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この宇宙はだれによって創られたか

2013年10月号

外園康智

「私たちの住む宇宙は、だれかの創ったコンピューター上のシミュレーションであろう」という仮説は正しいかも知れない。

 一つ一つの素粒子を情報処理のビット単位とし、素粒子が量子力学の法則に従って動く様を演算として捉えると、宇宙自体を巨大な計算機(※1)とみなすことができる。宇宙の始まりを一通りの状態だとすれば情報量は0ビットだが、それから時間が進み宇宙全体が膨張すると、ビット数は増えていく。素粒子自体が“量子のゆらぎ”とよばれるサイコロを振るような計算をすることで、情報量はさらに加速度的に増える。

 現在までにどの位の計算を行ったか、量子情報のセス=ロイド博士によると、素粒子の数やプランク時間単位 を考慮すると1092のビットが10122回の演算を行ったことになるという。

 ちなみに、有史以来のすべての経済活動も同様に考えると、1016程の情報量と見積もられる。これは現存する計算機でも処理できるレベルだ。

 宇宙自体は、量子ゆらぎの計算の膨大な数学的組合せの数だけ、別の宇宙となる選択肢があった。この選択肢の大多数は、生命どころか恒星すら存在しない無味乾燥なものなのだが、そのうちの一つが“この宇宙”になったのだ。他の選択肢を進んだ宇宙は、この宇宙とは物理的(=情報的)に“干渉”しないため存在しないとみなすのが一般的だ。勿論、ああだったら、こうだったらとの想像は自由だが。

 表題の問いは、どのようにして、この宇宙が“複雑で意味のある(※2)”形になったかと言い換えられる。複雑系の研究によると、単純な法則から複雑な構造が生まれるためには、無数の可能性の試行と、その結果を淘汰する仕組みが必要とされている。例えば、でたらめにサイコロを振った場合は大多数がランダムな並びとなるが、サイコロにすこしばかりの細工を加えると規則的な並びが生まれうる。そして、このサイコロデータを“プログラム”(※3)が解釈・実行する仕掛けができ、かつ自己が自己を参照したり、構造化の反復によって、複雑で意味のあるパターンが出現する。

 つまり、この宇宙は、無数の可能性の中で上手い“仕掛けのパス”を通った特別なものであり、生命や人類は偶然生まれたわけではない。ここに“何者かの意図”があったと考えてもおかしくないと言えよう。 (外園 康智)

1) この巨大計算機は19世紀にはラプラスの魔と呼ばれた。
2) ただし、単純と「複雑で意味がある」の差を、数理的に定義するのは非常に難しい。
3) 計算機はプログラムとデータが分離されているが、CPU内部では分離が明確でない。これと逆で、宇宙は、当初は法則と初期状態が未分離だったが、状態が推移するにつれて、分離して捉えられるようになったと推察される。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

外園康智Yasunori Hokazono

金融デジタル企画一部
上級研究員

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