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CVAは価格の一部です

2013年12月号

投資情報サービス事業部 上席クオンツアナリスト 榛葉清人

CVAは価格の一部であり、デリバティブ取引の取引価格に含むことは半ば常識になりつつある。しかし、日本では、欧米に比べてCVAに対する導入は遅れている。なぜ日本の動きは欧米に比べて遅く、なぜそれで問題は起こらないのか?

 2008年9月リーマンブラザーズが破綻し、デリバティブ取引におけるカウンターパーティリスクが露わになった。その後5年、如何にカウンターパーティリスクをコントロールするかが金融業界における1つの命題となった。その中で重要なポジションにあるのがCVA(Credit Valuation Adjustment)である。

 CVAとは、金利スワップ等の店頭デリバティブ契約等において、取引相手が契約期間中にデフォルトした時に被る期待損失のことである。スワップの評価が自社のプラス(債権が発生)となる際に取引相手のデフォルトする確率とデフォルト時損失率を掛けて計算する。CVAによって、顧客毎の既存ポートフォリオの信用リスク分を把握し、新規の取引について顧客に応分の負担を負わせる、あるいは自分も応分の負担を負う(※1)形での価格の算出が可能となり、さらに時価評価にそういう視点を加えることができる。言われてみれば当然のことのように思えるが、特にリアルタイムで行われる取引ではそう簡単には反映されてこなかったのである(※2)。

CVAは本当に価格の一部なのか?

 他の商品との比較でクレジットリスクを考えてみよう。図表にあるようにCVAを考慮する前のデリバティブ取引は、信用力以外の市場情報については債券のように即時反映するものの、クレジット情報は貸付金と同様に内部格付け等で管理し、クレジットの低下にはデリバティブ契約の中の担保などを含む条項で対応することが一般的であった。リーマン破綻をきっかけに、デリバティブはクレジット情報についても債券と同様に即時反映することが要求されるようになった。スワップ取引がローン取引に比べ高い頻度で実行され、日次あるいはリアルタイムで評価されていることからすれば、これに違和感はない。

 

 価格の一部を構成するはずのCVAがこれまで導入されてこなかった理由としては、①顧客のポートフォリオが大きい場合、CVA計算が複雑になりシステム負荷が大きすぎた、②一般的には金融機関よりも顧客の格付けが低く、その場合は顧客サイドから見て価格が悪くなるため、営業上の観点から反対が多かった、③デリバティブの取引によってそれなりの利益が確保されていたため、個別案件ごとのクレジットを含めた収益管理を厳しく行わなくても問題が生じなかった、などがあげられる。しかし、規制当局からの圧力や国際会計基準等における導入の要請も大きく、またソフトウェアやハードウェアの進歩により①の条件が克服されるようになり、③の条件が崩れてきたことから、②も抵抗力を失った。

 ただ、CVAの導入は価格の把握を難しくする。CVAは単独取引で計算するものではなく、当該取引相手との間に持つ相殺可能なすべての取引を勘案して算出すべきものである。価格にCVAが反映されることで、それまで債券と同様に顧客との関係に関わらず価格が提示されていたものが、取引相手先毎に異なる価格提示になってしまう。CVAの評価基盤を持たない顧客サイドでは価格の妥当性の把握が困難になるのである(※3)。

CVAは如何にして将来の金融危機を防ぐのか?

 ところで単なる数字であるCVAは、如何にして金融危機の防止に貢献するのだろうか。1つは、リスク管理の面から見ればCVAは物事を正しく見るためのモニターとして機能するだろう。CVAによって正しい信用リスクの評価ができれば、特定の相手に対する取引を控えるなどの正しい行動がとれる。こうした行動は昔から行われていたが、例えば20年ぐらい前であれば、それは伝統的な与信判断との足し算・引き算の世界であった。CVAを用いれば格段に“科学的な”方法で、かつ高い頻度でのモニタリングができることになる(※4)。

 2つ目には、CVAが価格に反映されれば、信用連鎖で見て安全な方向に取引が流れることが期待される。例えば、顧客Aが金融機関Bと円高に備えたヘッジ取引を既に行っていたとする。少しの間をおいてAはそれと反対方向の取引をしたいと考え、Bを含む数社に引合いを行ったとしよう。Bは新しい取引によってAとの既存取引と合算したCVAを小さくできるため、ほかの金融機関よりも有利なレートが提示できると考えられる(※5)。AはBとの取引を選択する可能性が高まり、結果的に信用連鎖のリスクが縮小すると期待できる。

日本のCVAの将来は?

 今後CVAは日本でどのように根付いていくのだろうか。いわゆるデリバティブの大手仲介者にとっては欧米金融機関との取引は避けられず、CVA導入は必要条件となるが、それ以外のエンドユーザー、あるいはそれに近い参加者においては危機感が低い。

 これは欧米に比べ本邦金融機関の店頭デリバティブの取引量が少ないことが大きな要因の1つである。円金利デリバティブの取引量は通貨別で第5位(※6)、取引参加者についても外資系の取引量が過半数を占めている(※7)。また取引価格におけるCVAの影響は、集中清算機関を通した取引や相対で担保や証拠金の差し入れを行う場合、なくなるか、かなり小さくなるが、現在の本邦金融機関にとっては担保資産や証拠金用の資金の調達にそれほど困らないことも一因だろう。

 さらに、現在は量的緩和が継続され金利が低位安定してしまっていることも取引量が伸びない要因の1つと思われる。しかし金利の上昇が現実味を帯びてデリバティブ取引の潜在需要が高まり、ソフトウェアやハードウェアの一層の発展により計算コストが取引に見合うようになれば、CVA計測は本格的な広がりをみせるかもしれない(※8)。その時期を待たずに広範囲の市場参加者を対象に早期の導入を実現するためには、複数の計算の選択肢が用意され、コストをシェアできる共同計算ツールのようなインフラの提供が必要なのではないだろうか。

1) CVAの対極にある「自分も応分の負担を負う」部分はDVA(Debt Valuation Adjustment)と呼ばれる。金融ITフォーカス2012年8月号「CVA評価がもたらす公正価値測定へのインパクト」を参照。
2) 米国の金融機関では1990年代から試行されており、リーマン破たん以前から一部に導入されていた。
3) CVAとDVAの価格への反映に対しての反対意見はない。別途FVA(担保調達などのために必要な資金のファンディングコストの調整)を価格に反映するという実務的な方向性があるが、双方に十分な計算能力があってもお互いの仮定がわからず価格が合わないという懸念が一部で示されている。
4)“ 科学的”と書いたが、科学的に計算するための前提条件には脆弱な部分も多い。例えばCVAの計算には一般的にCDS情報を使うが、流動性の高い十分な信頼性を持つCDSレートが取得できない場合も多い。相関係数も必要だが十分な信頼性がある数値の確保は難しい。
5) 他の金融機関より良いレートが出せるとは限らないが、CVAを考慮しない自らのレートよりは“相対的に”良いレートが出せるはずである。
6) 出所:Bank For International Settlement,「 Triennial Central Bank Survey, OTC interest rate derivatives turnover in April 2014: preliminary global results, September 2013」Table 3, Global OTC interest rate derivatives market turnover by currency
7) 出所:ISDA Japan Regulatory Committee、「店頭デリバティブ計算集中義務の適用範囲にかかる要望書」の文中より「平成22年度中の取引フローベース(想定元本ベース。本邦にて執行された取引を対象)」p7,8
8) 単純な取引ばかりであれば集中決済機関で扱えるためCVAの需要が高まらない可能性もある。ここでは金利上昇などの状況になれば、集中決済期間が扱う商品以外の商品の取引も増えると想定。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

榛葉清人

榛葉清人Kiyoto Shimba

投資情報サービス事業部
上席クオンツアナリスト
専門:債券分析

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