1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 数理の窓
  6. 水無月に憂鬱な計算を

水無月に憂鬱な計算を

2014年6月号

山本由香理

此頃都ニハヤル物、という有名な書き出しで始まる二条河原の落書は、鎌倉幕府崩壊後の後醍醐天皇による建武の新政当時の社会を風刺したものだ。700年近く前の6月に始まったこの新政の失敗要因は多数あるが、その最たるものは土地訴訟事案の差配ミスにあったと言われている。領土の支配・整備がいつの時代も政治の要となることは論を俟たないが、その遂行の困難さは様々な理論が発達した現代においても依然としてあるものだ。

 例えば、真っ直ぐな川の両岸に住民が均等に住んでいる地域に1本だけ橋を架けるとしたら何処に架けるのが最適か。直感的に「住民の生活圏の中央」つまり居住区の一番上流と一番下流の中間点、という正答を思いつく人は多いだろう。偏った場所では、遠方の住人の負荷が大きく、不公平感がある。実際に都市計画や施設配置計画でも、その施設の利用可能性がある住人全員の移動距離の総和を最小化し、社会全体の最適な状態を志向する考え方が取られる(※1)。

 今度は同種の事を縦方向に考えてみる。2つの同じ高さのビル間に連絡通路を設置するなら、どの階が最適か。前と同じく中間階だろうか?実はこのパターンでは大凡ビル高の6割程度の階への設置が正答となる。連絡通路から遠い下層では連絡通路を使わずビルの1階同士で移動する、という選択肢が出現するためだ。例えば30階建ビルで20階に通路がある時、Aの2階からBの5階への移動は1階から、Aの18階からBの10階なら通路から…といった具合だ。連絡通路の設置階と移動元・移動先の階数により移動パターンは5つに大別されるが、これらパターンを考慮し利用者全員の移動距離総和が最小になる階数を求めると、ビル高の6割程度が最適解となる。

 実際の計画では各階の人数分布・コストなど様々な要素を考慮した、更に繊細な計算を行って方針が決定される。700年前に領土の境界線を引く際行われた“計算”は、もう少し様相が異なっただろうが、何にせよ一筋縄で行かないのは昔も今も同じだ。

 資産の配分も領土と同様、資金を単純に株・債券・不動産に三等分すれば即ち最適、とはいかない。金額だけでなくリスク量の分散を考えた配分が重要なため、(それが直感的な最適を裏切るような結果でも)綿密な計算に基づく決定が必要になってくる。

 雨天が多い6月は何かと気の滅入る時期だが、この機に資産配分を眺めて、為政者の憂鬱に思いを馳せてみるのも一興ではないだろうか。

1) 警察や消防などの「いざという時」の施設では利用者の距離総和ではなく、移動可能性のある範囲内のすべてに、ある程度の時間内で行けることが重視されたりするなど、最適化の方針にいくつかのパターンは存在する。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

山本由香理

山本由香理Yukari Yamamoto

資産運用サービス事業二部
システムコンサルタント
専門:資産運用ソリューション企画

この執筆者の他の記事

山本由香理の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています