を繰り返して利ざやを稼ぐ取引手法を指す。

 HFTは、米国市場を中心に、取引所のマッチング・システムが高速化したことで、2000年代半ば活発に利用されるようになってきた(図表)。2009年にナスダックを始めとする一部の株式市場が、HFTを利用できる顧客に対して一般投資家よりも30ミリ秒だけ早く約定機会を提供するフラッシュ・オーダーと呼ばれる仕組みを設けたことが問題視されて以降、市場規制の観点からも注目を集めるようになってきた。

 その後、2010年5月には、ダウ工業株30種平均株価指数が、5分間で前日終値に対して1,000ドル近く安い水準にまで急落し、その後1分半で元の水準まで急騰するという異常変動「フラッシュ・クラッシュ」が起きた。一部ではHFTが相場の急落を引き起こしたとの観測がなされ、その規制の是非が議論されることとなった。

 最近では、作家マイケル・ルイスがノン・フィクション小説『フラッシュ・ボーイズ』でHFTを取り上げ、株式市場が不正な手段で操られているとの見方を示して話題を呼んだ。また、ニューヨーク州の司法当局が、市場運営者や情報ベンダーがHFTの利用者に対して他の市場参加者よりも数ミリ秒早く情報を入手できるようなサービスを提供しており、HFTによる不公正取引を可能にしているとして調査を開始したとも報じられている。

 日本においても、2010年の東証の新株式取引システム「アローヘッド」の稼働以後HFTの利用が可能となり、最近では取引高の15~20%程度がHFTによるものではないかといった推計がなされている。その存在感の高まりとともに、批判的な見方も台頭している。

流動性を高める効果も

 日本におけるHFT批判の多くは、注文板の状況を見ながら「1カイ2ヤリ」といった機動的な売買を行って利ざやを稼ぐ取引手法が困難になったというものである。つまり、HFTの売買注文は極めてスピードが速いため、目視した板上の注文と対当させようとして発注しても、注文が取引所のシステムに届いた時点では、先にHFTの利用者に取られてしまっており、想定した値段では約定できないというのである。

 これは『フラッシュ・ボーイズ』でも取り上げられた現象だが、多額の投資を行って高度な取引システムを備えて売買するHFTが、目視に頼る伝統的トレーダーの先を越したとしても、それだけで「不正」とは言えないだろう。

 他方、HFTを利用する自己勘定トレーディング会社の中には、「マーケット・メイカー」と称して多数の売買注文を継続的に出す者もある。こうした業者の参入で、市場の流動性が高まっているという実証研究も現れている。

 米国の「フラッシュ・クラッシュ」も、HFTの行動だけで異常変動が生じたのではない。ある長期的な機関投資家が、超大口の売り注文を出したため、当初は買い向かったHFTトレーダーがポジション調整のために売りにまわり、更には価格変動が大きすぎると見て発注を停止したことで市場の流動性が蒸発し、急落が起きたのである。その後、下がり過ぎと見た投資家の買い注文が入り、相場は急速に回復した。むしろ、HFTの存在に支えられた高い流動性に対する過信が、異常な事態につながったとみるべきだろう。

技術革新の光と影

 人は得てして、容易に理解できない新しい技術の価値を十分に吟味せずに否定しがちである。2009年の規制論議では、高名な経済学者ですら、フラッシュ・オーダーという特殊な制度の問題点をHFT一般に拡張し、誤解に満ちた批判を繰り広げた(拙稿「米国におけるフラッシュ・オーダー、ダークプール規制の動きと日本市場の課題」『旬刊商事法務』1881号参照)。

 最近のニューヨーク州司法当局による調査も、その焦点は、HFTの利用者が他の投資家が入手できない情報を利用した、つまりインサイダー取引に類するような不正取引を行ったという疑いを念頭に置いて進められており、HFTという取引手法全体を否定しているわけではない。ところが日本では、ごく一部ではあろうが、米国でもHFT規制の動きが強まっているとして、HFTの利用の全面的な制限を求めるような見解もある。

 インターネットが我々の日常生活を大きく変えたことに象徴されるが、コンピュータと通信技術の革新は著しい。もちろんインターネットが犯罪にも悪用されるように、技術革新には光と影がつきものである。HFTについても、その効用を活かしつつ、問題点を是正していくという慎重な対応が求められるだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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