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議決権種類株式の存在意義

2014年5月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

創業者である社長が普通株式の10倍の議決権を付与された種類株式を保有し、出資割合に比例しない議決権を握る会社が、東証市場で株式新規公開(IPO)を行った。世界的にみても研究開発型企業を中心に同じような例があり、種類株式による議決権の制約は一定の範囲で許容されるべきである。

サイバーダインの上場

 2014年3月、大学発ベンチャー企業として知られ、介護ロボットスーツを開発・販売するサイバーダインが、東京証券取引所(以下「東証」という)のマザーズ市場に株式を上場した。

 同社の上場が特筆に値するのは、単に同社が技術力の高い研究開発型のベンチャー企業だからというだけではない。同社は、上場した普通株式のほかに、普通株式の10倍の議決権を付与された種類株式を発行しており、同社の創業者であり代表取締役社長を務める山海嘉之筑波大学大学院教授が、出資割合は49.31%でありながら、議決権の89.89%を握るという独特のガバナンス構造をとっているからである。

 会社法は株主平等原則を定め、普通株式の株主は、出資の割合に応じて議決権を保有する。しかし、普通株式とは種類の異なる株式(種類株式)を用いることで、議決権に差異を設けることも容認されている。

多様化する種類株式

 かつての商法は、種類株式の発行を厳しく制限した。上場会社による種類株式の発行例は、優先配当を受けられる代わりに議決権がなく、優先配当が支払われない場合には議決権が復活する優先株式に限られた。

 また、1990年代以降、銀行等による優先株式発行が相次いだが、いずれも上場されていたのは普通株式のみで、議決権の制約を受ける優先株式は上場されなかった。

 一方、1990年代半ば以降、2005年の会社法制定に至る一連の法律改正では、定款自治の範囲を拡大し、会社経営の柔軟性・機動性を高めるといった観点から、種類株式の自由化・多様化が進められた。

 この制度改革を受けて、サイバーダインの上場以前にも、経営上の一定の重要事項について拒否権を行使できる黄金株などが存在するなど、議決権について一般の普通株式とは異なる制約のある株式が、東証市場に上場されるという例も現れていた(図表)。

議決権制約の問題点と意義

 海外の株式市場では、しばしば敵対的買収が試みられる。投資ファンド等の買収者が、上場会社に対して、当該会社の経営陣の意向に反する株式公開買付け(TOB)を実施し、経営支配権の獲得を目指すのである。

 敵対的買収を仕掛ける買収者は、標的となる会社が、価値の高い経営資源(財務諸表に表れる資産だけでなく、優れた従業員や取引先などを含む)を有していながら、経営の失敗で潜在的な企業価値を実現できていないと考える。つまり、標的会社の株価は割安に放置されており、敵対的買収で現経営陣を排除し、代わりに優秀な経営者を送り込めば、本来の企業価値を実現できるというのである。

 この判断が正しければ、買収後に標的会社の株価は大きく上昇し、買収者はキャピタル・ゲインを獲得できる。他方、標的会社の既存株主にとっても、株価が割安に放置されているのは好ましくないので、現在の株価に一定のプレミアムを上乗せした価格でTOBが実施されれば、多くの株主が応募するだろう。こうして敵対的買収は、買収者に大きな利益をもたらすと同時に、潜在的な企業価値を実現することで、社会全体の厚生を高めると、理論的には考えられる。

 もっとも、この理論が概ね正しいとしても、株価が常に企業価値を適正に反映できるとは限らないし、敵対的買収者が自己の能力を過信したり、潜在的な企業価値を過大評価することもあり得る。また、買収者の動機が、企業価値向上ではないこともあり得る。その場合は、敵対的買収による経営支配権の異動を自由に認めたのでは、かえって株主の利益を毀損したり、社会全体の厚生を低下させたりすることになりかねない。そこで、少なくとも米国や日本では、買収防衛策の導入や発動が一定の範囲内で許容されている。

 種類株式の発行によって上場株式の議決権に制約を課すことは、強力な買収防衛策ともなり得る。それはコーポレート・ガバナンスのあり方を歪めるものだが、海外市場では早くから容認されてきた。創業者等に普通株式の10倍の議決権を与えたまま株式新規公開(IPO)を行ったグーグルは、その一例である。

 最近では、中国の大手電子商取引企業である阿里把把集団(アリババ)が議決権の制約を原則として認めない香港市場ではなく、米国市場に株式を上場する方針を明らかにした。今回のサイバーダインもそうだが、技術力の高い企業が、議決権に制約を課そうとするケースが増えているのである。

 これは決して偶然ではない。研究開発型企業への投資家の多くは、形式的な株主間の平等や敵対的買収の脅威による経営規律の維持よりも、企業価値向上の鍵を握る現在の経営陣が、経営に関与し続けることを重視するからである。コーポレート・ガバナンスの歪みを伴うような会社が上場企業の大宗を占めるようなことでは問題だが、種類株式による議決権の制約は、一定の範囲内で許容されるべきだろう。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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