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証券会社のシェア分布変化の要因と今後に向けた視点

2013年8月号

資産運用ソリューション企画部 主任コンサルタント

ここ数年、日本において高頻度取引が拡大し、証券会社のシェア分布にも影響を及ぼしてきた。一方で、証券会社にとっては高頻度取引への対応のみに依存しない体制作り・サービス展開が改めて重要となっているのではなかろうか。

 日本市場では2012年末より相場の変動や売買高の急増など大きな動きが生じているが、実は過去数年、相場が底這っていた期間を含めて、構造変化が進みつつあった。

 図表1は2009年度から2011年度につき、証券会社別株式売買代金の累積シェアを図にしたものである(※1)。これを見ると、2009年度から2010年度にかけ累積シェアのカーブが大きく上方へシフトしていることが分かる。言い換えると、売買代金ベースで上位の証券会社を中心に取引シェアが上昇したと受け取られる。

 両年度の株式売買代金は400兆円強とさほど変わらない。上記のような変化が生じた要因として、ちょうどこの時期に東京証券取引所(以下、東証)のシステム更改があり、高頻度取引(HFT)と呼ばれる手法での売買が増加したことが推察される。

HFT台頭と日本

 HFTとは、独自のプログラムに基づき、時には1秒間に数百回といった高頻度で売買を繰り返す取引手法である(※2)。短期の値ざや獲得を図る専門会社やヘッジファンド、証券会社の自己売買で用いられ、米国・欧州から広がった。台頭を促したのは、最良執行義務の厳格化と注文処理速度を巡る市場間競争と見られる。米国では2005年にレギュレーションNMS(※3)が策定され、NYSE等従来取引所よりも処理速度の勝るATS(※4)・新興取引所へより多くのオーダーが集まる構造となった(※5)。欧州では2007年のMiFID(金融商品市場指令)施行に伴い、新たな市場としてMTF(※6)が台頭した。対抗して、既存取引所も注文処理速度の大幅な向上を図る中で、株式市場におけるHFTの割合は、米国では60~70%、欧州では40~50%程度にまで拡大している(※7)。

 海外主要市場でHFTの存在感が高まる中、東証は2010年1月、ミリ秒(1000分の1秒)レベルでの取引を可能とする株式売買システムarrowheadを導入した。日本株取引におけるHFTの割合はarrowhead稼働後の1年間で30%程度にまで拡大したと推定され、その割合は以降も高まっている模様である(※8)。一部証券会社ではHFTオーダーの更なる流入を見越して、IT強化を図る動きもある。

HFT偏重で良いか

 但し、証券会社の事業発展を考える上で、HFTオーダーにのみ注目して良いのかという見方もある。HFTのインパクトは確かに大きいが、HFT専業のバイサイド(運用会社等)の数は限られる(※9)。このため、証券会社によってはアクセスに限界があるとも言える。

 図表2は、2011年度の売買代金上位10社につき、2009年度以降のシェアを見たものである。これを見ると上位10社の中でもシェアが拡大したのは3社程度に留まることが分かる。すなわち、HFTのオーダーを巧みに捉えた証券会社は限られると言える。また、売買シェアの伸びほど手数料収入が増加していないと見られる証券会社もある。大手と言えどもHFTオーダー獲得を巡る競争は熾烈とも言える状況に鑑みると、多くの証券会社においてはHFT以外のフローに着目する必要があるように思われる。

機関投資家の重要性

 今後の事業拡大策の検討に際し改めて重要となるのは伝統的な機関投資家からのオーダーフローではなかろうか。昨年末からの相場上昇においては個人投資家による売買も目立つが、その取引量は市況の影響を受けやすい。年金・金融機関等長期運用を行う機関投資家からはより安定したオーダーフローが期待できる。オーダー獲得のためには組織体制やそれを支えるインフラ構築に関し規模が不可欠と考えられがちであるが、最大手でなくとも差別化は考えうる。例えば、より踏み込んだリサーチ、分析機会の提供が挙げられよう。

 セルサイドのリサーチは、短期業績に着目する投資家の多さから目先の業績予想に終始しがちな側面がある。一方、情報インフラの発達から財務情報等定量的な情報の付加価値は言うまでもなく低下している。中長期的なリターン実現を目指す機関投資家においては、業績の背後に潜む産業構造の変化や投資先企業の競争優位性といった高度な視点に一層の付加価値を見出していないだろうか。こうしたニーズに対応するにはリサーチにおける分析の高度化に加えて、発行体企業へのアクセス機会提供も重要になると推察される。経営陣だけでなく、取引顧客や競合他社等周辺企業へのヒアリング機会などもアレンジできれば、投資家においても定性情報をより反映した本源的価値の算出や銘柄選択が容易になる。事業会社との接点が多い証券会社にとっては機関投資家に対する訴求ポイントの1つになると思われる。

 日本株に対しては海外機関投資家の関心も大いに高まっている。証券会社においては、株式市場でHFTの存在感が高まったことを意識しつつも、その対応のみに依存しない体制作り・サービス展開が改めて重要となっているのではなかろうか。

1) 国内主要証券会社約100社の売買代金より計算。パレート図は各年の売買代金シェア順に作成しているため、年度により個社の順位は変わる。
2) HFTは、機関投資家がマーケットインパクト等執行コスト削減のため用いるアルゴリズム取引の一種であるが、取引頻度の他、夜間をまたぐポジションは殆ど保有しないといったポジション保有期間の短さも特徴として挙げられる。
3) 同じ銘柄が複数の市場で取引される米国市場において、NMS(National Market System)に関する諸規制を再整理するとともに、市場近代化に対応するため策定されたもの。
4) Alternative Trading Systemの略。代替取引システムの意。
5) レギュレーションNMSにおいては自動執行のできない市場で他の市場より有利な気配が提示された場合でもそれを無視して自動化された市場で売買執行しても最良執行義務には反しないとされた。
6) Multilateral Trading Facilitiesの略。多角的取引施設の意。なお、上記ATSも含め、広くは「代替執行市場」と呼ばれる。
7) Tabb Group、Aite Groupの推計値より。
8) 東証のコロケーションエリアからの注文割合から引用。現在は40~50%となっている。コロケーションとは発注速度を高めるため、取引所のホストコンピュータが所在するサイト内に証券会社が発注サーバーを設置するもの。
9) 米国の専門業者の中でも存在感が大きいのは十数社とされる。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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