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金融市場パネル報告 第28回金融市場パネル公開コンファレンス

2014年1月号

金融ITイノベーション研究部 竹端克利

野村総合研究所(NRI)は、2013年10月24日に「金融市場パネル:公開コンファレンス」を開催した。「金融市場パネル」は、金融市場の動向と中央銀行の政策を考え、成果を共有するための場として2009年3月にスタートしたもので、28回目の開催となる本会合は公開コンファレンスとして開催した。当日は、従来から本パネルの活動を支援していただいている先を中心に、国内外の金融機関、政策当局、金融メディアの幹部や研究者を招待し、72名の方々にご参加いただいた。

 コンファレンスにおける議論の詳細はNRIのホームページで開示しているが、本稿では、本コンファレンスの企画と運営を担当してきた立場から、その概要について簡単に報告したい。

基調講演:海外中央銀行による政策運営とその展望―米国とトルコにおける非伝統的金融政策

 日本銀行 国際局長 外山 晴之氏

 外山氏は、米国の連邦準備理事会(FRB)とトルコ中央銀行による非伝統的金融政策を概観した上で、総括として①非伝統的金融政策は通常ではない事態に対応するための異例の方策として導入されたものであること、②どのような手段が採用されるかは各中央銀行に与えられたマンデートや対処すべき問題等に依存すること、③非伝統的金融政策は財政政策や経済構造改革の代替にはなりえず、むしろそれらの政策が適切に実行されて最大限効果が発揮されること、④金融政策の則を広げ過ぎると却って中央銀行に対する信認が毀損するリスクがあること、⑤非伝統的金融政策は通常ではない事態に対して実施されるため、事後的にも政策の効果や副作用を切り出して認識するのは難しいこと、の5点を指摘した。

パネルディスカッション(第1部):FRBによる量的緩和の評価とインプリケーション

 第1部では、FRBによる量的緩和の効果及び副作用と、それらの議論が持つ日本へのインプリケーションについて議論を行った。

 一点目について、加藤氏は、FRBによる資産買入れは相応の景気刺激効果があったと評価する一方で、出口政策が成功しないと政策全体としてポジティブに評価することは難しいと指摘した。江川氏は、FRBが保有する国債やMBSについて、ストックの観点からみて過度に大規模とまでは言えないとしても、仮に保有資産の売却を試みた場合、そのこと自体が市場価格に影響を与え、FRBに大きな損失をもたらす可能性があると指摘した。大島氏は、FRBが資産買入れの舵取りを変えようとした背景の一つには、いわゆる「シャドーバンキング」の領域でバブル的な動きが見られた可能性が高いと指摘した上で、FRBはバブルが生ずるリスクに目配りしながら出口を探る必要があり、非常に難しい課題を抱えていると述べた。

  

 二点目について、細野氏は金融システム全体としては現在のところ安定していると評価した上で、米国の場合は金融緩和で「時間を買う」間にどのように金融規制を導入するかが課題になるが、日本の場合はその間に財政健全化を含む経済構造改革をどう進めるかが重要な課題となると指摘した。渡部氏は、「QE1」や「QE2」に関する実証分析の多くは、FRBの資産買入れによる金利や株価等の資産価格への効果を示唆している一方、景気や物価といった実体経済に与える影響は限定的とするものが多いと説明した。内田氏は、米国では金融緩和と財政引締めのポリシーミックスが採用されているのに対し、日本では金融緩和と財政出動の組合せが採用されていると整理した。その上で、日本にとっての「正常化」は、金融政策と財政政策の双方の出口政策が求められるため、経済への影響を考えるとより難しいかじ取りが求められると指摘した。

  

基調講演:日本の財政健全化とその展望

 財務省 大臣官房総括審議官 浅川 雅嗣氏

 浅川氏は、「アベノミクス」における財政の位置づけ、我が国の財政状況、消費税率引き上げに伴う経済対策、の3点について説明した。その上で、「アベノミクス」はこれまで順調に実績を挙げている一方、賃金上昇を伴わない物価上昇に陥るリスクや、デフレ脱却前に名目金利が上昇する「悪い金利上昇」が発生するリスクがあるとし、それらを防ぐために政府として経済の好循環を実現するよう努めること、財政健全化や税と社会保障の一体改革を着実に進めることが重要だと述べた。加えて、不可避的に少子高齢化が進む中で社会保障システムの安定化を図るには消費税率の引上げは不可欠であり、税率の引上げを巡る議論は短期的な景気への影響という観点ではなく、透明性と公平性を担保した負担の仕組みを如何に構築するかという観点から議論されるべきであると指摘した。

パネルディスカッション(第2部):財政健全化の下での中央銀行の政策

 第2部では、金融面からみた「量的・質的金融緩和」の評価、財政健全化の下での「量的・質的金融緩和」の運営、の2つの論点について議論を行った。

 一点目について高田氏は、金融政策の波及チャネルが、信用乗数を介して貸出が増減するルートから、90年代を境に、為替市場での自国通貨安と金融機関による国債投資というルートに変わったとした上で、財政政策と金融政策が事実上一体化していると指摘した。徳島氏は、現時点では生命保険や年金基金にポートフォリオ・リバランス効果は認められないとしながらも、低金利が継続すれば生命保険に外債投資に乗り出す先が出る可能性があるほか、年金基金にもリスクテイクを積極化する先が出る可能性があると指摘した。根本氏は、「量的・質的金融緩和」が民間銀行へ与えた影響について、貸出姿勢が若干ながら積極化したこと、国債保有に抑制的になったこと、預貸金利鞘や有価証券利回りが低下し収益環境が厳しくなったこと、の3点を指摘した。

  

 二点目について北村氏は、政府と中央銀行の距離が近くなりすぎると財政規律が緩むリスクがあると述べた。加えて、「量的・質的金融緩和」について、出口に関する議論が曖昧にされている点について懸念を示した。翁氏は、「マクロプルーデンス」の目的は、リーマンショック直後は資産バブルの防止にあったが、今後は金融機関と中央銀行が大量の国債を保有する中で金融システム安定を維持することが重要になると述べた。その上で、物価と金融システムの双方の安定を確保するために財政健全化に対する信認が極めて重要になると指摘した。柳川氏は、財政政策と金融政策が事実上一体化するという現状を前提に、問題の所在が「財政と金融でどう役割分担するか」から「両者の整合性をどうとるか」に移ったと考えるべきと指摘した。

  

鼎談:「量的・質的金融緩和」の展望―「金融市場パネル」の課題

 須田氏は、「量的・質的金融緩和」の下で、マネタリーベースを2年で2倍に拡大することと、2年程度で2%のインフレ率を達成することの双方とも難しいと指摘した。また、目標が達成できない場合に日銀が追加緩和を実施する可能性はあるが、それは効果よりコストのほうが大きいとの懸念を示した。神津氏は、非伝統的金融政策の波及経路や実体経済への効果を考える上では、金融システム内でのリスクの分布状況や、金融規制の動向と金融機関の対応、さらには財政に対する信認の変化による金利変動といった要素まで視野を拡大することが重要だと述べた。福田氏は、現在までインフレ期待の劇的な改善はみられないと評価した上で、期待主導で生じた景気回復を実体の伴うものへ変える努力が今後は必要になると述べた。一方、「量的・質的金融緩和」には金融システムとの関係で想定外の問題を生ずるリスクもあるため、「マクロプルーデンス」の重要性が増しているとも指摘した。

  

 その後、フロアからは、日銀が将来にわたって国債を容易に売却できないため、出口戦略が不可能ではないかという指摘や、「量的・質的金融緩和」に伴う不動産バブルに注意する必要はないか、という質問が出された。前者に対して福田氏は、出口を迎えた時点でも、日銀は即座に保有国債の売却に向かうわけではないのではないかと回答した。後者に対して神津氏は、足元の不動産価格は上昇基調にあるものの、バブルを懸念すべきか否かは消費税引き上げに伴う駆込みが一段落した時点で判断すべきではないかと回答した。

第28回金融市場パネル公開コンファレンス

2013年10月24日(木)

13:00 主催者挨拶

― 第1部―

13:05 基調講演「海外中央銀行の政策運営とその展望―米国とトルコの非伝統的金融施策―」
外山 晴之氏  日本銀行 国際局長

13:35 パネルディスカッション「FRBによる量的緩和の評価とインプリケーション」
  ・パネリスト
  内田 和人氏  三菱東京UFJ銀行 執行役員
  江川 由紀雄氏 新生証券 調査部長
  大島 周氏   みずほ銀行 執行役員
  加藤 出氏   東短リサーチ 代表取締役社長
  細野 薫氏   学習院大学経済学部 教授
  渡部 敏明氏  一橋大学経済研究所 教授
  ・モデレーター
  井上 哲也   野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

15:05 ― 休憩(20分間) ―

― 第2部―

15:25 基調講演「日本の財政健全化とその展望」
浅川 雅嗣氏  財務省 大臣官房 総括審議官

15:55 パネルディスカッション「財政健全化の下での中央銀行の政策」
  ・パネリスト
  翁 百合氏   日本総合研究所 理事
  北村 行伸氏  一橋大学経済研究所 教授
  高田 創氏   みずほ総合研究所 常務執行役員
  徳島 勝幸氏  ニッセイ基礎研究所 上席研究員
  根本 直子氏  スタンダード&プアーズ マネジング・ディレクター
  柳川 範之氏  東京大学大学院経済学研究科 教授
  ・モデレーター
  井上 哲也   野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

17:25 ― 休憩(5分間) ―

17:30 鼎談「“量的・質的金融緩和”の展望―「金融市場パネル」の課題」
  ・鼎談者
  神津 多可思氏 リコー経済社会研究所 主席研究員
  須田 美矢子氏 キヤノングローバル戦略研究所 特別顧問
  福田 慎一氏  東京大学大学院経済学研究科 教授
  ・司会
  井上 哲也   野村総合研究所 金融ITイノベーション研究部長

18:15 閉会

 

モデレータ/鼎談 司会

 

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

竹端克利

竹端克利Katsutoshi Takehana

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:マクロ経済分析、金融政策分析

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