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本格化する本邦金融機関のFATCA対応

2013年9月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 川橋仁美

2013年6月21日に「米国のFATCA(外国税務コンプライアンス法)実施円滑化等のための日米当局の相互協力・理解に関する声明」が公表された。制度の詳細が明らかになり、国内金融機関は準備を開始したところである。実施においては、現場担当者の負担を考慮し、現行の事務手順等を最大限に活かした効率的かつ堅実な対応が望まれる。

 FATCAは、2008年に生じたUBSの脱税幇助事件を受け、2010年3月に米国で成立した。目的は、米国人富裕層の租税回避行為を防止することにある。この目的を達成するために、FATCAは、米国人富裕層の資産運用に直接かかわっている外国金融機関に対して、米国口座(※1)に対する源泉徴収義務と米国内国歳入庁(InternalRevenue Service、以下IRS)に対する当該口座情報の報告義務を課している。FATCAについては、仮に制度をそのまま適用した場合、外国金融機関の母国の国内法令等(e.g. 個人情報保護法)に抵触する可能性があることが実施上の問題点として指摘されていた。実施に伴う事務負担や法的問題を解消するために、日米当局(※2)は、2012年6月に政府間協力の枠組みを採用する共同声明を公表(※3)。2013年6月21日には、「国際的な税務コンプライアンスの向上及び米国のFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明」が公表され、政府間協力の枠組みの内容が明確化された。日本を含め諸外国の税当局がFATCA実施に協力的な理由は、租税回避がG8の議題になるなど国際的な問題になっていることがある。

日米の政府間協力の枠組みの内容

 今回公表された政府間協力の枠組みでは、国内金融機関(※4)に、大きく次の4点を実施することを求めている。1)2013年10月25日までにIRSへ登録すること。かつ米国口座を特定するなどのFATCA参加金融機関の要件を満たすこと。この結果、国内金融機関はFATCAによる源泉徴収対象外となる。2)米国口座と特定された既存口座については、口座保有者から米国納税者番号の取得とIRSへの報告について同意を得る。同意が得られた場合には、当該口座の情報を毎年IRSへ報告する。3)2)の結果、同意が得られなかった口座(以下、非協力口座)については、その総数と総額を毎年IRSに報告する。4)米国口座と特定された新規口座については、口座開設の条件として口座保有者からIRSへの報告の同意を得、毎年IRSに報告する。なお米国口座特定の際に、国内金融機関に求められるデュー・デリジェンス手続き等は図表の通りである(※5)。

 当初、FATCAは、外国金融機関に対してIRSへの口座情報の開示を拒む非協力口座に対して30%の源泉徴収を実施すると共に、当該口座を閉鎖することを求めていた。しかし、政府間協力の枠組みでは、これを撤廃。国内金融機関は、非協力口座の総数と総額をIRSに報告すればよいこととなり、金融機関側の負担が軽減された。IRSが非協力口座についてより詳細な情報を取得したい場合には、租税条約にもとづいてIRSが国税庁に要請、国税庁が国内金融機関から情報を入手し、IRSに提供する。なお、FATCAへ参加していない外国金融機関(以下、非参加外国金融機関)は源泉徴収対象となるが、国内金融機関が非参加外国金融機関に対して米国を源泉とする所得(※6)等を支払う場合に生じる源泉徴収義務については、代替アプローチの検討を進める予定となっている(※7)。また、小規模金融機関については、日本国外に固定的な事業所を有しない、日本国外で顧客等を勧誘しない、前暦年末日時点において金融口座の98%以上を日本の居住者が保有している等(※8)の要件を満たす場合は、みなし遵守外国金融機関としてIRSに登録することにより報告義務が免除されることとなった(※9)。この結果、国内の大手金融機関は参加外国金融機関として、地域金融機関の多くはみなし遵守外国金融機関としてIRSに登録すると見られている。

金融機関の今後の対応

 政府間協力の枠組みの詳細が明らかになり、国内金融機関はIRSへの登録手続きを行うべく準備を開始したところであるが、2013年7月には、実務上困難を伴うとの理由から米国財務省がFATCAの適用開始を6ヶ月間延期し、2014年7月1日とすることを発表。その結果、政府間協力の枠組みで示された期限等は6ヶ月間繰り下がることとなった。

 源泉徴収義務の回避などFATCA実施に伴う負担の軽減に加え、時間的猶予が与えられたとは言え、参加外国金融機関となることを選択すると思われる大手国内金融機関は、適用開始までに、IRSへの登録、方針や手順などのコンプライアンス・プログラムの作成、デュー・デリジェンス体制の整備などが必要であり、決して余裕がある状況とは言えない。仮に、みなし遵守外国金融機関として登録する場合でも、FATCAに従い、既存口座については米国口座等を特定すること、新規口座については米国人等による開設を監視する方針及び手続きを策定することが求められている。更に参加外国金融機関と同様に、責任ある役職員を特定、FATCAの遵守状況を認証し、3年毎にIRSへ報告する必要がある。なお、規模を問わず、デュー・デリジェンスの対象となる高額口座の割合が高い金融機関では、相対的に事務負担が大きくなる。

 国内金融機関には、1)タイムラインにそって綿密な作業計画を立て、それを確実に実施していくこと、2)現場担当者の負担を考慮し、現行の事務手順等を最大限に活かした効率的な対応をしていくことが望まれる。

1) 米国市民、米国居住者、米国法人が対象となる。
2) 日本当局は、財務省、金融庁、国税庁など。米国当局は、財務省、IRS。
3) 米国政府は、外国金融機関のFATCA実施を円滑なものとするために、1)政府間アプローチ(外国金融機関による自国政府への報告と、当該国と米国の自動的な情報交換)、2)政府間協力の枠組み(外国金融機関の米国への直接の報告と、米国の要請にもとづく情報交換)を用意。
4) 預金機関、保管機関(他者に代わって金融資産を保有する事業体)、投資事業体、特定保険会社が含まれる。なお年金基金は対象外となっている。
5) 勤労者財産形成促進法にもとづき制度化された勤労者財産形成年金貯蓄契約等、従業員持株会、ISA口座、従業員退職給付信託、企業年金保険等は適用除外となる。
6) 利息・配当金、資産売却金など。
7) 政府間協力の枠組みでは、非参加外国金融機関について、2013年12月31日時点で存在する口座等については、暦年の2015年及び2016年に、IRSへの報告の同意を得ること、同意しない非参加金融機関については、総数と支払い総額を2017年3月15日までにIRSに報告すること。更に2014年1月1日以降に、非参加外国金融機関が新規口座開設等をする場合は、その条件としてIRSへの報告の同意を取得することを求めている。
8) 要件の詳細は、「国際的な税務コンプライアンスの向上及びFATCA実施の円滑化のための米国財務省と日本当局の間の相互協力及び理解に関する声明(仮訳)」を参照のこと。
9) ただし、米国口座が特定された場合には、当該口座を閉鎖すること、あるいは口座情報をIRSへ報告することが求められている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

川橋仁美Hitomi Kawahashi

金融イノベーション研究部
上級研究員
専門:内外金融機関経営、ALM、リスク管理

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