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迅速な地震保険金支払い実現のための仕組み

2013年11月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 野崎洋之

迅速な地震保険金の支払いには、少しでも早く効率的に被災者宅を訪問する必要があり、その実現には、保険の対象の所在地の管理方法の変更と、損害査定活動の戦略・意思決定を支援する仕組みの構築が重要である。

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震において、損害保険業界は1.2兆円(76万件)を超える保険金(※1)の支払いを行っており、その対応は極めて迅速で社会からも高い評価を得た。しかし、その迅速な保険金の支払いも地震保険の「仕組み」が解決したのではなく、多くが損害保険業界の「努力(人海戦術)(※2)」によるものであったと言える。

 そこで、損害保険業界としては、次なる巨大地震(首都直下地震など)に備え、迅速な保険金支払いの実現のための「仕組み」を検討・構築しておく必要がある(※3)。

迅速な保険金支払いを実現する方法

 地震保険金の支払いには、ほとんどの場合、損害保険会社の社員等が被災者宅を訪問・面談し、損害の程度を調査・協定する必要がある。従って、多くの陣容を要することは言うまでもなく、このことは、現行の保険金の支払基準や支払方法を根本から変えない限り、損害保険業界としては継続して対処せざるを得ないものである。

 では、迅速な保険金支払いを実現する他の方法を考えると、ひとつは「調査・協定に要する時間の短縮化」を図ること、いまひとつは「少しでも早く効率的に被災者宅を訪問する」といった仕組み・体制の構築であろう。

 まず、前者の実現には「簡便な査定」や、その技術的な解決が考えられる。しかし、木造在来工法の戸建ての場合、1件の損害査定に要する時間(約1時間)のうち、「保険の対象の作図」「損害調査」及び「保険金の算定」に要する時間は半分に満たない(※4)。従って、いかにこの時間の短縮化を図ったとしても効果は限定的である。

 一方、地震という面的災害では、損害保険会社は被保険者等からの事故報告がなくても、能動的な損害査定活動を実施することができるはずである。重点地域をどこに定めるかなどの損害査定活動の戦略・意思決定を支援できる仕組みがあれば、より早くより効率的に被災者宅を訪問することが可能となるであろう。ただし、その実現には平時からの体制整備(仕組みの構築)が必要である。

保険の対象の所在地管理方法の変更と新たな仕組み構築の提案

 そこで本稿では、保険の対象の所在地を『点(緯度・経度)(※5)』で管理することと、損害保険業界として、損害保険会社ごとに保険の対象別の予測被害(被害契約リスト)を出力する仕組みの構築を提案したい。

 現在、損害保険業界では損害査定活動での活用も含め保険の対象の所在地を「町丁目レベル」の住所コードで管理している。しかし、都市部で大規模な延焼火災が発生しても複数の街区に跨る程度と想定され、その範囲は住所コード1単位の区画のほんの一部分に過ぎない。従って、被災した契約を住所コードから簡単に抽出できるわけではない。また、郡部では住所コード1単位の区画が広く、津波災害での活用も容易ではない。

 そこで、毎月発生する地震保険の新契約について、平時から手作業ででも保険の対象の所在地を「点」で管理しておけば、共同調査(※6)によって全損一括認定地域(※7)が指定された場合に、その地域内に保険の対象が所在する契約を簡単に抽出でき、損害保険会社の作業負担を大幅に軽減させることができるはずである。また、実際に調査・協定に行く件数を減らすことも可能である。

 更に、大規模な地震が発生した後で気象庁等から発表される震源の位置や規模等に関する情報をもとに強振動分布図を生成し、契約データと照らし合わせて損害保険会社ごとに保険の対象別の予測被害を出力する仕組み(図表)があると、その情報は、発災直後の損害査定活動の戦略・意思決定に有効に機能するはずである。なお、地震保険は独占禁止法の適用除外が認められている保険商品であり、損害保険会社間のサービスの標準化を図る必要がある。この仕組みを損害保険業界として共同で構築し、取り纏めを行う者は損害保険会社各社に、いつ、どの地域に、誰を、何名程度投入すべきかを判断するのに十分な情報を還元することが期待される。

損害保険業界が抱える課題の解決にむけて

 先述の所在地管理も含めた仕組みの構築は、単に迅速な地震保険金の支払いを実現するだけではなく、損害保険業界が抱える他の課題の解決にも繋がるはずである。

 ひとつは「地震保険の契約者が複数の損害保険会社に跨って同一の保険の対象の契約した場合の名寄せ(※8)」で、いまひとつは「共同住宅の共用部分と専有部分の名寄せ(※9)」である。前者は契約者や被保険者が同一であることが一般的であるのでまだ如何様にでもなるが、後者は管理組合と個人のように契約者等が異なることから保険の対象の所在地や物件の名称での名寄せが必要になる。しかし、保険の申込書に記載されるかかる項目は、部屋番号の表記を含め、どうしても「揺れ」が生じてしまうため一律に機械での名寄せが困難となっている。

 これらへの対応は、確かに地震が発生した場合にのみ必要な作業かもしれない。ただ、地震保険の目的にみる迅速性の重要度を考えた場合に、損害保険業界としては平時から十分な備えに努めるべきである。

1) 本稿では、家計分野の地震保険について紹介する。
2) 東北地方太平洋沖地震では、損害保険会社各社の担当者が毎日のように集まり、航空写真・衛星写真(約2万3千枚)を用いて被災地域の状況を確認し、全損地域の認定を行った。また、業界として1万人を超える要員を投入して損害査定活動を行っている。
3) 地震保険制度に関するプロジェクトチーム(財務省)は、速やかに対応すべき課題として「首都直下地震等に際しても査定の迅速性を確保できるよう、巨大地震を想定した新たな損害査定の手法(オプション)について要検討」と指摘している。
4) 野崎洋之「東日本大震災を踏まえた地震保険制度の再構築」NRI KNOWLEDGE INSIGHT Vol. 21、野村総合研究所、2011年11月
5) 街区レベルでの管理を想定している。
6) 共同調査とは、航空写真等の判読による「全損一括認定地域」の認定と、航空写真判読で得られた情報をもとにした現場踏査による最終的な「全損一括認定地域」の確定という2つのプロセスにより行う損害の認定手法である。
7) 全損一括認定地域に保険の対象が所在する場合には、現場立会による損害調査を実施せずに「全損」として保険金を支払っている。
8) 地震保険には保険金額の上限が設けられており、契約者が複数の損害保険会社に跨って、上限金額を超えて加入していないかを確認する必要がある。
9) 共同住宅の専有部分の損害の認定は、共用部分の損害の認定に影響を受ける場合があり、専有部分の引受保険会社は共用部分に地震保険が付保されているのか、また、その引受保険会社がどこで、損害がどう認定されたかを専有部分の協定の前に把握する必要がある。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

野崎洋之

野崎洋之Hiroyuki Nozaki

リテールソリューション企画部
上級コンサルタント
専門:リスクマネジメント、リスクファイナンス

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