1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. アセットマネジメント
  6. オリンピック種目の柔道競技になった日本株投資

オリンピック種目の柔道競技になった日本株投資

2014年5月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

日本株投資は、グローバルな視点に立った、経営者目線での企業評価が必要な時代になった。グローバル企業の中から真に日本企業を評価する、という投資戦略でなければ生き残れない時代に突入したと考えられる。

 以前、英国ロンドンの金融街シティが、海外金融機関に席巻されたことを、「ウィンブルドン現象」と表したことがあった。当時、長年にわたってウィンブルドンテニスでの優勝者が、英国人以外ばかりであったことを喩えたものであり、今では自由競争の下で外国企業が国内企業を淘汰することを総称した言葉として有名である。

 実は、日本株投資においても、同じような現象が起こっている。本稿では、これを「日本株投資の柔道競技化」と呼んでおこう(※1)。日本国内だけの競技からオリンピック種目となった柔道のように、日系の運用会社だけで競争をしていた日本株投資は、多くの外資系運用会社を含めた「選手」の間で戦われるようになった(そして、日系の会社が負けることも稀ではなくなった)のである。何故、このようなことが起こっているのだろうか。

外資系運用会社が採用されている理由

 例えば、つい最近、ある大手公的年金ファンドが日本株投資のマネジャーの大幅な入替を行ったが、新規に採用されたアクティブマネジャー11社(※2)のうち、実質的に(※3)9社が外資系運用会社であった。その中には日本に投資拠点のない会社が4社含まれている。採用された投資戦略はこれまでのようなバリュー、グロースといった伝統的なものではない。例えば、中長期の企業価値を評価する能力をベースに、高いキャッシュフロー生成能力を持つ企業を厳選して投資をするマネジャーが少なくとも4社含まれている。その中には、少額ながら、投資先企業に対してエンゲージメント(※4)を行う、いわゆるバリューアップファンドも含まれていた(※5)。また日本に投資拠点のない外資系運用会社の中には、小型株を投資対象にして定量分析をベースに徹底した取引コスト削減を行い、安定的に超過リターンを得る投資戦略を実行している会社も含まれている。

 日本株を対象にした投資戦略で、このように外資系運用会社が多く含まれ、さらに日本に投資拠点を持たない運用会社も採用された理由はどこにあるのか。幾つか理由が考えられる。一つは、中長期の企業選定においてグローバルな視点からの相対比較が重要になっていること、もう一つは日本に投資拠点を持つことが、企業選定において必ずしも有利にはならなくなっているためだろう。

 今回、大手公的年金ファンドに採用された運用会社の中には、日本株だけではなくグローバル株式を対象に投資を行っている運用会社が含まれている。運用会社内で、グローバル株式を対象に投資を行っている投資グループは、国(本社所在地)を超えた競争条件を分析、その結果として、世界中の競合他社との競争を勝ち抜くことができる日本企業を選び抜き、投資をしてきた。この投資グループと、日本株の投資グループは常に意見交換をし、グローバルな視点から真に中長期にわたり利益を上げることができる企業を見極める能力を高め合ってきた。その結果、日本株だけを対象にする投資においても、競争力を持つ投資能力を備えるようになったわけである。

 ロンドンの証券会社の幹部からは、日本に投資拠点がある、という点もあまり利点にならないと聞いた。200社以上の日本企業のCEOが四半期ベースでロンドンを訪れ、投資家との会議を持っているとのことである。東京ではIR担当役員にしか会えないのに、ロンドンではトップ経営者に会える機会がむしろ多い。日本企業トップが海外投資家を重視している理由は、一つには海外投資家の保有比率が高まったこと、より重要な点は、海外投資家との意見交換の方が経営者にとって有益な情報を得られるからだと考えられる。

 例えばある企業経営者は、「企業の最適財務構成を含む長期の企業価値について突っ込んだ議論をできるのは、海外の投資家が8割、日本の投資家が2割程度である」、「日本では、経営の参考になる意見を投資家から聞けないので、もっぱら海外の投資家と経営戦略などについて議論するようにしている」と述べている。海外の投資マネジャーが投資をしている会社は、日本企業の他に日本企業の経営者が競合相手と見なしている海外企業も多く含まれる。目線が経営者と同じで、経営戦略に関して有益な意見を持っている場合も多いのだろう。

 また長期投資家にとって、日本にいないということで短期ノイズとなる情報から隔離される利点も指摘されている。定量分析を基にした投資戦略も、分析・取引共にどこでも実行可能であり、特段、日本にいることが有利な条件ではない。

スキルアップが必要な日本株マネジャー

 一方、伝統的な日本株マネジャーは同程度の能力を持っているのだろうか。彼らも、日本企業を評価する場合に海外の競合他社と比較はするが、海外企業を本気で購入する気で見ているわけではない。海外企業は投資対象先に組み入れられていないからである。言葉は悪いが、相対比較の程度が浅いのである。昔は内需系と言われた企業も海外進出は当たり前の時代である。多くの企業が既に目線をグローバルに置いているのに、日本株マネジャーがその目線に合っていない、といったら厳しすぎるだろうか(※6)。

 何故、このような能力不足を日本にいる日本株マネジャーが指摘されるのだろうか。それは過去20年間、市場全体として企業価値を高めることができなかった日本企業の中で、真に企業価値を高める企業を選別する努力を怠ったからであろう。これまで、日本株マネジャーは、株式市場全体の動きを示すTOPIX等のベンチマークを上回ることを投資目標としてきた場合が多い。市場全体が上下変動を繰り返す中でベンチマークに勝つには、株価の上下のタイミングを見ながら短期的に売買を繰り返す方法が得策だったかもしれない。必要なスキルセットは、中長期で企業価値を上げるような企業を選定する能力ではなかったのである。

 このような状況のなか、日本株投資で生き残るにはどうすれば良いか。中長期での企業選定能力を高める一つの方策は、日本株投資においてもグローバル株式での投資能力を付けるべき、というものである。もはや日本株投資といえども、グローバル企業との冷徹な比較分析が行えなければ、中長期的な企業の成長力を評価することはできないであろう。短期投資で圧倒的な超過リターンを上げれば話は別だが、それ以外で日本株マネジャーが生き残るには、長期視点、グローバル視点に立った、経営者目線での企業評価が重要となる。日本株マネジャーは、グローバル企業の中から真に日本企業を評価する、という投資戦略を掲げなければならないのではないか。

1) この喩えは、ある大手日系運用会社の経営者から聞いたものである。
2) このうち、スマートベータと呼ばれる戦略も2社含まれている。
3) 9社のうち、2社は日系運用会社の再委託先として外資系運用会社が選定されている。
4) エンゲージメントとは、投資先の日本企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」を指す。
5) 長期の企業価値評価に基づく、いわゆる長期厳選投資のファンドも含まれている。
6) 外資系運用会社のグローバル化した投資スタイルとは逆に、日系運用会社の日本株マネジャーの投資スタイルを、「ガラパゴス化」と表現する関係者もいる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

注目ワード : GPIF

このページを見た人はこんなページも見ています