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ニュース記事と検索データから予測する不動産市場の「現在」

2013年6月号

公共経営コンサルティング部 上級研究員 谷山智彦

不動産市場は、公表情報にタイムラグが存在しているため、現在の市場動向が分からず、めまぐるしく変化する「市場の雰囲気」の影響を受けやすい。ニュース記事や検索データなどのリアルタイムなビッグデータを活用することで、市場のセンチメントや関心度を定量化し、不動産市場の現在予測が可能になるだろう。

 普通、バックミラーだけで車の運転はできない。不動産市場に限らず、数多くの経済統計は過去の値であり、それはバックミラーで見る道路のようなものである。例えば、不動産の価格指数や各種データは、少なくとも数か月のタイムラグを持って公表されている。また、GDPは四半期毎に、かつ約1か月半遅れで公表されている。つまり、これらの統計データは、いくら最新の公表値であっても、フロントガラスから見える「現在」ではない。

 そこで近年、現在予測(ナウキャスティング:nowcasting)と呼ばれる手法が注目を集めている(※1)。従来、リアルタイムに手に入るデータは、株価や為替などの金融市場のデータに限定されていたが、現在ではTwitterやブログ、ニュース記事などのテキストデータや、インターネット上の検索データなど、「ビッグデータ」とも呼ばれる膨大な情報が利用可能になってきている。そして、これらのデータを活用して、多様な金融経済指標の現在を予測する試みが数多く行われている。

ビッグデータを用いた金融経済分野の現在予測

 リアルタイムに入手可能なデータとして代表的なものには、ニュース記事やTwitterなどのテキストデータと、Googleなどの検索エンジンで検索されたインターネット検索量(※2)がある。実際に、ニュース記事やTwitterなどのテキストデータに基づいて、自然言語処理やテキストマイニングの手法を使って「市場センチメント」を定量化し、それに基づいてアルゴリズム取引を行う投資ファンドなども存在する(※3)。また、各国の中央銀行では、マクロ経済指標の現在予測として、インターネット上のリアルタイムな検索量を用いる検討が進められている(※4)。特に、不動産市場に関しては、英国の中央銀行であるイングランド銀行では、住宅価格とGoogle上で不動産業者が検索される回数の関係に着目し、公表にタイムラグのある住宅価格の現在を予測しようと試みている(※5)。これは、現時点においてGoogleで不動産業者を検索する量が増えていれば、現在の不動産価格も上昇しているだろうという関係に着目したものである。これは不動産取引に対するリアルタイムの「関心度」としても捉えられる。

不動産市場の市場センチメントや関心度を定量化する

 そこで、本稿では、不動産市場の雰囲気を示すものとして、筆者らが開発した「不動産市場センチメント指数」と、「不動産アテンション指数」を簡単に紹介したい。

 まず、前者は、日経BP社が発行している「日経不動産マーケット情報」という不動産業界の専門誌が、ウェブ上で毎日配信しているニュース記事の全文データ(約10年分)に基づいて、不動産市場のセンチメントを自然言語処理やテキストマイニングの手法を使って指数化したものである。また、後者の不動産アテンション指数は、Googleで「不動産」というカテゴリーに属する検索クエリーが行われた量を季節調整の上、月次に指数化したものである。どちらも当然、タイムラグは存在しない。

 両者の詳しい算出方法は割愛するが、図表に示したのが2006年1月から2013年3月末までの月次の不動産市場センチメント指数と不動産アテンション指数の推移である。比較のために、東京証券取引所が試験配信している東証住宅価格指数(東京都)の値も示した。ここからは、不動産市場のセンチメントが2005年後半から高まり、2006年末にピークとなり、その後急速に下落に転じた様子が見て取れる。また、この動きは、東証住宅価格指数と比較して、かなり先行して動いているように見える。実際に、統計的に言えば、不動産市場のセンチメントと関心度と取引価格という3つの変数は、長期的な均衡関係にあり、循環する因果関係を有している。特に、市場センチメントがポジティブになれば、ある一定の期間をかけて不動産の取引価格を上昇させる効果があることが示されている(※6)。

不動産市場の心理状態と関心度の推移

 そして、直近においては、市場センチメントが非常に強い反発を描いていることが注目できるだろう。また、不動産アテンション指数についても、直近の2013年に入ってから急増している。つまり、不動産に対する市場の心理状態や関心度が急速に高まっていることを示している。また、東証住宅価格指数は約2ヶ月遅れで公表されるため、直近の値は分からないが、このような市場センチメントや関心度をリアルタイムに捉えることで、まさに不動産市場の現在予測が可能になるだろう。

リアルタイムなビッグデータを活用し不動産市場の現在予測(ナウキャスティング)を

 現状、不動産市場の関係者は、数ヶ月遅れの過去の値を見ながら、いわゆる勘と経験と度胸に基づいて足元の市場環境を判断していないだろうか。そして、その判断は、ニュース記事の論調や周囲の関心度など、不動産市場の雰囲気に大きく左右されてしまっていないだろうか。

 従来、マーケットの「期待」を定量化するには、企業や個人に対するアンケート調査によって把握するのが一般的であった。しかし、このようなアンケート調査を定期的に行うのは高コストであり、またリアルタイム性にも欠けてしまう。本稿のように、リアルタイムなテキストデータや検索データを活用することで、市場の期待や関心度もタイムラグなく定量化できる。

 現時点においては、不動産市場のセンチメントも関心度も急上昇している。過去の例を見る限り、今後はファンダメンタルズも改善に向かう可能性が高いと言えるだろう。しかし、リアルタイムなビッグデータを活用し、市場の雰囲気をタイムラグなく定量的に捉えることで、現時点の盛り上がりが2007年前後の水準には未だ届いていないことも定量的に判断できる。過信や不安に陥らず、冷静な投資判断をする上でも、不動産市場の今の雰囲気を定量化し、現在予測をすべきではないだろうか。

1) 将来予測であるforecastingに対して、現在を予測するという意味の造語である。
2) Choi, H., and H. Varian(2011),“ Predicting the present with Google Trends,” Working Paper, Google Inc.
3) Bollen, J., H., Mao, and X., Zeng(2010),“ Twitter mood predicts the stock market,” Journal of Computational Science, 2, 1-8.
4) 白木・松村・松本(2013)「景気判断における検索データの利用可能性」、日本銀行調査論文、日本銀行調査統計局。
5) McLaren, N., and R., Shanbhogue(2011), “Using Internet Search Data as Economic Indicators,” Bank of England Quarterly Bulletin, Bank of England, 51(2), 134-140.
6) 谷山・本間・川口(2013)「不動産市場における情報伝播:価格先行指標としてのニュース記事とインターネット検索量」、日本不動産金融工学学会。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

谷山智彦Tomohiko Taniyama

ビットリアルティ株式会社
取締役
専門:不動産テック、証券化、不動産金融工学等

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