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傷害保険の損害率悪化と加齢による転倒リスクの高まり

2013年6月号

リテールソリューション企画部 上級コンサルタント 野崎洋之

傷害保険の損害率悪化の一因として後遺障害保険金の支払額増加がある。調査・分析から、その原因として加齢による転倒・骨折リスクの高まりの可能性が高いことが分かった。今後、リスク要因の分析を進め、よりリスク実態に合った保険料率体型の再構築を検討してもよいのではないか。

傷害保険の損害率悪化と参考純率の引き上げ

 傷害保険は不慮の事故によるケガの損害を補償する保険商品である。ケガにより通院、入院あるいは死亡した場合に支払われる通院保険金、入院保険金、死亡保険金がよく知られているが、それら以外にもケガにより後遺障害を被った場合には後遺障害保険金が、また手術を受けた場合には手術保険金が支払われる。この傷害保険は現行、職業別の保険料率体系となっているが(※1)、近年、損害率(※2)悪化が進行しており、その改善のために損害保険料率算出機構は、傷害保険の参考純率(※3)を平成21年、平成24年と連続してそれぞれ14.8%、15.0%引き上げた(※4)。本稿では、この傷害保険における損害率悪化の原因と改善のための対応について検討を行った。

損害率悪化の原因

 平成24年の参考純率改定時の説明資料(※5)によれば、傷害保険の損害率悪化の主な原因として、後遺障害被害者の増加による後遺障害保険金と、平均通院日数の増加による通院保険金の支払増加が挙げられている。これらの点について実際の変化を見てみると、後遺障害被害者数(※6)は平成17年度の8,738人から平成22年度には34,305人と約4倍に大きく増加している。一方、同時期の平均通院日数(※7)は16.34日から19.94日へと3.6日延びているが、約20%の増加に留まっており、後遺障害の被害者数増加に比べるとその変化は小さい。また、保険金の支払額で見ると、平成22年度は後遺障害保険金、通院保険金ともに約530億円とほぼ同じ額で、傷害保険金総支払額の約30%ずつを占めている。ただ、ここ数年の保険金支払額の内訳では、後遺障害保険金の保険金支払額は平成18年度比で約1.8倍となっており、通院保険金に比べ顕著に増加していることが分かる(図表1)。

傷害保険における保険金支払額の内訳

 そこで以下では、このように急激に増加している後遺障害保険金に着目し、損害率悪化の原因を考察する。

 平成21年の参考純率改定時の説明資料(※8)では、後遺障害保険金の支払増加の要因として、高齢者への支払件数の増加が挙げられている。この背景を把握するために、後遺障害の原因となる事故をまず整理する必要があるが、情報が少なく直接的な把握は困難である。そこで、高齢者の後遺障害の有無は介護の必要性に深く関わると考え、介護保険制度における要支援・要介護者の介護が必要となった主な原因を整理したところ、上位に挙げられたのは脳血管疾患(脳卒中)、認知症、高齢による衰弱、関節疾患、転倒・骨折および心疾患(心臓病)であった(※9)。ここから分かる通り、介護が必要となる主な原因の多くは疾患であり、不慮の事故によるケガの損害を補償する傷害保険において保険金支払の対象になり得るものは骨折・転倒のみとなっている。このことから、高齢者への後遺障害保険金の支払額増加の要因としても転倒・骨折の影響が類推される。

転倒・骨折リスクの年齢による傾向

 前記を踏まえて、後遺障害保険金の支払件数増加の原因を把握するため、野村総合研究所では加齢と転倒・骨折の関係についてのアンケート調査を実施した。2012年11月に実施した「転倒とケガに関するアンケート調査(※10)」における20代と60代の調査結果を比較すると、60代は20代に比べて転倒発生率は低いものの、転倒による骨折の発生率は高くなっていることが示された(図表2)。

転倒および骨折の発生率

 この結果から、ある者が転倒し、それにより骨折する確率を計算すると20代で0.62%、60代で2.7%となり、転倒による骨折発生の可能性が加齢により大きく高まることが見て取れる。この転倒による骨折発生率の高まりは、高齢者への後遺障害保険金の支払額増加に少なからず影響しているものと推察される。さらに、骨折患者の平均通院日数を算出すると、20代は4.2日であるのに対し、60代は12.0日(※11)となっており、転倒による骨折の発生率に対する加齢の影響は、通院保険金の支払増加にも影響している可能性があると考えられる。

 なお、本アンケート調査では転倒により生じたケガの治療に利用した施設に関しても調査した。ケガをした人の22.7%が施設での治療を受けており、内訳としては、病院・診療所への通院85.9%、接骨院・整骨院への通院16.7%、病院・診療所への入院2.4%という結果が得られ、様々な施設が利用されていることが把握された。

傷害保険の損害率悪化改善のために

 本稿ではアンケート調査をもとに加齢による転倒・骨折発生率への影響を整理し、転倒による骨折発生確率が加齢により高まることを把握した。転倒・骨折が要介護状態の原因になることも踏まえれば、傷害保険における後遺障害保険金の支払額増加にも転倒・骨折は影響していると考えられる。今回の分析のみでは、その因果関係が明確とまでは言えず、また、中間年代や60代以上の年代まで含めた特徴は十分に把握できていないという課題があるが、わが国において高齢化はさらに進行することから、その影響は今後一層大きくなると想定される。現状の料率体系下での近年の損害率悪化を踏まえれば、相互扶助の原則を尊重しながらも、加齢によるケガのリスクの変化をはじめとして傷害保険に影響を与えるリスク要因を整理・分析し、よりリスク実態に合った保険料率体系の再構築を検討してもよいのではないか。

1) 交通事故傷害保険など、職業による保険料の区分がない傷害保険商品もある。
2) 収入保険料に対する支払った保険金の割合。通常は、正味保険金に損害調査費を加えて正味保険料で除した割合を指す。
3) 損害保険料率算出機構で算出する純保険料率。損害保険料率算出機構では、自動車保健、火災保険、傷害保険および介護費用保険の参考純率算出を実施している。
4) 種目合計の引き上げ率。
5) 【傷害保険】参考純率改定のご案内(損害保険料率算出機構)
6) 種目合計。
7) 種目合計(海外旅行傷害保険を除く)。
8) 傷害保険参考純率説明資料(損害保険料率算出機構)
9) 平成22年 国民生活基礎調査(厚生労働省)。
10) 20代〜60代の男女 計1,000名を対象に実施。
11) 平成23年 患者調査(厚生労働省)より推計。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

野崎洋之

野崎洋之Hiroyuki Nozaki

リテールソリューション企画部
上級コンサルタント
専門:リスクマネジメント、リスクファイナンス

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