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至福の享受を妨げるのは

2013年9月号

山本由香理

知らぬが仏という言葉はIgnorance is a bliss(無知は至福)と訳されるが、果たして知るという行為は人にどのような影響を及ぼすものだろうか。

 3囚人問題という問題がある。3人の死刑囚、A,B,Cがおり、恩赦により3人の中から1人だけ釈放されることが決まった。看守は恩赦になる囚人が誰かを知っている。Aは看守に「1人しか釈放されないなら、BとCどちらか1人は必ず処刑される。だから、その処刑される1人が誰かを教えても私に情報を与えることにはならない。BとCのうち処刑される方の名前を教えてくれ」と頼む。看守はAの言い分に納得し、「Bは処刑される」と答えた。

 この答えを聞いてAは、元々は1/3であった生存確率が、AとCどちらか1人が釈放されるのだから今では1/2へと上昇した、と喜んだ。さて、この「看守からの情報を得ることで生存確率が上がった」というAの判断は正しいだろうか?という問題である。

 看守の言でBの処刑が確定した後の、A,C二人の釈放確率を考えてみる。もしAが釈放なら、残るBとCが2人とも死刑囚だと看守は知っているため、その2人のうちどちらを告げるかという選択を行い、その場合Bを選ぶ確率は1/2となる。よってAが釈放され、かつBの処刑が告げられる可能性は、Aの元々の釈放確率1/3の、更に1/2の1/6となる。

 一方Cが釈放される時、看守が死刑囚として名前を告げられるのはBだけなので、当然100%Bを選ぶ。よってCが釈放され、かつBの処刑が告げられる確率はCの元々の釈放確率のまま1/3となる。

 比較すると、CはAよりも2倍釈放される可能性が高い。よってBが釈放される可能性がなくなった後では、残り二人AとCの釈放確率はそれぞれ1/3と2/3となる。Aの生存確率は当初と変わっておらず、実はとんだぬか喜びだったことになる。

 3囚人問題の元となるのは、確率論の基本となるベイズの定理である。検索エンジンが、より高い確率で条件を満たす検索を実現する技術として活用している定理でもある。ちなみに検索エンジンでは、検索ワードを途中まで入力すると検索候補が表示されるが、その候補語句で思いがけない悪評や新事実を知ることもしばしばある。

 市場で競争に勝ち抜くには情報の入手量が殊更に重要となる。だが個人による情報発信が容易となった近年は、デマゴギー等、虚実ないまぜた膨大な情報のすべてが市場の値を左右してしまう。

 真実を知らないAはそれでも仮初めの幸福感に浸ることができる。情報に溢れかえる市況に挑まざるを得ない我々にとって、無知の至福の享受はなかなかに難しいものかもしれない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

山本由香理

山本由香理Yukari Yamamoto

資産運用サービス事業二部
システムコンサルタント
専門:資産運用ソリューション企画

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