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日本から見た欧州AIFMD導入

2013年6月号

金融ITイノベーション研究部 上級研究員 片山謙

EUはオルタナティブ投資ファンド運用会社規制(AIFMD)と呼ぶ新たな規制の導入を進めている。対象は主にヘッジファンドなどの運用者であるが、日本で販売されている欧州籍ファンドや、対日証券投資にも影響が出る可能性がある。

AIFMDとは

 EUはオルタナティブ投資ファンド運用会社規制(AIFMD)と呼ぶ新規制の導入を進めている。AIFMDは2011年6月に欧州指令として制定され、各国政府は2013年7月までに国内法制化するよう要請されている。

 AIFMDの対象となるかどうかはファンド種類およびマーケティング活動先、ファンド(AIF)の在籍国、運用者(AIFM)の在籍地で決まる。

 ファンドの種類では主にヘッジファンドやプライベートエクイティ・ファンドが想定されてきたが、定義が難しく、仮に定義できたとしても対象から外れようとする動きが出る懸念から、対象が広く設定された。具体的には、「複数の投資家から投資資金を集めるファンドのうち、(既に)個人投資家保護規制がかかっているUCITSファンドや、マネージド・アカウント、年金、従業員退職プランなどを除くもの」という表現である。そのため、伝統的なロングオンリーのファンドであってもUCITSでなければ対象となる。

 そして、マーケティング活動先として欧州の投資家を想定するもの、ファンドの在籍国あるいは運用者の在籍地が欧州にあるものはすべて対象となる。

 そのため、例えば日本の投資家向けにマーケティングされているロングオンリーのファンドであっても、ファンドの籍が欧州あるいは運用者が欧州にいればAIFMDの規制対象となりうる。

AIFMDの関係者(日本投資家向け日本株運用、欧州籍ファンドの場合)

運用者への影響

 AIFMDの対象となった運用者は、AIFMとして各国規制当局への登録が必要となり、多くの観点から規制がかけられる(※1)。例えば、最低資本の確保、役職員に対する報酬ポリシーおよび利益相反防止策の策定、リスク管理や流動性管理の強化、また、投資資産のバリュエーションに係る独立性の担保が求められる。

 コンプライアンス負荷は高く、規模の小さな運用者には大きな足かせとなることが懸念される。そこで、運用資産額が総額1億ユーロ未満の小規模な運用者は規制の対象外とされた。言い換えると1億ユーロ以上の中堅・大手運用者は基本的に対象となる。仮に、日本にある運用会社がAIFMとして欧州の監督当局に報告するとなると、その事務負荷は無視できない。

 日本にある組織がAIFM登録を避ける対策の一つとしては、欧州に設置された組織、例えばファンド管理会社(Management Company)をファンド運用者(AIFM)として登録し、そのAIFMが運用業務など一部を日本など欧州域外の組織に委託する形をとることが考えられる。ただ、AIFMDは運用者機能の外部委託について幾項にもわたる制約を課している。運用の主たる要素であるポートフォリオ管理やリスク管理の機能を過度に外部委託すると、当該運用者は実質的に郵便箱(レターボックス)役に過ぎないと見なされAIFMの地位を失う。そうなるとファンドは改めて別の(実質的な)AIFMを設定しなければならなくなる。運用者とは何であり、誰にするのかについて入念な検討と対策が求められることになろう。

カストディ・ビジネスへの影響

 AIFMDは運用者規制であると共に、ファンド資産の保管者規制でもある。背景には、AIFMDが検討されていたさなかにマドフ事件(※2)などが発生し、投資家の資産が消失したことがある。AIFMDではファンド資産の保管者を「デポジタリ」として定義し、資産消失時に行うべき補償についての欧州統一基準を盛り込んだ。

 デポジタリとは、ファンド資産全体を管理するいわゆるグローバル・カストディ(グロカス)を指す。グロカスは、世界各地に投資された資産を現地のサブ・カストディ(サブカス)を通し管理している。例えば日本株ファンドであれば、日本の証券保管振替機構(ほふり)に口座を持つサブカスが管理している。

 AIFMD導入を受けて、このグロカスとサブカスの関係に大きな課題が生じている。AIFMDではサブカスに起因する資産消失についても、グロカスがファンドに対し賠償責任を負うことが規定されているためである。グロカスはサブカスと資産保管に係る委託契約を結んではいるが、業務の仔細まで管理することは容易ではない。

 とりわけ、ヘッジファンドの場合はプライム・ブローカーの現地拠点がサブカス機能を担っている場合が多い。グロカスがサブカスの選択権を実質持たないにもかかわらず、当該サブカスで資産が消失した場合に賠償責任を負うのは割に合わない。そこで、プライム・ブローカーとグロカスとの間で損害賠償に係る取り決めを結ぶことが検討されているようであるが、契約で投資家からの訴訟に耐えられるのか不安視する向きもなくはない。

 そこで、プライム・ブローカーの現地拠点の代わりにグロカス系列のサブカスに保管機能を持たせる代替モデルが検討されている(※3)。そうなれば、欧州籍ファンドのサブカス機能を担う現地拠点、例えば在日大手証券会社の業務に大きな影響が出る可能性は捨てきれない(※4)。

 金融危機以降、米国のドッド・フランク法や欧州のEMIR(※5)など、域外に影響を及ぼす規制が相次いで導入されてきている。AIFMDについても欧州の出来事と傍観せず、日本における資産運用会社やサブカス(銀行、証券)への影響について検証しておく必要があるのではないだろうか。

1) なお、各国当局に対する運用者登録には移行期間が設けられている。例えば英国FSAは国内法化の達成期限である2013年7月から1年後の2014年7月を運用者登録の期限とし、それまでは運用者が未登録であってもファンドの勧誘規制などは特に課さない方針とされる。
2) 元Nasdaq 会長のバーナード・L・マドフが率いる証券投資会社が、高利回りを謳い文句に世界の富裕層や大手機関投資家から巨額の資金を集め、被害を与えた詐欺事件。
3) ロングオンリーのファンドでも金融危機以降、欧米の大手グロカスが主要な投資先国に自社系のサブカスを設置する、通称ダイレクト・カストディ化の動きが強まっており、ヘッジファンドで同様の動きが出る可能性はある。
4) 代替モデルでは業務運営プロセスが複雑になる。注文を執行する証券会社との関係はどう変わるのか、プライム・ブローカー本社の指図を各地のサブカスがどう受けるのか、業務ミスが発生した際の切り分けや対処はどうするのかなど、検討課題は枚挙にいとまがない。
5) 欧州市場インフラ規制(European Market Infrastructure Regulation)。世界的な金融危機をふまえ米国のドッド・フランク法とならび欧州で策定された規制。店頭デリバティブ取引の清算義務付けなどを定めた。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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片山謙

片山謙Ken Katayama

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