1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融市場
  6. QE3のコストを払うのは誰か

QE3のコストを払うのは誰か

2013年12月号

未来創発センター戦略企画室 主任エコノミスト 佐々木雅也

政府の一時閉鎖といった米国の政治情勢の構造的な不安定さは、QE3の導入やその解除先送りの一因になった。だが、そうして拡大した金融政策のコストは、最終的には財政を介して国民負担へとつながりかねない。

構造的に不安定になってきている米国の政治情勢

 世界中が注目した米国連邦政府の一時閉鎖と債務上限問題は、期限とされた10月17日の前日、16日に一応の決着をみた。

 共和党、特に強硬な保守派のティーパーティーが今回、政府の一時閉鎖や債務上限という“人質”を取ってまで奪い取りたかったものは、2014年度から実施に移される医療保険制度改革、いわゆる“オバマケア”の廃止である。ティーパーティーはもともと、オバマ政権がリーマン・ショック後の景気の落ち込みを反転させるために実施した大規模な景気対策に反発する形で、草の根運動的に広がった。「小さな政府」を強く標榜する彼等にとって、“オバマケア”は「大きな政府」の象徴であり、とても受け入れられるものではなかったのだ。

 だが、10月6日付のワシントンポスト紙(※1)によると、今回の対立の背景には、米国内の長期的な変化として、民主・共和両党の立ち位置が左右に両極化し、それに伴って有権者の支持や議員の投票行動が固定化してきたことがあるという。

 その要因としては、共和党は保守色、民主党はリベラル色を強めてきたという政治思想の問題の他に、下院の選挙区の区割りが共和党に有利なことや、都市と地方という地域面の問題、あるいは白人と非白人の投票行動の違いといったことが複雑に絡み合っているとされる。いずれにしろ、今回、米国で起きた混乱が偶発的なものではなく、構造的な変化がもたらしたのだとしたら、民主・共和両党の接点がほとんどないなかで、激しい対立の構図は今回限りではなく、今後も事あるごとに繰り返される可能性が高い。

 目先の話でいえば、医療保険制度改革自体は10月1日から一部が施行されたものの、その要の一つであるオンラインで保険を購入するシステムに初日から不具合が起きており、共和党側はこうした制度的な不備を手掛かりに、オバマケアの是非に関する議論を蒸し返そうとしている。そもそも、10月16日に両党が合意した内容は実質的には期日を数カ月先送りしたに過ぎず、これにオバマケアの議論が絡んでくると、2014年初めにかけて再び、財政を巡る問題が再燃することが考えられる。

財政の不安定さに配慮してきたFRBの金融政策

 こうした米国の不安定な政治情勢に、金融政策も振り回されている感がある。

 同国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、9月17日から18日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、市場の大方の予想に反して長期債購入額の縮小を見送った。FRBはその理由として米国の長期金利が急上昇してしまったこと(これは、FRB自身が5月に量的緩和縮小の議論を持ち出したことで起きたのだが)に加え、前述の財政協議の行方が当時から既に不透明だった点を挙げている。

 FRBのこうした姿勢は、政治の対立が早晩再燃するという見方と相まって、量的緩和縮小の開始時期が大きくずれ込むのではないかという予想が市場の一部に広まる要因となっている。

 振り返ってみれば、FRBが今回、解除に向かおうとしているQE3は、ちょうど1年前の2012年の9月に導入されたものだった。この時は、ブッシュ減税の期限切れや政府歳出の強制削減などが2013年の初めから始まり、これらが米国経済の大きな下押し要因になること、つまり「財政の崖」が強く懸念されている時期でもあった。バーナンキFRB議長は当時の記者会見で、金融政策は「財政の崖」の悪影響を相殺できるほど強力ではないと繰り返し述べながらも、QE3導入にあたっては「財政の崖」の存在も考慮したことを示唆している。

政治が自己増殖的に増やす量的緩和のコスト

 2008年以降のアメリカでは、住宅バブル崩壊の悪影響から需要不足の状態が続いてきた。足元では緩やかに景気が回復してきているとは言え、失業率の回復ペースの鈍さや、インフレ率の低さなどを見れば、こうした状況はまだ続いていると考えるべきだろう。

 このような需要不足の局面では、財政政策の引き締めは、ただでさえ足りない需要を直接減らすことになるため、通常よりも遥かに強く景気を悪化させてしまう。だからこそFRBは、政治の不安定さを考慮して、金融政策ではその悪影響を打ち消しきれないと思いながらも、金融政策のかじ取りを決めたのだろう。

 もっとも、今起きている政治の混乱がごく短期的なもので終わるのなら、そうした判断でも良いかもしれない。しかし仮に、前述のように米国の政治の不安定さが構造的な変化によってもたらされ、容易には解決しない性質のものだとしたら話は違ってくる。実体経済や金融市場の動きを見てFRBは金融政策の正常化を進めたいと思っていても、なかなか終わらない政治の混乱に足を引っ張られてしまい、正常化が終わるまでに費やす時間が、彼等が意図したものよりも長くなってしまうかもしれないからだ。

 FRBが現在採用しているQE3は、長期債を期限なく購入していく形になっているため、これを段階的に縮小させていって、どこかの時点で止めない限りは、FRBのバランスシートは膨らみ続ける。これは同時に、超過準備を解消し、金融政策の正常化を終わらせるまでに必要な時間とコストが日に日に増大していくことを意味する。

 その正常化に必要なコストは今後、例えばFRBが抱える準備預金への利払いといった形で表面化することになるだろう。だが、こうしたコストはすべてFRBが政府に納める利益(納付金)の減少要因であり、結局は歳入の減少という形で財政の負担へと転化される。

 共和党、特にティーパーティーは、オバマケアだけでなく、FRBが実施している量的緩和政策にも強く反対している。だが、彼等が反対姿勢を強めて政治の混迷を深めてしまうと、その分だけQE3の出口は遠くなり、結果的に財政負担、ひいては国民負担が増えることにもなりかない。

 こうした負担が表面化する時には、共和党はおそらく強い抵抗を示すだろう。しかし、彼等が財政を巡る戦いを激化させるほど、実は、金融政策の正常化の遅れという形で、自己増殖的に潜在的な財政負担を増やしてしまっている。そうした自己矛盾に、彼等は一刻でも早く気づくべきではないだろうか。

1) The Washington Post, “Shutdown’s roots lie in deeply embedded divisions in America’s politics,” 2013年10月6日付 http://www.washingtonpost.com/politics/shutdowns-roots-lie-in-deeply-embeddeddivisions-in-americas-politics/2013/10/05/28c0afe2-2cfa-11e3-b139-029811dbb57f_story.html

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

佐々木雅也Masaya Sasaki

未来創発センター戦略企画室
上級エコノミスト
専門:マクロ経済分析

この執筆者の他の記事

佐々木雅也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています