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日本版スチュワードシップコードへの期待

2013年9月号

金融ITイノベーション研究部 上席研究員

2013年末までに日本版スチュワードシップコードの制定が予定されている。機関投資家の投資先企業への関わり方を強め、企業経営に長期の資本生産性改善を含めた企業価値向上を図るよう規律付けることが制定の目的である。この目的に適う柔軟なガイドライン作りが不可欠となる。

 現在、「日本版スチュワードシップコードに関する有識者検討会(※1)」が開催されている。産業競争力会議の議論を踏まえ、安倍首相から、「企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い範囲の機関投資家が適切に受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップコード)について検討すること」との指示が出され、年内にその原則をまとめることを目的に設定された検討会である。

 スチュワードシップコードとは、2010年に英国で制定されたもので、「企業が長期の持続可能なパフォーマンスを高めるよう、株主・取締役・他の利害関係者が、運営プロセスに影響を及ぼすこと」を目的としている。具体的には、受託者責任を果たすための方針・利益相反管理の方針等の公表や投資先企業のモニタリングなどを機関投資家に求めている。「遵守か説明か」に基づくソフトローであり、遵守義務はないが、コードを遵守しない場合には何故遵守しないのかを説明する必要がある。

スチュワードシップコードの意図

 英国でスチュワードシップコードが制定されたのは、2008年の金融危機がきっかけである。銀行の取締役会のコーポレートガバナンス不全が金融危機の一因であるが、取締役会を監視すべき機関投資家がその責任を果たしていなかったことにも問題があったのではないか、との問題意識からである。機関投資家が投資先企業との対話をより積極的に行うことは、適切な経営資源配分や企業経営の効率性向上に寄与し、長期的なリターン向上につながるとの考えから制定された。投資先企業への積極的な関与により、企業のパフォーマンスを高め、ひいては顧客へのリターンを最大化することを意図している。

 コード制定の目的の一つに、顧客リターンの最大化があることは、英国の関係者の間の共通認識である。例えば、7月に行ったインタビュー調査(※2)で、ある運用会社のコーポレートガバナンス(CG)部門の責任者は以下のように述べ、投資先企業のパフォーマンス改善がコードのポイントだと考えている。

 「コードの中心思想はビジネスパフォーマンス、資本の効率性にある。企業が株価だけでなく業績、経営戦略面でも不振に陥っている場合、当社や他の機関投資家が、そのような誤った戦略について、企業側と対話を行い、その内容を正す行動を取るべきだというのが、コードの基本的な考え方である。」

 また強制的かつ厳格なルール適用は百害あって一利なしとの意見も英国の関係者から聞かれた。別の運用会社のCG責任者は、「我々は顧客の利益になるのならコードと異なることでもやってみる。厳格な法令やルールではそうは行かない。一例は、会長とCEOを分離すべきという議論。一般論としては正しいが、会社が緊急事態の場合しばらく一人に権限集中した方が良いと考えれば、それも可能としておいた方が良い。柔軟な仕組みの方が難しい市場環境で会社はうまくやっていける。究極の目的は株主にとってのリターンを高めるということだから」と述べている。またある年金コンサルタントは、すべての投資戦略に一律にコードを適用することは不適切で、「企業との対話が投資戦略に適う場合に、投資先企業と対話を行うというのが正しい考え方。一律に全部やらなければならないということではない。コード制定のリスクは厳しく適用され過ぎること。あくまで原則として運用されなければならない」と述べている。目的に沿った柔軟な原則にしていくことが重要ということであろう。

日本版作成では企業価値向上に焦点を当てること

 日本でもコード制定の目的は英国と同じである。なにより、日本の上場企業の資本生産性向上などを含めた長期の企業価値を高めることに主眼が置かれなければならない。その目的を達成するには以下のポイントを抑えておくことが重要と考える。

 ①議決権行使にばかり集中しないこと
 ②強制適用ではなく自主ルール作成
 ③運用会社自身のガバナンス改革
 ④アセット・オーナーの意識改革

 投資家と投資先企業との対話というと、日本では株主総会での議決権行使にばかり目が向きがちである。本来、株主総会は、取締役選任を含む投資先企業の経営判断に投資家が意見表明するもので、企業価値向上に積極的に関与するというより受け身で対応するものである。機関投資家はそれ以外の個別会議の場でも経営戦略に関わる様々な事項について議論すべきで、その対話の活性化こそがコード作成の意図である。日本は株主総会が6月に集中し、長くなったとは言え、招集通知が届けられてから総会が開催されるまで1ヶ月もなく、多数の企業に対し詳細なレベルまで内容確認する物理的な余裕はない。一方で、このような環境を改善して議決権行使を活発化させることも併せて行わねばならないだろう。

 英国で強調されていたのは、投資戦略に従った、個別の対話方針の策定であり、一律に「年1回CEOに会う」といった外形的な基準を作成しても仕方がない。運用会社が、自社の投資戦略の特徴を際立たせる意味を込めて対話方針を開示することが本来のあり方であり、強制的なルール適用は避けるべきである。

 運用会社自身のガバナンス改革も必要である。運用会社の経営で、自社の利益と顧客の利益が相反することは避けられない。例えば、運用資産額を増加させると運用収入が増加するが、一方で投資戦略によっては運用規模の増加によって運用自体が制約を受けリターンを高めることが難しくなり顧客のためにならないこともある。英国スチュワードシップコードでは、利益相反への対処方法を記すことを求めている。日本でも顧客利益を最優先するため、利益相反の問題にどう対応するかを明記し、自らの投資家責任を果たすことが不可欠なのではないか。

 運用会社のガバナンス改革と並んで、運用会社に運用委託する年金ファンド等のアセット・オーナーが自身の投資家責任の意識を高めることも重要である。既に大手の年金ファンドの多くは、議決権行使基準を表明し、その基準に基づいた権利行使を運用会社に求めている。アセット・オーナーは議決権行使だけでなく、運用会社に長期の視点を意識して投資先企業との様々な対話を行うよう投資ガイドラインなどで示すべきである。アセット・オーナー自身が短期的な評価に晒されている現状で実行が困難であるとは承知しているが、日本の上場企業の価値向上に自らの資金を活用するという意識を強く持つことが、最終的にはコード策定の目的である「長期の企業価値向上」に結びつくのである。

1) 2013年8月6日に第1回会合を開催。12月末までの予定で開催され、金融庁・企業開示課が事務局を務めている。筆者は、この検討会の14名の委員の1人である。
2) 筆者は、7月11日~16日にロンドンにおいてスチュワードシップコードの実態調査を行った。訪問先は運用会社、年金ファンド、年金コンサルタント、コード制定に関与した規制当局、ジャーナリストなど。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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注目ワード : スチュワードシップ・コード

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