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スマート・ベータのリスクとコスト

2014年2月号

金融ITイノベーション研究部 主任研究員 浦壁厚郎

指数提供会社や運用機関の提案するスマート・ベータは、伝統的なアクティブ運用ともパッシブ運用とも異なった特徴がある。投資家はこの違いを理解した上で投資を検討するべきである。

高まるスマート・ベータへの関心

 近年、大手の指数提供会社等がスマート・ベータ指数を盛んに提案しており、投資家の関心を惹いている。運用機関もスマート・ベータ指数に対するパッシブ運用商品など、このコンセプトに依拠した運用商品を提案しており、投資可能性も高まりつつある状況にある。

 スマート・ベータ指数とは、広範な銘柄群を時価総額で加重した「市場指数」に対して、①特定の属性を持つ銘柄を対象に、②時価総額以外の基準でウェイトを付与することで構成される指数である。ファンダメンタル指数や低ボラティリティ戦略(最小分散)指数が代表的で、ある程度系統的に存在が確認できる特定のプレミアムを対象に、その享受を目指す設計になっているものが多い(※1)。バックテストによれば、多くのスマート・ベータ指数の長期のパフォーマンスは市場指数よりも優れている。

 スマート・ベータが関心を集める背景は2つある。1つは、従来広く用いられてきた市場指数の非効率性を示す実証的な証拠が蓄積されてきたこと、いま1つはアクティブ運用の成果に対する投資家の不信である。こうした関心に合わせて、スマート・ベータをアクティブとパッシブの中間的なものと位置づけ、パッシブ運用の効率的な補完や、アクティブ運用の安価な代替としての効能を強調する提案が多く見られる。

スマート・ベータのリスクとコスト

 しかし投資家サイドには注意すべき点がある。

 第1に、想定するプレミアムが短期にリターンとして実現するとは限らないことである。実際、スマート・ベータ指数は数年のスパンで市場指数に劣後することがあり、この意味で投資タイミングを選ぶ。また構造的な要因として、例えば低ボラティリティ戦略は金融危機以後に多数の業者が参入して資金を集めたことによって、低ボラティリティ銘柄のバリュエーションが近年高まっているという(※2)。多くの投資家がスマート・ベータ指数への投資を行えば、それ自体が市場ポートフォリオに近づいてしまうわけである。年金等の投資家としては、リターンの源泉が何かを理解するとともに、可能ならば合理的なバリュエーションで投資開始すべきである。また、複数のスマート・ベータ指数への適切なアロケーションや、近視眼的な損失回避を避けるための管理とガバナンスが求められよう。

 第2に、パフォーマンスに対する責任の所在が投資家に移転することである。通常のアクティブ運用であれば、パフォーマンスがベンチマークに劣後したとき、運用者にはその状況を改善するインセンティブが働く。しかしスマート・ベータの場合、実質的な運用者である指数提供会社にはこうしたインセンティブは機能しにくい。指数提供会社は指数の一貫性にも責任を負っているので、指数構築ルールの変更を安易に行えないことがその理由になる。たとえパフォーマンスの振るわないアクティブ運用の代替としてスマート・ベータを採用したとしても、そのパフォーマンス責任は、その指数への投資を決めた投資家が全面的に負うべきものである。

 第3は、市場指数に比べて複製コストが高いことである。概ね買い持ちによって再現できる市場指数のパッシブ運用とは異なり、スマート・ベータ指数に対するパッシブ運用には定期的なトレードが必要となり、この取引コストが、実際の運用を指数のパフォーマンスに劣後させる要因になる。運用機関がこの乖離を避ける工夫を必要とする分、そのための管理コストが、指数提供会社へのライセンス・フィーとともに、運用報酬を高める形で投資家に転嫁されることにもなるだろう。回転率の制約や流動性への配慮など、再現性を担保するための指数の設計上の工夫を注意深く見るとともに、運用機関から提示されるフィーの水準の妥当性にも注意を払うべきである。

「JPX日経インデックス400」はスマート・ベータか

 本年1月に算出が開始された「JPX日経インデックス400」指数は、ROEの水準や利益規模などを主要な基準として銘柄選択を行う(ただし加重は浮動株調整後の、1.5%のウェイト上限付時価総額による)日本株指数である。既に複数の運用機関が、同指数に対するパッシブ運用商品の組成に動いている。図表にはTOPIXに対する超過収益率の推移を挙げた。

 同指数の銘柄選択基準のうち、ROEはスマート・ベータ指数の「クォリティ」と呼ばれるファクターの1つとして用いられることが多く、利益額も、規模の指標としてファンダメンタル指数でよく用いられているなど、同指数はスマート・ベータ指数と外形的に似た特徴を備えているようにも見える。

 しかしこの真の意図はスマート・ベータとは異なり、指数に採用されるための経営努力を事業会社に広く促すことで、実体面での国内企業の資本効率の向上が期待できることにある。このためには実際にこの指数に投資する投資家が現れなければならないが、この指数はGPIFによって投資されることが概ね確約されている(※3)。

 つまりこの指数は、パッシブ運用のいわば外部効果の方に重点があり、スマート・ベータというよりも、むしろ直接的なリターン追求とは別の投資規範に依拠したSRI(社会的責任投資)やコーポレート・ガバナンス指数と同様のものと考えるべきであろう。指数の意図する資本効率の改善自体が時間を要するし、それに応じた株式パフォーマンスの改善を確認するには、さらに時間を要する。しかも、その改善効果は同指数の構成銘柄だけに現れるものではないので、長期のリターンを享受するためにこの指数へ投資する必要が必ずしもあるわけではないということに注意すべきである。

1)拙稿「株式指数とアクティブ運用の進化」(2013年5月号)参照。
2)Li, Feifei[2013], 'Avoiding Pricey Low Volatility Investing', Simplystated, Research Affiliates.
3)同指数は、主としてGPIFの資産運用のあり方を検討した「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」の報告書(2013年11月)で、パッシブ運用の「より効率的な運用が可能となる指数」として唯一例示されている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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浦壁厚郎

浦壁厚郎Atsuo Urakabe

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