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構造変化が進む米国の株式市場

2013年11月号

未来創発センター主席研究員 大崎貞和

米国の電子取引所運営会社であるBATSグローバル・マーケッツとダイレクトエッジが合併する。2005年以降、米国株式市場の構造は急速に変化し、新興勢力の台頭が著しいが、今後の展開は予断を許さない。

取引所をめぐる大型M&A

 2013年8月26日、米国の電子取引所運営会社であるBATSグローバル・マーケッツとダイレクトエッジが合併合意を発表した。昨年12月に発表されたインターコンチネンタル取引所(ICE)によるニューヨーク証券取引所(NYSE)の運営会社NYSEユーロネクストの買収に続く、米国の取引所をめぐる大型M&Aである。

 米国の株式市場構造は、近年、大きな変化を遂げつつある。

 米国では、かつては、NYSEと株式店頭市場が取引所化したナスダックが二大市場として競い合う構図がみられた。その競争は、もっぱら上場企業の獲得競争であり、地方取引所がNYSE上場銘柄の取引で若干のシェアを獲得した以外には、取引注文の獲得をめぐる競争はそれほど活発ではなかった。1990年代後半には、証券取引委員会(SEC)による規制の見直しを契機に、ナスダック銘柄を取り扱う新たな電子取引システムとしてECNが台頭したが、NYSE銘柄の取引の多くは、NYSEの市場で集中的に行われていた。

 ところが、2005年4月のSECによる規制改革をきっかけに、NYSE銘柄を含む全米市場システム(NMS)銘柄の注文執行の場は急速に多様化した(図表参照)。新興の電子取引所やECNが取引シェアを高める一方、危機感を強めたNYSEとナスダックが、相次いで地方取引所を買収し、取引所をめぐる業界地図は大きく変化した。他方、証券会社が自社で受け付けた注文を取引所やECNに回送せずに成立させる内部付け合わせや、そうした取引を電子的に処理するダークプールの利用も拡大している。

全米市場システム(NMS)銘柄の取引高シェア(2009年時点)

急成長した新興勢力

 今回の合併合意を主導したとみられるBATSは、2005年6月設立の電子取引システム運営会社である。短期間で急速に取引高を伸ばし、英国で欧州最大の電子取引所となったBATSチャイエックス・ヨーロッパを運営するなど、国際展開も進めている。

 一方、ダイレクトエッジは、1998年2月にSECによるECNとしての事実上の認可を受けた。BATSに比べれば会社の歴史は長いが、電子取引所として大手とみなされるようになったのは比較的最近のことである。2007年以降、大手投資銀行ゴールドマンサックスやドイツ取引所グループ傘下のインターナショナル証券取引所(ISE)が大株主となり、取引システムの改善などのテコ入れを行ったことが、取引シェアの拡大につながったのである。

 BATSの集計データによれば、合併するBATSとダイレクトエッジの取引高を合算すると、ナスダック・グループを上回り、NYSEグループに次ぐ全米第二位の株式市場になるという。NYSEユーロネクストを買収するICEも、2000年5月設立という新興のデリバティブ取引所である。歴史と伝統を誇るNYSEやナスダックが、今世紀に入って勢力を拡大した新興取引所にその地位を脅かされているというのが、米国の実情である。

予断を許さない今後

 BATSを始めとする新興勢力の最大の武器は、高頻度取引(HFT)などに対応できる優れたシステム力とそれを低コストで提供できる効率的な経営体制である。しかし、そうした強みが、いつまでも維持できるかどうかは予断を許さない。

 HFTに代表される株式売買の高速化・短期化の流れは、市場の流動性を向上させたと評価される一方、中長期的な観点からの投資を阻害しているのではないかといった批判にもさらされている。2012年8月には、電子取引によるマーケットメーカー大手のナイト・キャピタルが、誤発注による巨額損失で経営危機に陥るなど、システムの小さなトラブルが大きな問題につながる危険性も意識されるようになってきた。

 実は、BATS自身、2012年3月、自社の株式を自市場で公開しようとした際、取引システムの不調で株価が異常な動きを示す事態に陥り、公開を撤回するという、システムに起因する大きな不祥事を引き起こしている。この問題をめぐっては、組織体制の不備がシステム・トラブルにつながったといった指摘もなされ、効率的な経営が強みとばかりは言い切れないことが浮き彫りになった。

 もちろん取引システムの高度化は新興勢力の専売特許ではなく、NYSEやナスダックも取引の電子化と高速化を追求している。2013年8月には、ナスダックの取引システムが3時間にわたって停止するという事件も起き、SECは取引システムに対する規制強化も検討している。米国の株式市場はどこへ向かうのか、今後の動向が注目される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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