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今後の民間医療保険に求められる役割~フランス・オランダを参考に~

2013年12月号

リテールソリューション企画部 上級コンサルタント 野崎洋之

現在我が国で検討されている高額療養費制度等の見直しに伴い、今後、新たな民間医療保険ニーズが生じ得ると考えられる。日本とは異なる特徴を有するフランスやオランダの民間医療保険は今後日本で必要とされる民間医療保険の検討・設計にあたり、示唆に富むものである。

国によって異なる民間医療保険の機能

 現在の日本の民間医療保険は、主に入院や手術あるいは特定の疾病と診断された際などに定額の金銭給付を行うものが主流となっている。しかしながら、諸外国では実際の医療費に基づいて給付額が決定される実損填補型の民間医療保険が提供されている場合が多く、我々になじみのある定額給付を主とした保障内容は、国際的に見れば日本の民間医療保険の特徴の一つであると言える。また、実損填補型の保障を提供する民間医療保険であっても、公的医療保障制度の自己負担部分を保障する「補完(Complementary)機能」を有するものや、公的保障の給付適用外のサービス・治療費用等を保障する「補足(Supplementary)機能」を有するものをはじめ、国によりその機能は様々である(※1)。本稿では、民間医療保険の加入率が93.7%と最も高い(※2)フランスと、それに次ぐ90.0%の加入率を誇るオランダの民間医療保険の特徴を紹介するとともに、今後の我が国の民間医療保険が有すべき役割について考察する。

フランスおよびオランダの民間医療保険の特徴

 フランス、オランダの民間医療保険は、その機能は異なるものの、ともに公的医療保障制度との関係・役割分担が明確であり、社会保障の側面も一定程度有するという点が特徴の一つとして挙げられる。

 例えば、フランスの民間医療保険は先述の「補完機能」を主たる機能として有し、外来診療費や薬剤費あるいは入院費等の自己負担部分を主に保障する実損填補方式の保険であるが、行政が定めた一定の保障内容を提供する契約(※3)(責任契約)や被保険者の健康状態に関わらず年齢と居住地のみで保険料額を決定する契約(連帯契約)については、保険者に対する税制優遇を実施する(※4)等の行政施策が講じられている。このような施策を通じて、民間医療保険でありながらその保障内容等に対して行政が一定程度介入し、公的医療保障制度と連動した社会保障の側面も有する制度になっていると考えられる。

 他方、オランダの民間医療保険は「補足機能」を主たる機能としており、公的医療保障制度(※5)の対象外となっている歯科治療や理学療法あるいは代替療法等の費用を主に保障する実損填補型の保険である。この民間医療保険については、公的医療保障制度において定められている強制的な自己負担部分(強制控除)の保障が禁止されている以外は行政による規制は特に存在せず、保障内容や保険料等は各保険者が任意に設定できる。しかしながら、実際の運用上、例外的な場合を除き健康状態を踏まえた加入審査等が行われることは稀であり、年齢にさえよらず一律の保険料にて提供される商品が多い。また、ほとんどの保険者が非営利事業として民間医療保険を運営しているということ等から、実態としてはフランスと同様に社会保障の側面も有する制度であると考えられる。

日本の民間医療保険の現状と今後の役割

 冒頭で述べた通り、実損填補型ではなく定額給付を主とした保障内容であるという点が日本の民間医療保険の特徴として挙げられる。また、定額給付のため保険金の使途が直接の医療費だけでなく、治療に伴う交通費や入院に伴う生活費あるいは長期入院時の所得減少の補填など多岐にわたり、フランス・オランダに比べて公的医療保険との関係が明確ではなく、民間独自の保険商品として発展していることも特徴と言えよう。このように日本においてフランス・オランダに代表される「補完機能」や「補足機能」を有する民間医療保険が十分に発達しなかった主な要因として、高額療養費制度の存在および混合診療禁止の原則があると考える(図表)。

 

 この高額療養費制度と混合診療はともに現在改定が検討されており、その方向性次第では我が国において新たな民間医療保険市場を生み出しうると考えられる。

 まず、高額療養費制度については2013年10月に閣議決定された「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案」(プログラム法案)において、負担能力に応じた自己負担限度額の見直しが明記された。見直しの内容としては、あくまで案の段階ではあるが、年収370万円未満の層で限度額を引き下げる一方、年収570万円以上の層では限度額を引き上げ、さらに年収1,160万円以上の高所得者層では限度額を現行の約15万円程度から約25万円程度に引き上げる案等が検討されており(※6)、応能負担の方向性が鮮明になっている。これを踏まえると、特に高所得者層を中心に、自己負担が高額となった場合の保障を民間医療保険に求めるというニーズが生じうると考えられる(※7)。なお、民間医療保険によるこのような保障ニーズへの対応が望まれると同時に、特に実損填補型の保障を検討する際には、日本において現状の民間医療保険が実質的に直接の医療費以外の費用(交通費、所得減少の補填等)にも利用されていることを踏まえ、保障範囲の検討も重要になろう。

 混合診療についても、現在検討されている国家戦略特区構想において、例外的に混合診療が認められる保険外併用療養(※8)の拡充が含まれており、今後、先進医療等の拡充がさらに進むことも考えられる。先進医療については既に特約として保障している医療保険商品も存在するが、今後の先進医療の対象技術とその利用拡充をも視野に入れた保障内容の検討が必要になる可能性があろう。

 民間医療保険は公的医療保障制度やその国の文化あるいは歴史の影響を大きく受けていると考えられる。フランスやオランダの民間医療保険商品をそのまま我が国に導入することは現実的ではなく、日本は日本に合った民間医療保険商品の検討が必要である。しかしながら、諸外国の民間医療保険商品の内容や機能、あるいは公的医療保障制度との関係・役割分担等は、今後我が国で必要とされうる民間医療保険の機能や商品内容の検討・設計において参考になる部分を多く含んでいる。

1) 民間医療保険の機能分類の詳細はPrivate Health insurance in OECD Countries(OECD, 2004)を参照。
2) Health at a Glance 2011(OECD, 2011)
3) 不必要な医療受診を抑制する等の目的で、保障しない自己負担部分についても規定されている。
4) 著者が実施した現地インタビュー調査では、民間医療保険契約の90%以上が税制優遇の対象となる契約でありリスク選択は実態としてほとんど実施されていないとの意見が得られた。
5) オランダでは、日本の公的医療保険制度に相当する階層においても民間保険会社を保険者とする公設民営型の制度となっているが、本稿で言及している民間医療保険は、任意加入の民間医療保険部分を示す。
6) 高額療養費の見直しについて(厚生労働省, 2013)http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000025320.pdf
7) 健康保険組合や共済組合等の中には、高額療養費に加えて独自の付加給付制度を有していることも多いため、高額療養費の上限引き上げのみでなく、それに伴う付加給付制度の改定にも注視する必要があると考えられる。
8) 保険診療との併用が認められている例外的な保険適用外の療養。保険導入のための評価を行う「評価療養」と保険導入を前提としない「選定療養」があり、これらの療養と保険診療を併用した場合、保険診療部分は通常の保険診療と同様に扱われる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

野崎洋之

野崎洋之Hiroyuki Nozaki

リテールソリューション企画部
上級コンサルタント
専門:リスクマネジメント、リスクファイナンス

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