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ライツ・オファリングは定着するか

2013年7月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

近年、株主に新株予約権を無償で割り当てる増資手法であるライツ・オファリングが注目されている。初のコミットメント型も実施されたが、安定的な資金調達方法としての定着に向けては、届出前勧誘規制の見直しや期間短縮といった課題もある。

注目されるライツ・オファリング

 ライツ・オファリングとは、すべての株主に譲渡可能な新株予約権(ライツ)を無償で割り当てるという増資手法である。イギリスなどヨーロッパ諸国等では一般的な増資手法だが、日本では2010年3月のタカラレーベンによる決議まで実施例がなかった。

 上場企業による増資の手法としては、ライツ・オファリングに似た株主割当増資のほか、公募増資や第三者割当増資がある。

 日本では、かつては額面発行による株主割当増資が増資手法の主流を占めたが、1970年代以降は時価発行が一般化し、公募や第三者割当増資がほとんどとなった。

 ところが、近年、既存株主の権利が大幅に希釈化したり、経営支配権が異動するような第三者割当増資が問題視されるようになり、2009年には東証の規則改正で、株主の利益を損ないかねないような第三者割当増資については株主の納得性を高める措置を講じるよう求める規制強化が行われた。

 一方、公募増資をめぐっても、2009年から10年にかけて大幅な希釈化を伴う事例が相次ぎ、そうした大規模増資に伴うインサイダー取引が摘発されるなど、問題点が指摘されている。

 そこで既存株主の利益により配慮した増資手法としてライツ・オファリングが注目を集めるようになった。増資による権利の希釈化を嫌う株主はライツを行使して払込に応じれば良いし、払込みを望まない株主もライツを市場で売却することで、一定の資金回収が見込めるので、既存株主の理解を得やすいと考えられたのである。

 しかし、これまでに決議されたライツ・オファリングのほとんどは、行使期間満了時に未行使のまま残されたライツが失権するノン・コミットメント型である(図表)。これに対して、イギリス等では、投資銀行(証券会社)が未行使のライツを買取ってすべて行使することを事前に約束するコミットメントを付したコミットメント型がほとんどである。

 ノン・コミットメント型のライツ・オファリングでは、ライツの行使比率は事前に予測できないため、資金調達金額が確定しない。コミットメント型のライツ・オファリングが難しいのであれば、上場企業にとっての安定的な資金調達手法とはなりにくいだろう。

初のコミットメント型の実施

 2013年4月、大証ジャスダック市場に上場するアイ・アール・ジャパンが、日本では初めてのコミットメント型ライツ・オファリングの実施を決議した。一般投資家の行使期間満了時に未行使のライツは、発行会社が理論価格の70%で一般投資家から取得し、90%の価格で引受証券会社に譲渡する。証券会社は引き取ったライツをすべて行使するので、会社は当初の予定通りの金額の資金調達を実現できる。

 もっとも、既に完了したノン・コミットメント型の2つの事例では、ライツの行使比率は92~95%という高率に達した。このことからすれば、コミットメントの有無は重要でなく、むしろ引受手数料が資金調達コストを押し上げるだけとの見方もあるかも知れない。

 しかし、先行事例では、いずれも大株主であるオーナー経営者がライツの行使を確約していた上、ライツの売買価格が理論価格を下回る傾向が観察されたとの指摘もある。これは、失権を恐れる株主がライツを投げ売りしたことを示唆しており、割安な価格でライツを取得した者は当然権利行使を行うので、結果として行使比率が高まっただけとみることもできるだろう。

 また、ライツ・オファリングは、ライツを市場に上場して一定期間売買を可能にする必要があることから、公募や第三者割当といった他の増資手法に比べて実施に要する期間が長くなりがちである。これまでライツ実施中に市場環境の急変に見舞われるといった事例がなかったことも高い行使比率につながっているものと考えられるが、それは単なる偶然に過ぎないとも言えるだろう。

今後の課題

 ライツ・オファリングをめぐっては課題も残されている。例えば、これまでに決議されたライツ・オファリングでは、いずれも大株主であるオーナー経営者がライツの行使を約束している。しかし、より分散的な株主構成の会社では、経営者が行使を約束するだけでは不十分であり、機関投資家等、外部の大株主への事前の行使確約要請が必要となろう。そうした行為を可能とするためには、有価証券届出書提出前の勧誘を厳しく禁じる規制との関係を整理することが求められる。

 ライツ・オファリングの期間短縮を可能にするような規制改革も必要だろう。ライツ・オファリングの本場であるイギリスでは、2008年の金融危機を機に、約50日というライツ・オファリングの実施期間の長さが問題視され、ライツの行使期間に関する規制を見直すことで一週間程度の期間短縮が図られることになった。

 また、これまでのライツ・オファリングによる調達金額は、いずれも数億円から数十億円程度であり、数百億円を超えるような本格的な大型増資は難しいとの見方もある。この点については、2013年5月に決議されたJトラストの事例が、ノン・コミットメント型ではあるが、一つのテスト・ケースと言えるかも知れない。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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