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急速に伸びる中国のインターネット金融

2014年3月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

中国ではインターネット金融がホットな話題である。特に、昨年のアリババによる「余額宝」導入は金融革新の点からも画期的であった。一方、投資家保護の新たな規制も必要とされる。

2013年はインターネット金融元年

 中国金融の話題と言えば、日本ではシャドーバンキングが中心であるが、中国ではインターネット金融がホットな話題である。

 中国のインターネット金融の現状を見ると、大きく分けてeコマース等のインターネット関連会社の金融分野への進出と伝統的金融機関の業務のインターネット化(ネットバンキング、証券業務のネット利用等)の二つの流れがあり、後述するように一部では競争・協同が見られる。一方、金融の機能という角度から見れば、①支払・決済、②融資(小口融資、サプライチェーン融資、P2P)、③資金運用(ファンド、保険等の販売)等に分けられる(※1)。また、eコマースで蓄積されたビッグデータが顧客の信用評価等で活用されている。

 こうした中で、2013年6月に中国eコマース最大手のアリババが導入した「余額宝」が中国金融界に与えたインパクトは絶大であった。これは、アリババのネット決済サービス「支付宝」(アリペイ)(※2)に口座を持つ顧客が、口座上の遊休資金をマネーマーケットファンドに投資する仕組みである。1元から購入可能で、いつでも換金可能、つまりネット上で買い物ができる。

 資金は天弘基金管理会社(投信運用会社)のマネーマーケットファンド「増利宝」で運用されており、収益は毎日ネット上で確認できる。天弘基金の発表によると、2014年1月に同ファンドの規模は2500億元を超え、中国最大規模のファンドとなっている(※3)。

 「余額宝」の成功を受けて、インターネット関連会社と基金管理会社による類似商品が次々と発売されている。大手検索サイトの百度(バイドゥ)と嘉実基金による「百発」(2013年12月発売)、ファンド販売会社の天天基金網と基金会社3社(易方達・鵬華・信誠)による理財商品(12月発売)、チャットソフトの騰訊(テンセント)と基金会社4社(華夏・匯添富・易方達・広発)による「微信理財通」(※4)(14年1月発売)等がある。

 これら一連の動きの意義は、第一に、市場主導の金融自由化を推進したことである。消費者に事実上、市場金利が付いた決済性預金を提供したことで、1980年代初頭の米国の金融革新になぞらえる向きもある。

 第二に、公募ファンド業界に革新をもたらした。公募ファンドの最低購入額を、これまでの通常1000元から1元まで引き下げたことで大衆化が進んだ。また、ネット利用者は若いことから、ファンド購入者が若年層にまで拡がった。さらに、これまで銀行窓販が主であった公募ファンドの販売チャネルの多様化にも通じる。

 銀行の側からすれば、個人預金の流出や窓販業務の減少に結びつきかねない。このため、対抗する理財商品の開発やネットビジネスの取り込みを迫られている。このように、シャドーバンキングと並行して「金融×インターネット」の組合せが、市場の側から金融革新(金利自由化、業態自由化、他業界の乗り入れ)を推進している。

リスクの防止と規制の強化

 インターネット金融は、急速に発展しているがゆえに規制が追いついていない。インターネット金融に対する当局の姿勢を見ると、人民銀行は、インターネット金融について、伝統的な金融とは異なるルートで金融の効率を高めており、「現行金融体系の有益な補充」であると肯定的に評価している(※5)。その上で、伝統金融業と比べると、インターネット金融のリスクは消費者情報セキュリティーとリスクコントロールに集中しており、今後はインターネット金融の健全な発展を促進するために、その特徴と影響を研究し、監督管理部門を明確にし、金融消費者への教育と保護を強化していく、としている。

 監督管理の体制が今後整っていくと予想される一方、現実にはリスクの芽も現れている。上述のインターネットのファンド販売を例に見ると、余額宝の成功後に販売された商品の発売時(12月)の「収益率」が8%から10%程度とかなり高く、これが問題視されている(※6)。この背景には、ネット関連会社が、ファンド販売のプラットフォームを提供するのみならず、マネーマーケットファンドの運用益とは別に資金等を補填することで、見かけの収益率を引き上げていることがある(※7)。ケースによっては違法販売行為の疑いが指摘されている(※8)。

 証券監督管理委員会は、既に、2013年11月にインターネットのファンド販売業務における違法行為を取り締まるとしており、2014年にも、一部の高収益を謳った違法販売行為(ファンドの高収益だけ強調しリスク提示が不足する、販売促進のための補填をファンドの収益と一緒にして宣伝する等)を取り締るとした(※9)。既に、一部では是正勧告が出ている。

 ここではインターネットのファンドを例に見たが、ネット金融における消費者(投資家)保護の動きは、ようやく始まったところである。インターネット金融は、新しい分野であることに加えて、金融各業態のみならずeコマース等のネット企業等、異なる業界も乗り入れてくる分野である。このため、これまでの縦割りの行政の見直しを含めて、今後は規制の空白部分を埋める動きが出てくると予想される。

1) 2013年10月号「アリババ小口貸出の資産証券化商品」参照。
2) 支付宝はC2Cのタオバオ「淘宝」の決済のための第三者支払プラットフォームとして2004年設立。ネット上の決済サービス(エスクローサービス)を提供する。
3) 天弘基金の運用会社としての規模は、2013年末時点で華夏基金に次いで第2位であったが、2014年1月には第1位になったと見られる。
4) 微信はLINEのようなツール。
5)『2013年第2四半期金融政策執行報告』。ネット金融のツールの透明度が高いこと、参加者が広範であること、中間コストが低いこと、支払いが速いこと、信用データが豊富でデータ処理効率が高いこと等を指摘している。
6) 例えば、2013年11月、12月の1ヵ月、3ヵ月物のレポ金利は概ね6%台。
7) これは顧客囲い込みのためであり、補填の期間は例えば1カ月というように短い。
8) ネット上のファンド販売では、ファンドの販売資格を持たない業者が、ファンド販売のプラットフォームを提供する形で参加している。彼らは、「証券投資基金販売管理弁法」の範囲に入らないため、本来のファンドの運用益とは別に、ファンドの持分追加といった形で補填を行っている。
9) 証券監督管理委員会記者会見(2013年11月、2014年1月)。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

Writer’s Profile

神宮健

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融システム研究部長
専門:中国経済・金融資本市場

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