1. HOME
  2. 刊行物
  3. 金融ITフォーカス
  4. カテゴリから探す
  5. 金融市場
  6. 「平時」に戻る空売り規制

「平時」に戻る空売り規制

2013年5月号

未来創発センター 主席研究員 大崎貞和

金融庁は、2008年の金融危機時に導入された空売り規制をめぐる緊急措置を打ち切るとともに、「平時」における空売り規制を見直す方針を打ち出した。見直しの時期や内容は妥当なものであり、市場の流動性と価格形成機能の向上につながることが期待される。

緊急措置が続いてきた日本

 2013年3月、金融庁が空売り規制の見直し案を公表した。日本では、2008年9月のリーマン・ショックによる市場混乱を受けて導入された緊急措置としての空売りに対する規制強化策が、12回にわたって期限延長されるという事態に陥っていた。見直し案の内容は11月にも実施される見通しで、ようやく日本市場における空売り規制が「平時」に戻ることになる。

 空売りとは、現に保有していない株式や債券を他人から借り入れて売り付ける投資手法である。空売りが行われることで、手元に現物証券を保有しない投資家の投資判断が市場価格に反映されるとともに、売買注文が増加し、市場の流動性が向上する。

 このように、空売りは正当な経済的機能を有する取引だが、他方で、特定の銘柄の空売りを短期間に集中的に行えば、価格を急落させることも可能だ。こうした取引は市場の混乱を招き、不正な相場操縦にあたる可能性も高い。とりわけ2008年の金融危機時には、投機的な空売りの横行が世界各国の市場で問題視され、一部の銘柄については空売りを禁止するといった措置も講じられた。

 日本では、2008年以前から空売りの明示・確認義務や直近の売買価格以下での空売りを禁止する「アップティック・ルール」といった規制が設けられていたが、2008年には証券の受渡しを確実にする決済措置の講じられていない空売り(ネイキッド・ショートセリング)の禁止や一定規模以上の空売りポジションの報告・公表制度が、緊急措置として導入された。

 その後、欧米諸国等では、緊急措置が解除され、平時の規制の見直しも行われている。これに対して、日本では、東日本大震災の発生といった不測の事態もあり、平時の規制に復するタイミングを逸してしまっていたのである。

規制見直しの内容

 今回の規制見直し案の主要なポイントは次の通りである(図表参照)。

現行空売り規制と見直し案の内容

 ① 2008年に緊急措置として導入された空売りポジションの報告・公表制度を恒久措置に改め、空売り残高割合が0.2%以上に達した時点で報告義務を課し、0.5%以上に達した場合には公表する。空売り残高割合が0.3%、0.4%、0.5%以上に達した場合や当初の報告水準である0.2%を下回った場合には変更報告を義務づける。また、ポジションの公表後0.5%を下回った場合にも公表を行う。

 ② 2008年以前から恒久措置として課されている空売りに対する価格規制を改め、空売りに係る有価証券の価格が前日終値と比較して10%以上低い価格に達した段階で現行の価格規制と同じようなアップティック・ルールが適用される枠組み(トリガー方式)に移行する。価格規制が発動された場合、その適用期間は適用開始時点から翌日の取引終了時点までとし、取引所市場だけでなく現在は規制の対象から除外されている私設取引システム(PTS)における取引も規制の対象とする。

 ③ 2008年に緊急措置として導入されたネイキッド・ショートセリングの禁止を恒久措置に改め、PTSにおける取引も規制の対象とする。

 ④ 空売りの明示・確認義務及び2011年に導入された公募増資に関連した空売りの規制(日本版レギュレーションM)についても、規制の適用対象をPTSにおける取引に拡大する。

期待される市場機能の強化

 日本市場では、2012年11月の総選挙やその後の第二次安倍内閣の発足、同内閣が掲げる経済政策「アベノミクス」に対する期待感の高まりなどを背景に、株価が大幅に上昇するなど、市場心理の安定感が増している。今回の空売り規制見直しは、時宜を得たものと言える。

 また、見直し案の内容は、空売りの経済的意義を基本的に肯定しつつ、市場が不安定化した場合には混乱を引き起こす要因にもなり得るとの認識に基づき、金融危機後の欧米における規制見直しの経験にも学んだ、バランスの取れたものとなっている。中でも、これまで常時課せられてきた価格規制を価格急落時にのみ発動されるよう改めることは、日本市場の流動性と価格形成機能の向上に大きく寄与するものと考えられる。

 日本では、しばしば公的な株式買い入れ機関の創設といった「株価対策」の導入が主張されるなど、市場への人為的な介入を求める意見が根強い。とりわけ、空売りは、相場低迷の元凶と決め付けられ、白眼視されがちである。しかし、後日の買い戻しを伴う空売りを過度に抑制すれば、かえって相場の下落を加速しかねない。今回の規制見直しが正当な空売りの円滑化と市場の機能強化につながることを期待したい。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

印刷用PDF

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

この執筆者の他の記事

大崎貞和の他の記事一覧

注目ワード : 空売り規制

空売り規制に関する記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています