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米銀の新規設立ゼロが意味するもの

2013年4月号

NRIアメリカ 金融サービス調査部門長 吉永高士

2012年の米銀新規設立数は、過去40年間で初めてゼロとなった。背景には、2000年代半ばまで米銀の収益成長を牽引してきた伝統的事業からの収益性がここへきて構造的に押し下げられていることがあり、邦銀を含む外銀の米国戦略と展開にも影響を与える可能性がある。

集計開始以来初めて新規設立がゼロに

 米銀(※1)の年間新規設立数がゼロとなったのは、40年前に米国預金保険公社(FDIC)が関連データの集計を開始してから初めてのことである(※2)。

 米国では銀行数がピークを付けた1985年以降も、リーマンショックの起きる2008年までの約四半世紀の間に年平均155行もの新規銀行設立がみられてきた。しかし、その後の2009~2011年の3年間では年平均15件と10分の1以下のペースにまで激減し、2012年にはついに新規設立が途切れたかっこうだ(図表)。

米銀数と新規設立数等の推移

 過去30年あまりの米銀史を振り返ると、70~80年代のエネルギー危機や、80年代~90年代初頭にかけての3つのL問題(不動産貸付、LBO貸付、途上国債務)とS&L危機、および2001年のハイテク株バブル崩壊などに際し、年間の銀行設立数が100件を下回ることは何度かあった。しかし、これらの危機的局面においても銀行設立への影響はいずれも一時的なものにとどまり、景気の回復とも相まって1年~数年以内に再び年間200行前後の新規設立を記録するサイクルが繰り返されてきた。

 ところが、現在の米銀新規設立数の落ち込みは、それ以前のリセッション後にみられたような循環的要因の改善さえあればおのずと過去の水準にまで回復が期待できるような性質のものと考える向きは米銀関係者のなかでは少数派である。むしろ、今後の米銀の年間新規設立数は構造的に低位推移するようになるという見方が支配的である。

失われた新規参入のダイナミズム

 今後の米銀の新規設立数を構造的に押し下げるとみられる主な要因は2つある。

 第一は、預金ビジネスを中心とするコア収益力の低下である。典型的な米銀の新規設立検討に際しては2000年代後半まで、リテール顧客や中小企業顧客向けの低コスト預金ビジネスを中心にどれだけのコア収益採算が取れるのかという点が最重要の判断基準とされてきた。これは、突き詰めるならば、決済性預金を中心とする低コスト預金を金利リスクを取らずに市場金利で運用したと仮定した場合の預金利ザヤと預金関連手数料(口座維持手数料、当座貸越手数料、デビットカード加盟店手数料、小切手不渡手数料等)で、物理的店舗費用や人件費を含む営業費用がどこまで賄えるかという財務的な規律である。この判断基準は既存銀行による新規出店や他行の買収等に際してもきわめて重視されてきたものだが(※3)、金融危機後の2つの制度改革(デビッド関連手数料への上限導入と当座貸越手数料徴収への明示的な事前同意義務導入)により業界全体で約200億ドル規模での預金関連手数料逸失がもたらされるなかで、銀行新規設立検討に際しての収支面での投資採算見通しを著しく悪化させることになった。将来の金利上昇局面において預金利ザヤは循環的に一定程度回復することはあったとしても、預金関連手数料が以前のように米銀の新規参入を促す両輪の1つとなるほどの存在になるとは考えにくい。

 米銀の新規設立数を構造的に押し下げるとみられるもう1つの要因は、従来は総資産が10億ドルや5億ドルに満たない中小銀行などに対して検査頻度や範囲の簡素化などのかたちで適用されてきた規制負担軽減措置の範囲がおしなべて狭まる傾向にあることである。象徴的なものとしては、バーゼルⅢ(新自己資本比率基準)の各国ルール導入に際して、中小銀行の貸付資産のリスクウェート軽減などにより中核的自己資本比率の水準を中堅規模以上の銀行よりも実質的に低くする優遇措置を講じない金融当局の基本方針が挙げられる。これにより、総資産1億ドル程度以下の既存銀行については、「株主資本コスト上の採算からも単独での生き残りが非常にむずかしくなった」(老舗投資銀行の金融機関担当部門責任者)との見方が強まっており、銀行の新規設立についても同様の状況にあるとみられている。

 90年代初頭に15,000行を超えていた米銀数は90年代末期に約半分近くにまで減ったものの、「その後の10年間で1,000行近くにまで減る」といった、2000年前後に米銀関係者からしばしば聞かれた当時の見通し(※4)は大きく外れることとなった。一定以上のペースで米銀再編が進むことで数が減少するという彼らの見方はおおむね正しかったものの、10年間で3000行以上を超える銀行が他行への統合で消滅する一方で1500行近い新たな銀行設立が行われる新規参入のダイナミズムを過小評価していた。しかし、新規設立の構造的な低位推移がすでに始まったとするならば、同じ要因で米銀数減少の加速を伴う再編が進捗する可能性は高く、2012年の新規銀行設立ゼロはその始まりを象徴する出来事にすぎない。

邦銀を含む在米外銀にとっての機会と選択

 筆者は十余年前より、外銀による米銀買収に対しては総じてポジティブな見方をしてきた者の1人である。ガバナンス態勢の確立という古くて新しい課題はあるものの、日本だけでなく欧州等の外銀の多くにとり本拠国市場よりも成長性が高い最大の先進国である米国において、かりに短期的にはシナジーの乏しい純投資的なものであっても是々非々で投資を行うことは、収益構造に有意なインパクトをもたらすグローバル成長戦略の実現に有力な選択肢の1つとなると考えてきたためである。

 米国において再編淘汰と銀行数減少が今後加速するならば、一定以上の規模の利益を享受できる既存銀行の買収や独禁法上の許容範囲で市場支配力強化を狙うための追加買収を巡り他の一部外銀や中堅米銀との競合度合いが強まる可能性はある。割安案件との出遭いを待つのではなく、これらの競争を半歩先取りしながら「欲しいもの」に妥当なプレミアムを支払う覚悟でトランスフォーメーショナルなディールを追求する甲斐はないだろうか。

1) ここでは、広義の「米銀」を意味する銀行と貯蓄金融機関の新規設立数の合計。
2) これに先立ち、銀行新規設立免許については2011年にゼロを記録。
3) 日本で90年代から2000年代にかけてときおり誤解されてきたのとは対照的に、米銀収益の成長をリーマンショック以前の二十余年に渡り牽引してきたのは伝統的な預貸ビジネスである。とくに預金ビジネスは現在も続く超低金利時代に入る以前は大手も含むほとんどの米銀の中核事業であるリテール部門の粗利益の5割以上に寄与する稼ぎ頭であり、かつ最大の成長源であり続けた。これに対し、ローンや中小企業ローンなどの貸出利ザヤ(預金調達利回りに対するスプレッドではなく、市場金利で金利リスクを取らずに調達したと仮定した場合の利ザヤ)は収益貢献度という点では限界的な位置付けにすぎなかった。
4) 複数の米銀幹部や業界識者等に対する当時の筆者インタビューに基づく。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

Yoshinaga

吉永高士Takashi Yoshinaga

NRIアメリカ
金融・IT研究部門長
専門:米国金融経営調査

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