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邦銀大手行のアジア戦略と近時の出資案件

2013年10月号

金融ITイノベーション研究部 主任研究員 嶋村武史

国内業務が頭打ちとなる中、邦銀大手行がアジアにおけるビジネス展開を加速している。法人貸出を中心とする従来の展開に加えて、現地銀行への出資を通じた総合的な成長機会の取り込みへシフトしつつある。

邦銀大手行のアジア展開における国とビジネスの重点(※1)

 近時、国内において成長性と収益性の向上に苦しむ中、邦銀大手行が成長著しいアジアでの展開を加速している。従前は日系企業のアジア進出に付随する形でのアジアにおける日系企業向け貸出が中心であったが、近年では非日系向けの貸出額も拡大しており、邦銀大手行のアジア全体での貸出は非日系向けの比率の方が高くなっている。国別の重点地域を見ると、従前から比較的規模が大きかった香港、シンガポールといったオフショア・センター、及び経済規模の大きい中国、インドに加えて、近年ではインドネシア、タイ向けの貸出が比較的速いペースで拡大している。

 インドネシアとタイがハイライトされている理由の一つはマクロ経済環境に見出せるであろう(図表1)。成長ポテンシャルが大きい東南アジア新興諸国の中でも、インドネシアの成長性は高い部類に入る。また、人口が多いため、経済発展の初期段階にあるにも拘わらず、経済規模も大きい。タイは東南アジア新興諸国の中では経済発展が比較的進んでいるため成長性という面ではやや低位にあるが、経済規模の面では大きくなっている。二つ目の理由として、日本経済との結びつきの強さも挙げられるであろう。これはFDI等を通じた民間企業との経済関係のみならず、政府のグロス貸付額も比較的高水準にある等、国と国との経済関係という側面でも結びつきが強いと言える。マクロ経済環境という点では、ベトナムもその成長ポテンシャルが高く、実際、邦銀大手行もベトナムで現地銀行への出資を行う(※2)等、積極的な展開をみせている。しかし、ベトナム経済はインドネシア経済と比較してもその発展段階が初期にあり、成長性は高いが現状は規模の面でインドネシアやタイと比較すると見劣りする。

 邦銀大手行のアジアにおける重点ビジネスとしては、格付け上の相対的な優位性等を活かした主に大企業向けの法人貸出やプロジェクト・ファイナンスが挙げられる。また、近時は、アジアの商流の拡大と共に成長しているトレード・ファイナンスや決済関連ビジネスも重点分野とされている。一方、このようなバランス・シートを活用した貸出を拡大する上で、邦銀大手行が直面する課題の一つが外貨ファンディングである。この点は当然邦銀も意識しており、海外顧客からの預金獲得や外貨建て債券の発行に力を入れている。

アジアにおける成長機会の総合的な取り込みへ

 上記の通り重点国と見られるインドネシアとタイにおいて、近時邦銀大手行による現地銀行の大型出資案件が発表された。2013年5月に発表されたSMFGによるインドネシアのBTPNへの出資と7月に発表されたMUFGによるタイのアユタヤ銀行への出資である。これらの出資の目的を一言で言うと、アジアにおける成長機会の総合的な取り込みを目指すことであろう。すわなち、これまでは日系企業のアジア展開支援や非日系向け貸出を自前で展開してきたが、これらに加えて今後の成長ポテンシャルが大きい個人や中小企業向けビジネスを出資等により強化することで、新興アジアにおける中産階級の拡大や中小企業の金融サービスへのアクセスの拡大という成長ストーリーも取り込むことである。個人及び中小企業向けビジネスは、現地での認知度や広範な支店網が必要とされるため、一般に外国銀行には参入障壁が比較的高い。これらの分野に参入するに当たり、現地銀行への出資を通じた展開を目指すことは理にかなっていると言えよう。また、近年のインドネシア及びタイの商業銀行全体のネット・インタレスト・マージン(※3)はそれぞれ5%超と3%弱となっており、リテールや中小企業向け貸出ではより収益面での貢献が期待できるであろう。

今後の注目点

 今回の大型出資に関しては、どのように出資先の経営を行っていくのかは重要な点であろう。特に、過半の株式を取得するMUFGは現地の規制により同行バンコク支店の業務をアユタヤ銀行に統合することとなり、統合後のマネジメントをどのように行っていくのであろうか。また、出資先とのシナジーをどのように実現していくのかも重要な点だと考えられる。この点に関しては、それぞれ出資先の顧客層が既存の顧客層と異なるように思われるため、例えば出資先銀行が持つ顧客層に邦銀のプロダクトを提供する等の可能性があるのではないか。

 また、上記2件の出資案件からは、アジア地域系金融機関の台頭という点も改めて意識させられた。各種報道によればBTPN及びアユタヤ銀行の買収には邦銀の他に台湾やマレーシアの銀行等が関心を示したとされているからだ。上記にシンガポールも加えた国々は、自国市場のポテンシャルが限られるため、銀行の海外展開への意欲が高いと考えられる。現地及び欧米系の他に、アジア地域系の金融機関との競争環境を踏まえた上で、今後の邦銀大手行のアジア展開を捉える必要があろう。

 今回の出資案件からは邦銀大手行のアジア展開に係るモードが一段と変化したという印象を受けた。アジアの成長を総合的に取り込むために邦銀がどのような手を打ってくるのか、引き続き注目していきたい。

1) この点に関しては、2012年10月に弊社が主催した国際コンファレンスにおいても取り上げたため、下記のリンク先を適宜ご参照いただきたい。
2012年10月12日に行った「第23回金融市場パネル議事概要―IMF/IBRD総会記念 国際コンファレンス―」における「第2部:日本の銀行のアジア業務を巡る環境について」
2) 邦銀大手行によるベトナム現地銀行への主要出資案件は以下の通り。
• SMFGによるベトナム・エクシムバンクへの出資(2007年11月発表)
• みずほFGによるベトコンバンクへの出資(2011年9月発表)
• MUFGによるヴィエティンバンクへの出資(2012年12月発表)
3) 商業銀行の収益性を測る指標の一つ。純資金利益を資金運用勘定残高で除した値。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

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