1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. ホールセールビジネス
  6. 中国におけるクレジット投資機会とそのリスク

中国におけるクレジット投資機会とそのリスク

2013年5月号

金融ITイノベーション研究部 主任研究員 嶋村武史

資金供給が十分に行われていない中国の中小企業向けに貸出しを行うことで相対的に高いリターンを獲得しようとするファンドの動きが出ている。潜在的な収益性は魅力的だが、実務的な問題にどう対処するのかが課題となる。

 野村総合研究所では最近、新興アジアを主要投資対象とするファンドにインタビュー調査を行った(※1)。その中で、株式投資機会のみならず、国内におけるクレジット投資(※2)機会に着目するファンドの動きが出ていることが分かった。本レポートでは、市場規模が特に大きく、本邦投資家にとっても関心が高いと思われる、中国国内のクレジット市場(※3)に焦点を当て、需給動向、投資機会、及びリスク要因について述べていきたい。

中国国内クレジット市場の需給概観

 近年、中国のクレジット市場は経済成長率を上回るスピードで拡大してきた。中国における非金融法人の銀行借入と社債発行は、2000年には1兆2,582億元であったのが、2011年には9兆5,285億元と年率約20%で成長している(※4)。同期間の平均実質GDP成長率が年率10.2%(※5)なのに対して、相対的に高い伸び率を示している。

 このようにクレジットの供給自体は伸びているが、中国経済に万遍なく広がっているわけではなく、大企業向けに偏っている状況がある。図表1で、企業タイプ毎のクレジット供給状況を○、△、×で簡略化して示した。まず、社債に関して見ると、中小企業(※6)の起債手段である中小企業集合債の発行は2007年から2011年までで合計38億元(※7)であり、同期間の非金融機関の社債発行額の約0.1%に過ぎない。貸出に関しては、残高の約8割を占める銀行貸出と残り約2割を占めるノンバンク(※8)貸出がある。銀行貸出に関しては社債と同様に大企業向けに偏っているが、ノンバンクは中小企業向けが中心となっている(図表2)。

中国におけるクレジット供給概観

中国国内の借手別内訳

 銀行が中小企業向けの貸出拡大に積極的でない理由の一つとしては、金利の規制が考えられる。規制緩和の兆しは見えるものの、中国政府による銀行の預金金利と貸出金利の規制によって、依然として大企業向け貸出において一定の金利マージンが担保されているため、敢えてリスクを取って中小企業向け貸出を増やし、マージンを取りに行くインセンティブを減じている。

 では、中国のクレジット供給はその資金需要に見合った水準なのであろうか。資金需要に対するクレジット供給の尺度として名目GDPに対する企業負債の比率を複数の国家間で比較してみると、2011年の中国の企業負債/名目GDP比率は151%であり、インド(同49%)やインドネシア(同22%)といったアジア新興国のみならず、日本(同113%)やアメリカ(同75%)といった先進国と比較しても、相対的に高い水準にある(※9)。一見、中国におけるクレジット供給が円滑であるように見えるが、上記の通り規模の小さい企業に対しては十分なクレジット供給がなされていない。実際、ノンバンクによる貸出が活発な温州における総合貸出金利は20.86%(※10)と、銀行の1年物貸出基準レートの6%(※11)と比して極めて高い水準にあり、温州における主要な借り手である中小企業の資金需要に比して供給が足りていないため、高い金利を支払わざるを得ない状況が窺える。

中国国内クレジット市場における投資機会とリスク

 上記のような中国国内のクレジット市場の需給環境や金利水準から、中国の中小企業向けに直接貸出を行い、インカム収入の獲得を目指すファンドの動きがある。一方で、中小企業向け貸出はリスク考慮後のリターンで考えると割に合わないと指摘する声もある。中小企業向け融資が十分に行われない理由として、経営リスクが高く、財務情報の信頼性が低いため、貸出金の回収率が低いという側面があるからだ。従って、実際に中小企業向けに貸出を行う場合は、回収困難な状況に陥った際のプロテクションを考える必要がある。最も一般的な方法は担保を取ることであり、中国における担保の代表は不動産である。この点、不動産ディベロッパー向けの貸出であれば不動産担保を取りやすい。また、2010年初頭以降、中国人民銀行によって不動産取引や不動産購入融資に係る規制の強化が行われているため、不動産ディベロッパーは銀行貸出を受けづらくなっている。実際、インタビューしたファンドでも、担保の観点と資金ニーズに鑑み、貸出金額の2倍から3倍程度の不動産担保を取った上で中小の不動産ディベロッパーに対して貸出を行い、年率で10%台後半から20%台前半の比較的高い金利収入を享受しようとする動きが見られた。

 この際、主要なリスクとして、担保が実際に機能するのかという問題がある。まず、不動産ディベロッパーに対して不動産担保付きで貸出を行う場合、担保によるプロテクションが必要な局面では、その担保価値が大きく毀損している可能性がある点を考慮に入れる必要がある。不動産ディベロッパーの資金繰りが悪化する局面は、不動産価格が下落している可能性が高いためだ。また、契約上担保を取っていても、実際に問題が起きた際に担保権を執行できるかという問題もある。先進国と比較して法制度が未整備であること等から、借手の利払いや資金返済が滞った際の担保権の執行がスムーズに行かないケースも多いようだ。特に中国国内において必要なネットワークや拠点網を欠いている海外投資家にとっては、このような実務的な問題への対処は困難が伴う部分である。

 中国における中小企業向け有担保貸出の潜在的なリターンのポテンシャルは魅力的であるが、既に述べたような実務的な問題も踏まえて総合的に投資機会を検討する必要がある。本邦投資家を含めた外国投資家の観点から考えると、まず中国クレジット市場における経験と実務対応能力を有したパートナーを見つけることが現実的であろう。

1) 当該インタビュー調査は2012年11月から2013年1月にかけて、10以上のファンドを対象に実施した。
2) ここでクレジット投資とは、企業向け貸出及び社債投資と定義。
3) 新興アジア主要国(中国、韓国、インド、マレーシア、タイ、シンガポール、インドネシア、フィリピン、及びベトナム)の上場株式市場の時価総額が約7兆ドルであるのに対して、国内クレジット市場は約20兆米ドルとなっており、その内中国が14兆ドル弱を占める(出所:Bloomberg、各国中央銀行。2012年6月末時点)。
4) 出所:PBOC
5) 出所:ADB
6) 中国における中小企業の定義は業種により異なるが、概ね売上2〜4億元未満、従業員数1,000〜2,000人未満の企業を指す(中小企業分類標準規定による)。
7) 出所:中国債券情報ネットワーク
8) ここでノンバンクとは、Trust、PawnShop、Guarantor、Small Bank、Underground Bank、及びWealth Management Productの総称と定義。
9) 出所:各国中央銀行、IMF、ADB
10) 出所:PBOC(2012年12月28日時点)
11) 出所:PBOC(2012年12月末時点)

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

嶋村武史Takeshi Shimamura

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:金融・資本市場と金融機関経営

この執筆者の他の記事

嶋村武史の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています