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社外独立取締役は銀行コンプラ疲れの特効薬となるか

2014年5月号

ERM事業企画部 上級研究員 小林孝明

2013年11月の会社法改正、取引所上場規則の改正に続き、2014年2月に金融庁の監督指針が改正され、銀行への社外独立取締役設置が実質的に必須となった。銀行が社外独立取締役の設置をスムーズに推進するためには、検査マニュアルの見直し等、当局による誘導策が効果的である。

 2014年2月金融庁より監督指針の改正案が公表され、メガバンクグループなどG-SIFIs(※1)に指定されている銀行持株会社は“委員会設置会社への移行”を必須とし、そのグループ銀行やその他すべての上場銀行には“1名以上の独立性の高い社外取締役の確保”を義務(※2)とすることとなった。この改正の背景として、2013年11月の会社法および証券取引所上場規則の改正案において、“社外独立取締役の設置”が努力目標として強化されたことがあると思われる。さらに言えば、同じく2013年に反社会的勢力との取引が発覚した大手銀行が社外取締役を設置していなかった事実(※3)も、大きく影響しているだろう。

 本稿では、社外独立取締役(※4)の設置を推進するため、銀行や当局がとるべき対応策を論じた。

銀行における社外独立取締役設置の現状

 まずは、現状の銀行における社外独立取締役の選任状況を確認してみた。図表の通り、大手銀行と地方銀行(※5)では設置率に大きな隔たりが見られた。

 [大手銀行]の場合、1社を除き複数名の社外取締役を設置するなど、グローバル視点で見ても著しく遅れているとは言い難い。一方[地方銀行]の場合、社外取締役の設置率は66.2%と全業種平均(62.3%)並み(東証一部上場企業の設置率を全業種平均とした;以下同様)だが、[第二地方銀行]になると56.4%と全業種平均を下回り、東証二部(46.3%)やJASDAQ(41.0%)並みの設置率に落ちていく。さらに、独立取締役の届出状況(※6)も加味すると、銀行業界の社外独立取締役の設置率は全業種平均並みか、1~2割程度下回っている実態が浮かび上がる。

社外独立取締役のいる風景をイメージする

 1)「取締役」と「執行役」を分離しよう

 そこで、社外独立取締役の設置への障害となっている主な要因を分析してみた。

 一つ目として、銀行の取締役会における社外独立取締役の役割がイメージできていないため、設置の有効性が感じられていないからではないかと考える。社外独立取締役の人数が増えてくると、社外独立取締役に対する説明機会が増す。その説明は、当該業務を最もよく熟知しているべき執行役が中心となって果たされることから、「取締役」と「執行役」の責任が明確に分離され、取締役による牽制がより高まることとなる。結果、従来の取締役会より、深遠な議論や効率的な運営ができるようになるという効果が得られると考えられる。

 このような期待効果が想定されるものの、いまだ旧態依然とした取締役会を運営している銀行も多い。たとえば先日、某銀行の社外独立取締役であるメーカー経営者から『銀行の取締役会というのはいつも個別の決議案件ばかり議論し、いったい何時、戦略案件を議論するのか?』との嘆きの声を聞いた。これは換言すると『銀行経営は、さほど戦略を練らずとも成り立っていけるほど甘いのか』という厳しい指摘だとも解釈できる。本来あるべき取締役会とは、銀行経営そのものである戦略案件に、十二分に議論できる時間を割けるようにしなければならないのではないか。

 「取締役」と「執行役」を明確に役割分担させ、取締役会を効率的に運営させることができれば、上述の某メーカー経営者が指摘しているように従来手薄であった戦略案件にも、議論の厚みを持たせられるようになる。是非この機会に、銀行としてのあるべき取締役会の姿をイメージし、その期待される効果を熟考してほしい。

 2)社外独立取締役の役割を定義してみよう

 二つ目として、銀行の取締役に課せられた役割が、あまりに多く細かすぎ、消化しきれていないことが障害となっているのではないかと思う。たとえば、当局の金融検査マニュアルに記載されている「取締役のなすべき役割」を抽出(※7)してみると、実に468項目の大量かつ多岐にわたる役割が規定されている。この468という数はあまりに多すぎると感じるのではないだろうか。実際、昨年の金融検査方針の改定(金融モニタリング基本方針の公表)の背景として「金融機関がコンプライアンス疲れを起こしている」という現場からの声があった。ここでいう“コンプラ疲れ”とは、取締役が担うべきコンプライアンスに係る役割が膨大な数にのぼり、結果として取締役会がコンプライアンス決議案件ばかりに翻弄され、組織疲労を起こしている実態を表していると考えられる。

 そこで、この468項目を「執行役」「取締役」さらに「社外独立取締役」それぞれがなすべき役割へと整理分割しなおすことが、本来あるべき取締役会の再構築に向けて、銀行が取るべきアクションの第一歩であると考える。

銀行が社外独立取締役をより活用できるための誘導策

 ただ、社外独立取締役の制度はまだ歴史が浅く発展途上にあるため、留意すべき点が多数ある。たとえば、企業価値との正の相関関係は実証されていないなど「導入すれば自ずと何かが良くなる」という類のものではない。

 そこで提案だが、当局における次の検査マニュアル改正時に、468項目の削減見直しと共に、銀行の社外独立取締役のあるべき像(ベストプラクティス像)を定義し、それを具現化するための各構成要素をチェックリストに記載するなど、検査マニュアルを社外独立取締役制度に対して最適化していくことはできないだろうか。銀行は、その内容を咀嚼、創意・工夫することで、よりスムーズな制度移行を推進することができるようになる。

 このような施策こそ、当局にしかできない誘導策であり、銀行の“コンプラ疲れ”を真に解消できる、最も効能の高い特効薬の一つとなるのではないだろうか。

1) G-SIFIs(Global Systemically Important Financial Institutions)は、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループが該当している。
2) 監督指針には『少なくとも1名以上の独立性の高い社外取締役が確保されているか検証することとする』(下線筆者)と記載されており、義務表現としながらも、“検証=事実を確かめる”という文言も加え、双方向の議論を促す工夫がうかがえる。
3) 平成26年1月17日付みずほ銀行「業務改善計画の提出について」によると、平成25年11月付で社外取締役を選任した。
4) 本稿では、原典から引用した表記の場合を除き「社外独立取締役」表記に統一した。
5) 地方銀行とその銀行持株会社65社および第二地方銀行とその銀行持株会社39社(行)を調査対象とした。
6) 証券取引所には独立役員である旨の届出が必要であり、実質的に独立要件を満たしていても届出していない銀行は「届出記載なし」にカウントしている。そのため、図表上、独立取締役を選任している銀行の数は少なめに表示されている。
7) 平成26年2月付金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)の内、別紙・別表を除く全ての確認検査用チェックリストより、「取締役」「担当取締役」「代表取締役」「取締役会」「取締役会等」が主語となっているチェック項目を抽出した。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

小林 孝明

小林孝明Takaaki Kobayashi

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:リスク経営管理、規制動向調査・分析

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