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生産年齢人口と金融政策

2014年6月号

未来創発センター 上級エコノミスト 佐々木雅也

黒田総裁が指摘する経済の需給ギャップ縮小は、需要拡大の他に供給側の制約が強まることでも起きうる。日本では現在、団塊の世代が65歳前後に達しており、そうした人口要因が労働市場に影響を与えている可能性がある。

需給ギャップがほぼ均衡した要因は何か

 日銀の追加緩和を巡って、市場の思惑が錯綜している。そうしたなか、黒田日銀総裁は4月8日の記者会見で「追加緩和については、現時点では考えていません」と述べたことから追加緩和への市場の期待が後退し、一時大きく円高・株安が進んだ。

 会見の内容を見ると、黒田総裁が追加緩和の必要性を感じなくなっている最大の根拠は、日本経済の需給ギャップが大幅に縮小し、昨年第4四半期時点でほぼ均衡しているとされる点にある(※1)。黒田総裁は雇用、特に非製造業の雇用環境が内需の回復によって想定以上に改善し、これが需給ギャップの縮小に寄与していると見ているようだ。

 こうした総裁の見方に対し、4月8日の会見では「今後については、円安がさらに進行しなくても、需給環境を反映して、ある種実力ベースの物価上昇率が2%に向かっていくとみているのか」という質問が出たが、黒田総裁はこれに対して「私は基本的に、ご指摘のようなことだと思っています」と答えている。2012年11月からの円安が金融緩和に対する期待の変化によって起きたのだとしたら、この黒田総裁の受け答えは、追加緩和(やその期待の醸成)をして円安にしなくても、物価目標は自然と達成できると言っているようにも聞こえる。

 だが、日本経済の需給ギャップが本当に均衡に向かっているとしても、問題はむしろ、それがどのような要因で起きているかという点にこそある。黒田総裁が会見で述べているように、消費や住宅、公共投資など、内需が主導する形で景気回復が続いていけば、労働集約的な産業である非製造業で雇用が大幅に増え、その結果として需給ギャップは縮小し、賃金も上昇する。こうした需要主導の回復は今の日本にとって望ましい姿である。

 しかし需給ギャップとは、潜在的な供給力と需要の差であり、これは需要が伸びることだけでなく、供給力が落ちることによっても縮小する。同じ賃金の上昇でも、労働市場の供給制約によって企業が賃金を引き上げざるを得なかったのならば、それは企業にとって単なるコストの上昇であり、その結果として物価が上がって2%の目標が達成されても、経済の拡大と物価の安定という好循環にはなりにくい。

生産年齢人口が急減する2010年代前半の日本

 図表1は、1990年代からの日本の生産年齢人口(15歳~64歳の人口)の変化を示している。日本では生産年齢人口が既に1995年にピークを迎えており、その後は、少子化と高齢化の同時進行によって徐々に減少ペースが加速してきていた。ところが2012年は、生産年齢人口の減少数が116万7千人、2013年には同116万5千人となり、それ以前と比べて倍増している。

 こうした変化は主に、足元で団塊の世代が次々と65歳に達していることで起きている。もちろん65歳になって統計上の生産年齢人口から外れたからといって、全員が仕事を辞めるわけではないが、少子化の進展も相俟って、労働力の中心層から年間100万人以上の人々が消失するという事態は、需給ギャップのタイト化に労働市場の供給面から少なからぬ影響を与えているはずだ。

 もっとも、年間100万人以上の生産年齢人口の減少という事態は団塊の世代が65歳を過ぎ切ってしまえば一段落する。図表2は、国立社会保障・人口問題研究所が2012年に推計した将来人口を基に、今後、毎年どれだけの生産年齢人口が減少していくかを計算したものである。これによると、減少数のピークは今年と見られ、その後は一旦、減少数が年間46万人にまで縮小する。しかし、団塊ジュニアの高齢化によって再び加速し、2030年代後半には減少数が再度、年間100万人を突破する。

 これからの日本は、こうした労働供給の制約と極めて長い期間にわたって戦い続けなければならない。その戦いの本格的な始まりの時がたまたま、アベノミクスという需要拡大政策と重なったことで、足元で急激な労働市場のタイト化が起きているとも考えられるのだ。

需要不足を前提とした政策思想を改めるべき時期に

 人口減少がもたらすこのような深刻な変化を踏まえ、金融政策は今後、どのような姿勢を取るべきなのか。重要なのは、バブル崩壊後の日本の経済政策は基本的に需要不足を克服するという発想に立っていたが、今後はこうした前提を大きく改める必要があるという点にある。

 例えば現在の金融緩和は、デフレ脱却のために人々の期待を変えて需要を喚起しようという発想に基づいている。しかし足元で、需給ギャップ均衡への強い圧力が需要と供給の両面からかかっているのなら、これ以上の金融緩和の継続はかえって必要以上のインフレを招きかねない。黒田総裁は物価目標の達成に自信を示しているが、仮に2%の目標に届かなくても追加緩和には極めて慎重であるべきだろう。

 その一方で、人口減少や労働市場のミスマッチといった供給制約の問題は、金融政策では克服できない。日本銀行は自らの政策運営の幅を広げるためにも、金融政策と構造問題を明確に区分けした上で、少子化や雇用のミスマッチの克服をはじめとする構造問題の解決を今まで以上に政府に強く求めていく必要が出てこよう。

1) 日銀の2013年10-12月期の需給ギャップ試算値はマイナス0.1%だが、同時期の内閣府の試算値はマイナス1.6%と大きく異なる。このように、需給ギャップの試算値はその方法等により結果が大きく変わり得る点に注意が必要である。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

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