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金融検査スタイルの英米型への変革に向けた挑戦

2013年11月号

ERM事業企画部 上級研究員 小林孝明

2013年9月に金融庁より公表された、新しい『金融モニタリング基本方針』では、金融の次世代に向けた検査・監督のあり方が示唆されている。オフサイトやベスト・プラクティスを重視した検査スタイルや、金融機関同士の水平的レビューという英米型の検査・監督手法への傾倒が見られる。

 2013年9月に平成25事務年度の監督方針および金融モニタリング基本方針(※1)が公表された。特に、注目されるのが、従来の「金融検査基本方針」に代わり、新たに採用された「金融モニタリング基本方針」である。

 この新たな検査方針では、従来の立入検査(オンサイト)を中心とした検査スタイルから、事前の情報収集やヒアリング等(オフサイト)をより重視した検査スタイルに変更することが示された。具体的には、立入検査前に当局が情報を分析し、あらかじめ検査範囲を絞り込んだうえで立入検査を実施するという形式となり、金融機関にとってオンサイトの負担が低減できる代わりに、オフサイトでの情報提供が新たな負担となる可能性もある。

 また、金融機関に従来通りミニマム・スタンダードの遵守(※2)を要請するだけでなく、より高度なベスト・プラクティスへの対応を促すなど、今までにない意欲的な内容も盛り込まれており、定着に向けたハードルは決して低くはない。

新たな検査方針の主要な論点とその課題

1)「オフサイト」で本領発揮する当局分析力

 「基本方針」によると、従来のように1~2年毎に立入検査するだけでは金融機関の状況をリアルタイムに把握することは困難であるため、「オフサイト・モニタリング」を活用してより早期に把握することとされた。

 現在も、監督局所管の「オフサイトモニタリングシステム」によって、各種リスク情報を中心に、金融機関から報告・還元する仕組みはある。しかし、立入検査(総合検査など)に匹敵する内容をカバーするだけの情報分析をオフサイトで行うとなれば、当然ながらリスク管理領域だけでなく、経営管理や顧客管理、地域経済など、さまざまな分野にわたる莫大なデータが必要になる。また、これらのデータは、財務・会計データのような定型的な数値項目が中心とはならないため、情報分析に係る作業は相当な困難が伴うと予想される。

 ただ、金融庁ではここ数年来、リスク情報の分析専門部隊を設け、金融機関とのリスクコミュニケーション、情報分析ノウハウの蓄積を進めてきている。オフサイト・モニタリングの実施で、これらの経験とノウハウを活かし、これまで培った分析能力を発揮できるものと期待している。

2)「水平的レビュー」への期待と懸念

 今回、新たな試みとして「水平的レビュー」という仕組みが導入された。この仕組みは、ある特定のテーマについて、複数の金融機関を当局が統一目線でレビューし、最も有効な経営機能や業務機能を「ベスト・プラクティス」として推奨し、業界全体の向上・高度化を促すというもので、業界横断的な“知恵の共有”を目指した試みである。当局の期待感としては、将来的には業界が自主的に“知恵の共有”を継続できる態勢になる事を意識しているのではないだろうか。

 この手法は、英米での金融監督手法である“horizontal reviews”を手本として導入されたと思われる。グローバルの金融グループと伍して戦う必要があるSIFIs(大手メガバンクグループ)(※3)は、敵である英米の金融機関が行っている、こうした“能動的な知恵の共有”に対抗していく必要がある。「水平的レビュー」により、従来の個々の知恵による戦いではなく、ある意味オールジャパンでの戦いも可能になるだろう。

 一方、中小の地域金融機関にとっては「水平的レビュー」はメリットばかりではない。たとえば、地域金融機関として、ある特定の地域に根差した特色ある経営戦略は何がベスト・プラクティスであるか、判断が難しい。基本方針によると「独自性が強い分野については実態を踏まえる」と注釈がついてはいるものの、特色を出しきれない金融機関は、悪い意味で際立ってしまう懸念があり、金融機関の存在意義そのものを脅かす材料ともなりかねない。このように、「水平的レビュー」の結果をどのような方向に活用していきたいのか、当局の意図が判然としないテーマもいくつか存在する。

当局・金融機関の双方に求められる試行錯誤

 新方針には、上記以外にも、多くの意欲的な試みがあり、相当な試行錯誤が必要であると思われる。

 例えば、現在、当局と金融機関の間には一定の“緊張感”が存在し、良くも悪くも監督や検査の効率に影響を与えている。今後、英米型に近づくことで、当局と金融機関の距離は、物理的にも精神的にも密接にならざるを得ないが、良い意味での“適度な緊張感”を維持できる距離を探ることが必要である。

 また、「基本方針」では、金融機関のビジネスモデルや収益構造など経営内容に着目するとしている。しかしながら、金融機関からみると、日銀考査(※4)における「経営実態の把握」と重複感を感じざるを得ない。もし、これが、近い将来「金融検査」と「日銀考査」が連携される布石であるならば、うれしいサプライズである。

1) 金融庁ホームページ「平成25事務年度監督方針及び金融モニタリング基本方針等について」http://www.fsa.go.jp/news/25/20120906-3.html
2) 金融庁「検査マニュアル」において『金融機関が達成できている事を前提として検証する』などと記載し、ミニマム・スタンダードとしての遵守を促してきた。
3)「 水平的レビュー」は、SIFIs(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)だけでなく、「SIFIsや主要行と同様の課題を抱える地域金融機関」や、「大手生損保会社(G-SIIsを含む)」、さらに近い将来には大手証券会社も含まれる事が示唆されている。
4) 日銀考査では「金融機関が持続的、安定的に金融仲介機能を発揮するために、財務実態、収益力、自己資本の状況を把握し、先行きの経営のあり方などについて確認し、助言を行う」(2013.3.15日銀『2013年度の考査の実施方針等について』より抜粋)としている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

小林 孝明

小林孝明Takaaki Kobayashi

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:リスク経営管理、規制動向調査・分析