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米国金融機関にみる女性マーケットへのアプローチ

2013年7月号

リテールビジネス企画部 副主任コンサルタント 西森美貴

米国では、女性の就業率の上昇や保有金融資産の規模拡大などを背景に、金融機関による女性マーケットへの取り組みが日本に先駆けて行われてきた。女性マーケット獲得のカギは「男女のお金に対する考え方の違い」や「女性特有のシチュエーション」を理解することである。

米国で注目される女性マーケット

 女性の社会進出が進んでいる米国では、2011年の女性の就労率は約60%(※1)と1950年から約2倍、平均収入も過去40年で90%超も増加(※2)している。また、統計的に女性のほうが長生きであることから、今後40年で女性は配偶者や親から約30兆ドルの富を相続、そのうちの7割強も(彼らの)娘に継承される(※3)、と言われている。女性への資産の集約が今後ますます進むことは想像に難くなく、2020年までには女性の保有する資産は約22兆ドルまで拡大する(※4)と推定されている。

 上記のような背景から、米国で「女性マーケット」は経済的な意味で重要視されており、金融機関も90年代後半から対応を進めてきた。

米国の金融機関の当初の取組みと課題認識

 米国金融機関の「女性マーケット」に対する当初の取組みは、女性のみを対象とした投資セミナーの開催や、色やデザインを意識した専用クレジットカードの提供など、“女性”という性別だけに着目したものに過ぎなかった。担当者らは、こういったアプローチが一時的に注目を集めたものの決定的な効果を得るには至らなかったことを認めている。

 効果が得られない原因は何だったのかを改めて振り返った結果、浮かび上がってきた重要な課題の一つが、「男女のお金や富に対する考え方の違いや女性特有のシチュエーションへの理解不足」である。

 男性の場合、お金は経済的な成功を意味するものであり「増やすもの」という意識が強く、“いくらの投資でいくら儲かるか”をより重要とみる傾向がある。よって、金融機関のアドバイザー(以下FA)に対しても、比較的短期の投資実績を求めるのが一般的である。一方、女性にとってお金とは「家族や自分を不確実さから守るためのもの」であり、(短期的な)儲けより自分の価値観に基づいて意思決定を下す。例えば投資を考える際、重要なのは商品の中身や金額よりも、“投資で結局何ができるのか”である。子や孫の大学費用が出せるか、自分が夫との死別・離別後に問題なく生活できるか、といった特定のシチュエーションを踏まえたものが思考の大部分を占める。そのため、女性がFAに対して求めるものも、自身の長期的ゴールに向けたニーズの理解を前提とした信頼あるリレーションであり、男性のそれとは異なる。

 もう一つの大きな課題が「男女の特性の違いに関する認識の欠如」である。男女間にはもとよりコミュニケーションの仕方や思考回路に相違がある。男性はある程度の情報提供があればニーズに合っているかを自分で判断するという自己判断型が多い。一方、女性は、自身の状況を踏まえてカスタマイズされた提案を順序だって説明してほしいと考える。あるインタビュー調査における女性被験者の「FAは、なぜ自分にその投資プランを推奨するか、医者が病状説明をする時と同レベルの情報を持って説明してほしい」との言葉はこれをよく表している。

 また、男性はファクトと行動で処理・解決する傾向が強いが、女性は情報を言葉で表現し感情的に処理する(※5)。例えば、家庭で妻が「ただ聞いてほしい」との想いで夫に語っているのに、夫は「だったらこうすれば!」などと単に解決策を言葉で返してしまい対話が噛み合わないことはないだろうか。これも男女の特性の違いである。

 以上のような課題から、男性中心の世界であった米国金融サービス業界で、FAと女性投資家の間のコミュニケーションにずれが生じてきたのが実態である(※6)。

女性マーケットへの新しい対応策

 上記のような課題を踏まえ、新たな取組みを始めている金融機関も出てきている。例えばMerrill Lynchには、女性の個別のシチュエーション等を考慮して、Women in transition(死別、離別含む状況の変化に直面している女性)や女性シニア退職層などを専門としたFAがいる。あるWomen in transition専門のFAは自身の紹介パンフレットで「最近離婚された女性、パートナーに先立たれた女性が精神的に安心できる場所を提供し、生涯安定した生活が送れるよう、戦略的プランニングを実施させていただきます」と語りかけている。実際の対応でも、女性の投資決定ドライバーとなる「一番守りたいもの」を中心とした会話を心がけ、守りたいものを守るというゴール達成に向けて投資はツールとして使いましょう、といった女性の心に響く会話を重視しているという。

 また、会社としても、ホームページ上に女性の退職にフォーカスした専用ページを設け、個別のシチュエーションに合致するコンテンツを提供し、その先の相談やブランドイメージ向上へとつなげている。

 さらに、コミュニケーションの向上を図ることで女性投資家に心地よく感じてもらうサービスを提供しようと、FAに対する社内教育も積極的に行われている。女性の特質を伝えるとともに、FAの女性マーケットに対する認識不足、偏見を改めるトレーニングである。特に、夫婦に対する際の妻とのリレーション重視、リスニングスキル(自分が話すより、顧客の発言や懸念事項に対し聞く耳を持つ)、ボディランゲージ(アイコンタクト、非言語シグナル)の習得、女性は投資に関心がないという固定観念の排除、さらには、商品アプローチではなく長期的な安全保障という視点で、女性の投資決定ドライバーとなる日常生活や家族の話題から会話を始め、ファイナンシャルプランニングが(自分や家族の)財務的安定にどう影響するのかを実例を持って話す、顧客に対する教育を実務の中心とすること、などを強調している。


 日本でも女性の社会進出は進みつつあり、いくつかの金融機関は女性マーケットへの取組みを行っている。しかしながら、一部を除き、単に「女性」と一括りにしたステレオタイプの商品やサービスを提供しているところが多いように見受けられる。

 女性の活用が成長戦略の一つに掲げられたり、NISA導入をきっかけに自身の資金で投資を始める女性も増えると見られるなど、今後、日本でも女性が注目を浴びる機会が増えてくるだろう。高齢女性の単身者増加も著しい。そのような中、金融機関が女性顧客の支持を得、新規マネーでの投資を促進していくためにも、女性の固有のシチュエーションや、確実に存在する「女性の特質」を認識したソフトな対応、継続的にサービスを行っていこうとする意思などの真摯な取組みが求められていくのではなかろうか。

1) 米国労働統計局(2011年)。
2) 米国統計年鑑(2010年)。
3) Director of solutions marketing, TD Ameritrade
4)“ The Female Economy,” Harvard Business Review, Sept. 2009
5) Wealth Advisor, JP Morgan Private Wealth Management
6) 現在もアドバイザーの約7割は男性。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

西森美貴

西森美貴Miki Nishimori

金融イノベーション研究部
主任研究員
専門:欧米リテール金融

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