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貸金業者におけるシステムリスク管理の強化

2014年4月号

ERM事業企画部 副主任コンサルタント 室井裕喜

昨年改正された貸金業者向けの総合的な監督指針では、新たにシステムリスクに関する項目が追加された。これを受け、各社はシステムリスク管理態勢の整備を進めているが、監督指針改正への対応に留まらない能動的な管理態勢の構築が望まれる。

 消費者金融会社やクレジットカード会社(※1)などの貸金業者に対し、またもや厳しい規制が設けられた。

 多重債務(※2)が社会的な問題となったことを受けて、過剰な貸付け抑制等の厳しい規制(※3)が導入されていることは、ご存知の通りである。これに加えて、金融庁による2013年7月の貸金業者向けの総合的な監督指針改正に伴い、システムリスク(※4)管理の強化が求められるようになったのである。

求められているシステムリスク管理強化の概要

 まずは、貸金業者がどのようなシステムリスク管理を求められているか、監督指針の概要を整理したい。

 監督指針改正で追加された「システムリスク管理態勢」の構成はおおまかに前文と着眼点からなる。前文には「各着眼点に記述されているとおりの対応がなされていない場合にあっても、当該貸金業者の規模などの特性を考慮し、一概に不適切とするものではない」という旨の重要な前置きがある。これは貸金業者の特徴を考慮したものと考えられる。貸金業者の数は2014年1月末時点で2,136社にも上り、数多くの中小規模の貸金業者が存在するという特徴がある。また、貸金業者の中には消費者金融会社などの貸金専業の事業者の他に、クレジットカード会社、リース会社、不動産会社等、貸金業務を兼業として行っている事業者が多く存在するといった特徴もある。これら、中小の貸金業者や兼業の貸金業者が大手の専業の貸金業者と同様の対応を行うことは難しいため、このような前提が置かれているのであろう。

 一方、着眼点においては、図表に示す12の項目について詳細な評価事項が示されている。着眼点①と②は主にシステムリスク管理全般に関するものであり、経営陣の関与や、システムリスクの重要性を認識した上での態勢整備等を求めている。③以降ではシステムリスク管理における個別のテーマへの対応を求めている。なお、各着眼点の詳細な評価事項は、主要行向けの監督指針とほぼ同じ記載であり、厳しい内容といえるだろう。

システムリスク管理強化における課題と対応

 監督指針改正を受け、各社は対応を進めているが、中小の貸金業者や兼業の貸金業者は特に対応方針の決定に苦慮しているようである。これは、監督指針では各事業者の特性に応じ対応を求めるとしているため、何を優先し、どこまで対応すべきかが明記されておらず、判断に迷うためである。以下では、最も判断に迷うという声の聞かれた2つのケースについて、対応を検討する。

 1)中小貸金業者における外部委託先管理(着眼点⑦)

 監督指針では、外部委託先管理(着眼点⑦)において、受払等業務委託先(ATM運営会社等)の管理を求めている。ATM運営会社は、銀行等の金融機関と、それ以外のサービス業に属する事業者の大きく2つに分類できる。このうち銀行は主要行等向けの総合的な監督指針等で直接的にATMの管理を求められているため、「受払等業務委託先が銀行であれば管理は不要ではないか」という意見が聞かれる。しかし、監督指針に受払等業務委託先の対象として銀行を含むことが明記されており、かつ、銀行に比べてサービス業に属する事業者の管理を重要視している表現は見られないため、銀行を含む受払等業務委託先の管理が必要である。ただ監督指針では、受払等業務委託先の管理のなかでシステム更改時の対応については具体的に記載されており、重要視していることが伺える。よって、受払等委託先の管理では、システム更改時の管理に焦点を当て、優先的に取り組むことが考えられるのではないだろうか。

 2)兼業貸金業者におけるコンティンジェンシープラン(着眼点⑨)

 監督指針では、コンティンジェンシープラン(着眼点⑨)において、貸金業務への影響が大きい重要なシステムは遠隔地に予備のシステムを構築するなどして、速やかに業務を継続できる態勢の整備を求めている。しかし、兼業貸金業者では、自社の業務全体に占める貸金業務の割合が低いため、対応は不要ではないかという意見が聞かれた。しかし、貸金業界全体の貸付金額で見ると、兼業者の市場に占めるシェアは実は相当に大きいのである(※5)。仮に、兼業であることを理由に、速やかな業務継続の対象外としてしまうと、災害時における貸金需要者への影響は甚大となってしまう。したがって、兼業者は市場に占める自社の貸付金額の割合も考慮に入れ(※6)、予備システム構築等の対応の要否を決定する必要がある。

監督指針への対応に留まらないシステムリスク管理強化の勧め

 ここまで、監督指針への対応として判断に迷う2つのケースについて、システムリスク管理の強化案を考察した。しかし、監督指針への対応だけに終始しないように気をつける必要がある。

 監督指針では、システムの停止、誤作動、不正使用、法令違反等を中心とした下ぶれに関する不確実性、つまり「守り」の観点からシステムリスクを捉えている。しかし、リスクを単に不確実性と考えた場合、コストの削減やシステムユーザー(顧客・従業員)の満足度向上等にいかに貢献するかという、上ぶれも含む不確実性、つまり「攻め」の観点からもシステムリスクを捉えることができる。例えば、運用・保守コストが増大しているシステムについて、そうした事態を事前に防ぐことができなかったかを検証し、システム企画や開発における社内ルールとして反映していく枠組みを整備することが考えられる。また、システムユーザーからの問合せ・要望・苦情を分析し、システムユーザーの満足度向上に向け投資を行うことも考えられるだろう。

 この度の監督指針改正をコスト増や管理負担増の逆風とだけ捉えるのではく、「攻め」の観点で自社のシステムリスク管理態勢強化を検討することが重要である。

1) キャッシング枠を提供しているクレジットカード会社が貸金業者にあたる。ショッピング枠のみの提供の場合は貸金業者に該当しない。
2) 複数の金融機関から借り入れを繰り返し、返済能力を超えた借金を抱えてしまう問題。
3) 年収等の3分の1を超える貸付けの原則禁止や利息制限法所定の制限利率(15%~20%)を超える貸付けの禁止等が貸金業法改正に伴い定められた。
4) 金融庁監督指針では「コンピュータシステムのダウン又は誤作動等、システムの不備若しくはコンピュータが不正に使用されることにより、資金需要者等又は貸金業者が損失を被るリスク」と定義している。
5) 日本貸金業協会月次統計資料によると、2013年12月の消費者向け無担保貸付金額合計は、専業の貸金業者である消費者金融業態において約689億円、兼業の貸金業者であるクレジット業態において約1207億円であり、兼業の貸金業者のシェアは高い。
6) 具体的に閾値を設定する際には、類似の規制等で設定されている数値を参考にすると良い。たとえば、銀行の自己資本比率規制(平成18年金融庁告示第19号)のオペレーショナルリスク(システムリスクを含むリスク分類)におけるリスク計量手法の要件に『連結グループのリスク計量において、粗利益が連結全体の「2%以上」を占める法人を重要な法人として、計量対象としなければならない』という重要性の原則を定めている(なお、本要件では2%未満であっても計量対象としなければならない条件についても定めている)。この例を取れば、自社の貸金比率が、業界の2%を超えていれば、市場に与える影響が少なくない、と判断するなどの考え方ができる。ただし、何%を基準とするかは、自社が最終判断すべきであることは言うまでもない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

室井 裕喜

室井裕喜Yuki Muroi

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