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中国における資産証券化再開の意義

2013年9月号

NRI北京 金融システム研究部長 神宮健

資産証券化業務が再開され注目を集めている。情報開示がしっかりなされれば、新たな資金調達ルートとしてシャドーバンキング問題の緩和につながるものとしても期待される。

資金の効率利用を打ち出した当局

 中国の金融市場は、今年6月に短期金利が急騰する等、大きく変動した。この間の最大の特徴は、人民銀行が銀行システムに資金を供給しなかったことである。人民銀行は、金利安定化よりもオフバランス取引を含む信用拡大を抑制することを重視したといえよう。一方、中国経済は鈍化傾向にあるため、当局は信用総量をあまり増やさずに、その構成を改善させる方向を打ち出している。資金が流れ難い中小企業や三農(農業・農村・農民)関係向けの金融が重視されている。

資産証券化の経緯と現状

 こうした中、7月に国務院が発表した「金融の経済構造調整と経済発展方式の転換及び高度化へのサポートに関する指導意見」(「金十条」)では、金融機関の資金を活性化し零細企業の発展をサポートするために、「融資資産証券化の通常業務化を徐々に推進する」としている。

 このように、マクロ経済運営の点からも資産証券化は注目を集めている。ここで中国の資産証券化の経緯と現状を見ると、中国の資産証券化は銀行間市場の融資資産証券化と証券会社の企業資産証券化の2種類に大きく分けられる(図表参照)。

 銀行間市場では、2005年に「融資資産証券化試行管理弁法」(人民銀行・銀行業監督管理委員会、以下銀監会)が発表され、同年12月に最初の銀行融資資産証券化商品が発行された(※1)。ただし2009年以降は国際金融危機の影響を受け停滞した。

 2012年5月に、「融資資産証券化の試行の更なる拡大の関連事項に関する通知」(人民銀行・銀監会・財政部)が発表され、融資資産証券化が再開された。今回の試行限度額は500億元で、2013年7月24日までに計23本、228.54億元の融資資産証券化商品が発行されている(※2)。

 現時点で融資資産証券化は試行段階にあるが、上述のように通常業務化に向かっている。融資資産証券化の原資産は大企業向け融資が多いが、「金十条」を受けて、零細企業の融資資産証券化も視野に入っている。

 また、銀行間債券市場では、2012年8月に「銀行間債券市場の非金融企業資産担保手形の手引」(銀行間市場取引業者協会)が発表され、企業(金融業を除く)の資産証券化商品である非金融企業資産担保手形(ABN)が発行可能になった。2013年7月24日までに、合計29本、97.0億元が発行されている(※3)。

 一方、証券会社の企業資産証券化は2005年8月に試行された。その後目立った動きはなかったが、こちらも証券監督管理委員会(証監会)が証券業界の規制緩和の一環として2013年3月に「証券会社資産証券化業務管理規定」を発表し(3月15日発表、即日実施)、資産証券化が試行段階から通常業務になったことで活発化している(※4)。5月の証券会社の創新(革新)大会はリスク管理が前面に出たものの、資産証券化業務は2013年の革新の重点の一つである(※5)。

 2013年7月現在で、17本、350億元以上の「専項」(専門口座)資産管理計画が発行されている(※6)。原資産は、リース、汚水処理料等である。最近では、東方証券資産管理会社の「アリババ専項資産管理計画」が証監会の認可を取得した。国内初の小口貸出を原資産とした資産証券化商品である。

今後の期待と課題

 資産証券化が再開された背景は、やはり銀行のオフバランス取引の拡大と無関係ではないであろう。シャドーバンキング問題の中核である銀行のオフバランス取引の本質は規制回避の迂回融資であるが、方法の上では事実上証券化の手法が使われている例も多い。現状を見ると、オンバランス取引に対してもオフバランス取引に対しても、規制を厳しくすればするほど新たなオフバランス取引のスキームが作られることになり、その結果、リスクの所在が分かり難くなってしまった。むしろ、しっかりした情報開示を前提に正式な資産証券化を再開した方が良いとの判断であろう。

 証券化のプラス面としては、当局が意図するように、資産証券化の本来的な機能により、資金利用の活性化が期待される。特に、企業金融に新たなチャネルが開かれる。原資産が優良であれば、会社自体の信用度が高くなくても資金調達できるため、上述のように特に中小企業金融の観点から期待されている。証券会社にとっては、「専項」資産管理計画を使うことで株式・債券発行以外の企業金融業務への道が開かれたことは、業務の多角化の点から大きな意義を持つ。

 マイナス面としては、現時点では資産証券化商品の流動性が低く、発行コストが高くなる点等が指摘されている。投資家も銀行が中心であり多様化されていない。ただし、この点は長らく発行がなかったため、いたしかたない面もある。今後は発行が増えるにつれて流動性の改善が期待される。証券会社は、同じく新業務の一環である証券会社の店頭市場を使い、マーケットメイクすることも可能であろう。

 最も懸念される点は、オフバランス取引規制が厳しくなる中で、資産証券化が地方政府の融資平台等への新たな迂回融資の手段として使用されないかということである。政府の推進する都市化の資金需要をまかなう手段として資産証券化に期待する向きもある。ここで情報開示やそれに基づくプライシングが不十分なままでは、リスクの所在・評価が曖昧であるというこれまでの問題の繰り返しとなり、さらに投資家が多様化すればむしろリスクが拡散してしまう。証券化される資産ごとに情報が開示されることで、これまでのオフバランス取引に比べて透明度が上がることが期待される。

1) 2005年12月15日、国家開発銀行と建設銀行がそれぞれABS債券(41.77億元)とMBS債券(30.17億元)を発行した。
2) 上海清算所。なお、2005年~ 2008年末までの発行実績は累計11本、667.83億元。
3) 上海清算所。
4) 「創新大会」1年後の中国証券業界 を参照。
5) 他は、資産管理、債券市場、店頭市場の試行、組織革新と企業統治である。
6) 証券会社の資産証券化では、「専項」資産管理計画が証券化のSPVとして使われる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融イノベーション研究部長
専門:中国経済・金融資本市場