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決済サービスにおけるビッグデータ活用とCLO(Card Linked Offer)

2013年9月号

金融ソリューション事業二部 上級コンサルタント 宮居雅宣

決済サービスは単に「決済できる」というだけでは選ばれない時代に突入し、「特典」を組み合わせる必要が高まっている。米国では金融機関が加盟店の特典を会員に提供するCLO(Card Linked Offer)が有効なマーケティングソリューションとして台頭し始めており、国内の決済事業者も利用履歴データを活用した効果的なマーケティングツールとして取り組み始めている。

変革する決済サービス

 決済サービスは、非接触IC型電子マネーが普及したり、スマートフォンを活用した低廉な加盟店端末が登場したり、目まぐるしい変化を見せている。最近はどの店で買い物をしても何らかのポイントが付与される。そのため単に「決済できる」というだけでは決済方法として選ばれ難くなっており、電子マネーのnanacoやWAONがポイントを背景に利用件数や利用金額を伸ばしているように、「特典」の付与が決済サービスの普及に大きな影響を及ぼすようになってきている。

 しかし決済事業は薄利多売の構造であり、特典原資の捻出は容易ではない。では今後、決済サービスはどのように選ばれるように進化すればよいのか。

米国で千以上の金融機関が展開するCLO

 特典を付与しなければ決済サービスとして選ばれない状況は米国も同じである。米国では銀行がクレジットカードやデビットカードを発行しているが、その銀行は顧客のカード利用履歴に応じて効果的に加盟店の特典を提案(Offer)するサービス:CLO(Card Linked Offer)を展開しており、グルーポンに代わる効果的な広告手段として台頭している。

 CLOは金融機関や仕組みを提供するCLOベンダーによって多少サービスの内容が異なるが、概略はこうだ。

 まず加盟店が、金融機関やCLOベンダーから提供された登録画面に特典配信対象者の条件と特典内容を登録する。金融機関は、条件に適合する顧客のWebやスマホの利用明細画面やOffer一覧画面に特典を提示する。顧客は自分宛の特典の中から利用したい特典を選んで利用宣言し、当該店舗でカード決済すれば特典が適用される。

 加盟店が登録する配信対象者の条件の例としては、年齢・住所などの属性情報のほかに、競合他社の利用履歴はあるが自社の利用履歴はない人、以前はよく自社で購入したのにここ数カ月は購入してない人、ガソリンスタンドや高速道路の利用履歴がある自動車保有者、子供用品店の利用履歴がある世帯、今現在お店の近くに居る人などで、カードの利用履歴やスマホの位置情報を活用することにより、新規顧客や離脱傾向にある顧客、来て欲しい客層、店の近くに居る顧客などと、1to1のアプローチが可能である。さらに、カードで決済して初めて特典が適用されることから、どの対象者にどんな特典を出した結果、購買に結び付いたのか否かが効果検証でき、PDCAを回して精度を向上させることも可能だ。

 顧客側は、自分がいつも利用する金融機関から自身の興味や嗜好に合ったOfferが届くため、ジャンクメール化するメルマガとは異なり高い確率で特典を使う。クーポンを印刷したり店員にスマホ画面を見せる必要もなくカード決済するだけで特典を受けられるので、クーポンを忘れて口惜しい思いをしたり、店員が特典を知らずに気まずい思いをすることもない。

 金融機関は加盟店原資の特典を会員に提供することで、加盟店売上の拡大と会員の利用拡大の好循環を作れるうえ、加盟店から成功報酬型の広告料収入を得られる新たな事業として収益も得られる。

 実は野村総合研究所(NRI)は昨年、ビックカメラと共同で顧客に最適なクーポンを最適なタイミングで配信するO2O(※1)のスマホアプリを実証実験した。結果は高い反応率で購買に結び付き、利用履歴や位置情報を活用する施策の効果の高さが確認できている。同時に、加盟店からOffer登録内容の連絡を受けてNRIが画面登録する方式の限界や、ポイントと現金値引きの反応の違いも確認できた。今年はこれらの経験をCLOに活かして実験を行う予定である。

キーワードは「効果検証」「ビッグデータ分析」「モバイルファースト」

 CLOがこれまでの広告や特典提供と違うのは、決済情報を紐付けることで、単なる特典配布ではなくターゲットを絞込み、効果検証できる点である。スマホで特典をプッシュ配信するO2Oの取組みは活発化しているが、特典を配信した相手が本当に新規顧客なのか、実は常連客に新規顧客用の特別割引を配信したのか分からないものや、特典配信の効果が分からない取組みが多い。CLOは利用履歴を活用することで配信対象者を絞り込むことができ、特典配信が購買につながったことを確認できる新たなO2Oであり、決済事業者が介在する意義が大きい。広告費や販促費が、より効果的な手法に投入されるであろうことは容易に推測できる。

 何より利用履歴や位置情報という膨大で多様なデータの活用は、ビッグデータ活用の一端に他ならない。ビッグデータは、おもむろに膨大なデータを蓄積・分析すれば勝手に答えが表れるものではない。それらのデータを適切に処理・分析し、有用な意味や洞察を引き出すことが重要である。CLOは、誰にどんな特典を出した結果、売上が増えたのか反応が鈍かったのかが一目瞭然であり、データ分析結果を施策に活かしやすい。気負ってデータを蓄積・分析するシステムを構築する必要なく、実業にそったビッグデータ活用を始められるのである。その際、外部のデータサイエンティストによるマーケティングアドバイスを得ることも可能であり、NRIのCLOはその一例である。さらに加盟店ではPOSデータや顧客応対履歴データ、決済事業者では電話応対履歴やWebの閲覧・検索履歴、SNSのコメントデータなど、データ活用の余地は大きい。CLOは単なる特典提供サービスではなく、ビッグデータを決済サービスに活用する企業戦略の第1歩となる。

 スマホの位置情報も非常に重要なデータである。決済サービスではアプリのダウンロードが煩雑と言われたが、決済は支払手段であり積極的に支払手段を取得する消費者は珍しい。しかし、特典があれば積極的に入手しようとする消費者は多いと考えられる。Web系企業を中心とした決済サービスへの新規参入組がインターネットで培った情報分析を武器にスマホでリアルへ進出しようとする中、既存の決済事業者がWeb対応で手一杯では後塵を拝することは一目瞭然であり、モバイル活用は必須といえる。位置情報や利用履歴を活用しプッシュで特典を提供できるCLOは、モバイルWallet(※2)の具備にもなる。

 顧客に特典を提供し、加盟店に効果検証で精度を高められるマーケティングツールとして活用され易いCLOを、単なるリアル店舗送客ツールではなくビッグデータ活用の水端として上手く活用し、選ばれる決済サービスを実現のうえ、BIの進展に活かしていただきたい。

1) O2O(Online to Offline):ネットと実店舗を融合するサービスやそれを利用する消費行動。
2) モバイルWallet:現金、カード、クーポンなど財布に入れるものを携帯電話に搭載する機能。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

宮居雅宣

宮居雅宣Masanori Miyai

金融デジタル企画二部
上級コンサルタント
専門:ペイメントサービス

注目ワード : 電子マネー

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