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改正投信法が投信業界に与える影響

2014年5月号

金融ITソリューション企画部 業務コンサルタント 蒲谷俊介

昨年6月に成立した改正投信法の政省令等の改正作業が、現在進められている。投信会社は、業務面、システム面で大きな対応を施すことが必要となる。しかしその対応策は、規制の枠を超えてビジネスへの活用にも広げられるものとなろう。

投信リスク規制の強化

 昨年6月に成立した改正投信法に関連する政省令や投信協会規則の改正作業が進められている。新制度の施行は法案成立から1年半とされているため、遅くとも今年12月までには導入される予定だ。改正項目の中では、2つの規制(分散投資規制、デリバティブ取引に起因するリスク量規制)が、投信会社の業務面、システム面に大きな影響を与えるものとして業界の注目を集めている。

 これらの規制の背景としては、商品の複雑化やリスクの複合化により、投資家が把握しにくいリスクが増していることが挙げられる。例えば、投信において投資可能な資産範囲が拡大してきたが、実はある銘柄や発行体にリスクが集中しているかもしれない。また、あるファンドのパフォーマンスが保有デリバティブのパフォーマンスに大きく依存しているかもしれない。2つの規制の本質は、それらのリスクを投信の作り手側がコントロールし、投資家が想定外のリスクを負うのを未然に防ぐことである。ちなみに、例えば欧州でも、個人投資家向けの投信販売ルールであるUCITS(※1)に準拠して設定、運用されるファンドについては、同様の規制が既に適用されている。

分散投資規制への対応

 分散投資規制は、1つの発行体への投資が過度に集中しないよう、投資額をファンド純資産の一定割合以下にするものである。例えばあるファンドがA社の株式、その株式を原資産とするオプション、社債に投資していた場合、①株式への投資額:ファンド純資産の10%以下、②社債:同10%以下、③株式を原資産とするオプション:同10%以下、④株式、社債、株式を原資産とするオプションへの合計投資額:同20%以下、とすることが求められる(※2)。この規制が企業・国に関わらず、すべての発行体に対して適用されることになる。

 この規制の影響とその対応について投信会社にヒアリングを行ったが、各社の関心は非常に高く、社内横断の検討会を立ち上げているケースも見られた。各社が共通に課題として挙げたのは、以下の点である。

 1)銘柄と発行体のリファレンス管理

 発行体ごとのエクスポージャーを計測するためには、技術的には、ファンドが保有する銘柄と発行体情報を紐付けて管理することが必要となる。例えば、株式と債券に投資するファンドのA社への投資額を計測するには、ファンドが保有する全銘柄の中からA社が発行する株式と社債を抽出しなければならない。しかし、発行体情報は自然に与えられるものではないため、投信会社は積極的にその発行体情報を取得し、データベースに登録する必要がある。発行体情報は、システムによる自動取り込みだけでは不十分であり、例えば相対取引デリバティブや新発銘柄については、外部ベンダが情報を保持しないケースも考えられるため、人手による調査・登録も必要になるであろう。投信会社が保有する投資銘柄は、数千から数万銘柄にも及ぶためこの管理業務の負荷は非常に高い。実際に運用会社からも、発行体情報を取得し、それを登録する業務、体制、システム基盤を整備しなければならない、との意見が聞かれた。

 2)ファンド・オブ・ファンズのルックスルー

 分散投資規制では、ファンド・オブ・ファンズ(FoF)(※3)について、それが保有する投資信託の投資銘柄も含めて投資割合の計測を行うことが検討されている(※4)。しかし、FoFは他の投信会社が設定しているファンドを組み入れている場合も多く、かつそのファンドが海外で組成・運用されている場合、時差や言語などが障害となり、投資銘柄情報をリアルタイムに取得することは困難である。FoFについては、ファンド開示側がデータを格納し、ファンド組入側がそのデータを参照できる新たな仕組みやそれを実現するソリューションを求める声もあった。

デリバティブ取引に起因するリスク量規制

 この規制は、投信がデリバティブ投資により過度のリスクを取らないようにするもので、ファンドのリスク量を純資産の一定割合以下に保つことが求められる。技術的にはそのリスク量は、①想定元本(簡便方式)、②リスクアセットにリスクウェイトを乗じた量(標準的方式)、③推定最大損失額(VaR(※5)方式)のいずれかで測定される。投信会社は、保有するデリバティブがヘッジ目的か否かなどに応じて、どの測定方式を採用するかを決定できるとのことだが、多くの投信会社はVaR方式を採用することを検討しているようだ。なおこの規制は、現存するガイドライン(※6)が強化されるものと解釈できるだろう。

 ヒアリングでは、VaR計算を課題とする投信会社が多かった。現在VaR計算を実施していない場合は、新たにその計算業務を構築しなければならないし、現在計算を実施している場合でも、その算出ロジックが適切か、また算出結果が妥当かを、規制対応の観点で確認しなければならない。それらの計算・検証業務を構築することは負荷が高くリソースも必要となるため、ヒアリングでは、第3者による計算結果の検証や、VaR計算の実施サービスを求める声が聞かれた。それが実現されれば、投資家はデリバティブを組み入れる投信に、より安心して投資することができるであろう。

 

 一方、これらの規制が商品規制となり、投資家の投資機会を阻害することを危惧する声も聞かれた。例えば、厳選少数銘柄に投資を行うファンドについては、そのコンセプト自体が規制対象となることも考えられる。本稿の執筆時点でその影響の詳細は未確定であるが、こうした特定目的のファンドは規制対象から除外することも含め、規制のバランスが検討されている。

規制対応策はビジネスへの活用も可能

 投信会社は上述の規制対応のために対策を実施することになるが、その対策は規制の枠を超えて活用できると考えられる。例えば、分散投資規制対応のために整備した発行体管理業務・基盤は、時価や属性など、その他のデータ管理業務でも活用できるはずだ。デリバティブ取引規制対応のために整備したリスク管理業務・基盤を応用すれば、VaR以外のリスク量も管理でき、またリスク管理状況を積極的に開示するなど、投資家へのサービスの質を高めることが期待できるであろう。

1) UCITSとは、Undertakings for Collective Investment in Transferable Securitiesの略で、EUのUCITSに関する欧州委員会指令に準拠し、設定、運用されるファンドを指す。UCITS指令の加盟国で承認されたUCITSファンドは、その他加盟国でも販売することができる。
2) 簡便的に「オプションへの投資額」と記載したが、それは「オプションの評価損益額」で計測される予定である。また、資本関係に基づきグループ会社を1つの会社に名寄せすることは必要とならない見込みである。なお記載した規制内容は、執筆時点の情報に基づいている。
3) FoFとは、Fund of fundsの略であり、有価証券ではなく投資信託などのファンドを対象として投資するファンドのことである。
4) FoFが保有する投資信託の投資銘柄単位で投資額の計測が必須になるかどうかは、執筆時点で未確定である。
5) VaRとは、Value at Riskの略であり、対象資産やファンドが一定の確率で被る最大損失額を表す下方リスク量のことである。
6) デリバティブ取引に係る投資制限に関するガイドラインでは、例示されるリスク管理方法を参考に、あらかじめ社内規則に定め、府令の禁止行為に該当することのないよう適正に、デリバティブ取引を管理・運営することが定められている。http://www.toushin.or.jp/profile/article/

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

蒲谷俊介

蒲谷俊介Shunsuke Kabaya

資産運用グローバル事業部
主任システムコンサルタント
専門:資産運用関連のソリューション企画

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