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金融機関のバリウム検査

2014年5月号

銭谷馨

「鼻からにしますか?口からにしますか?」“楽なほうがいいんですが”「鼻の方が楽と言われていますが、どっちも一緒です。人それぞれですね」

 「げっぷは、我慢して下さいね」「はい。コップを持って、ごっくん」「残り、全部飲んじゃって下さい」“げ(心の声)”「右側から1回転して下さい」

 毎年、人間ドックで、内視鏡検査(胃カメラ)にするかバリウム検査にするか、迷われている方も多いのではないだろうか。どちらの検査も、胃癌の早期発見を期待して受診しているものだ。胃カメラは、胃の内部を鮮明に映し出すことができるため、腫瘍の大きさや位置を正確に知ることができる。また、腫瘍らしきものを発見したら、胃の組織を採取することもできるため、顕微鏡を使った病理検査によって悪性か良性かを判別できる。一方、バリウム検査は、胃に流し込んだバリウムから、胃の形状を見て、異変がないかどうかを判断する。そのため、バリウム検査よりも胃カメラの方が、検査の精度は高いとされている。

 では、なぜ、バリウム検査はなくならないのだろうか。しかも、ほとんどの人間ドックは、バリウム検査をデフォルトにしている。その理由を限定することは難しいが、医学的な理由の一つとして考えられるのが、スキルス胃癌の発見だ。

 スキルス胃癌は、胃癌の中でも悪性度が高いこと、転移しやすいこと、また、早期発見が難しいこと等から非常に恐れられている。胃癌の多くは一番内側にある胃粘膜に変化があらわれるのに対し、スキルス胃癌は、胃の壁全体で癌細胞が増殖するという特徴を持つ。そのため、粘膜の変化を捉える胃カメラで見ても、初期の場合には発見されにくい。一方、スキルス胃癌は、胃が硬化していく等、胃の形状に変化が見られることから、形状の変化の発見を得意とするバリウム検査が、その強みを発揮する。

 「木を見て森を見ず」という言葉であらわされるように、一面にこだわりすぎると全体像を正しく判断することが難しくなることはよくある。先の金融危機以降、バーゼルⅢに代表されるように、金融機関への規制はより厳しく、詳細なものとなっている。しかし、細かく規制の網をかけたとしても、それだけで金融機関の健全性が確保されるわけではない。やはり、全体を俯瞰する仕組みがあってこそ、金融機関の健全性と金融業界の安定性が維持できるのだ。

 人にしろ、金融機関にしろ、検査は嫌なもの。でもそれが必要なときもある。できることなら、胃の検査は体重計に乗るだけで済ませられないものか。あ、でも、体重測定が一番嫌かも。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

銭谷馨Kaori Zeniya

金融イノベーション研究部
上級研究員

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