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台湾証券取引所のXBRL導入事例―比較可能性へのこだわり

2013年3月号

資産運用ソリューション企画部 データアナリスト 三井千絵

今年、金融庁は企業情報開示システムEDINETを更改し、XBRLの適用範囲を拡大する。XBRLを用いたシステムは海外の取引所でも採用されているが、台湾証券取引所では、海外を含めた機関投資家に注目されるように様々な取り組みを行っており、日本でも参考にできるものが含まれている。

 2013年、金融庁は企業情報開示システムEDINETを更改しXBRL(※1)対象範囲を拡大することを予定している。このような開示システムは海外でも導入され、その内容の充実が目指されている。例えば台湾では、2008年から導入されたXBRL開示システムを、2013年から全企業に適用されるIFRSに準拠したものに更改中だ。2012年7月末には、この取り組みを国内外関係者に周知するためXBRLカンファレンスを開催した。その開会挨拶を行った台湾FSC(※2)の副主任委員呉氏は、「XBRLとIFRSは、台湾市場の活性化へ向けた重要な取り組みである」と述べた。本稿では、台湾のXBRLへの取り組みを紹介し、日本のXBRL化の現状、今後取り組むべき課題を考えたい。

台湾証券取引所のXBRLへの取り組み

 台湾証券取引所(証取)は、財務諸表だけでなく、業績予想や中期経営計画、CSRレポートの提出も上場企業に奨励しており、日本同様、2008年からこれらの情報の一部にXBRLを適用してきた。現時点では日本より優れていると言える点も少なくない。1点目は、日本では財務諸表本表のみがXBRLの対象となっているが、台湾ではそれらに加え、監査報告書や、業種ごとに中国子会社の情報もXBRLの対象となっていることである。また2点目として、提出時にXBRLの機能を用いた項目間の数値の整合性チェック等を厳しく行い、信頼性向上を目指していることがある。そして3点目に、取引所のウェブサイトでは、英語のメニューに加え、XBRLの英語ラベル(※3)(英語の項目名)を用いた英語での表示やデータダウンロード機能も提供していることが挙げられる。

 台湾証取が財務諸表以外の情報も導入当初からXBRL化しているのは、投資家ニーズに対応しようという姿勢が強いためだ。先に挙げた監査報告書の情報は日本でも企業分析におけるニーズが高くなってきており、監査法人名や担当会計士の情報、ゴーイングコンサーンに関する注記についての情報は重要な項目として挙げられている。また関連会社、特に中国子会社の情報については、台湾企業を投資対象としているアナリスト等によると、当該企業の中国の子会社の収益や為替相場の変動が本体の業績に影響するため、特に重要だと言われている。

比較可能性の向上に重点を置いた施策

 上述したような点は、日本でも次世代EDINETで対応されることになっているが、今回の日本での更改でも議論の俎上に上っていない台湾証取独自の取り組みとして、“企業による独自の拡張科目がない”という点を挙げることができる。日本では企業が発表する決算書において、各社で様々な勘定科目が用いられることがある。従ってXBRLのタグ(※4)も拡張(※5)される。自社独自の説明に力を入れているとも言えるが、「同じ意味の科目かどうか」がはっきりせず、投資家による企業間比較の妨げになることもある。台湾証取では、1500ほどの上場企業の開示情報を全て調査し、現在約9000の勘定科目を用意している。企業は原則その中から科目を選択し独自の勘定科目を拡張しないとすることで、利用者側の比較可能性を高めることを目指している。

 この方針は新システムになっても引き継がれる。IFRS導入にあわせたXBRLシステム更改では、まずグローバルの投資家による比較等の利便性を意識し、基本的に国際会計基準審議会(IASB)が用意するXBRLをそのまま用いる。ただし、IASBが用意している科目以外で実際の開示に用いられるものについては、台湾証取で調査を行いXBRLのタグを準備している。現在の運用を踏襲して、各企業が科目を拡張しなくてもよいようにする予定だ。

EDINET(現、新)及び台湾証取のXBRL、開示システム比較

 このように、台湾証取がXBRLの整備に熱心な背景には、台湾株の置かれている状況がある。

 台湾証取では、広報部門による台湾株全体に関するIR活動として、日本の年金基金なども訪問し、台湾株のアピールを行っている。台湾証取の林副総裁は、前述のカンファレンスにおいて、「台湾は、以前は流動性の高い市場と言われた。現在は中国株に比較すると注目されにくい。台湾株の情報をXBRLにすることによって海外からも企業の情報を取得しやすくし、この状況を改善したい」と、XBRL化へ投資する目的を強調している。

2013年EDINET更改と日本に求められること

 日本でも2013年のEDINET更改によって、XBRL化の対象範囲が拡大され、開示書類全体がタグ付けの対象となる。しかし注目された監査報告書は、ブロックタグと言う情報全体をタグ付けしたものとなり、監査法人名などが個別に取り出せるものではない。関連会社情報も同様に表全体がタグ付け(※6)された簡素なものとなっている。また、IFRSを適用する企業が来年には数十社になると言われるなかで、現在はIFRSに切り替えるとEDINETへのXBRLの提出が任意でよいとされており、いまだXBRLへの取り組みに一貫性が見られないところもある。一方、次世代EDINETでは、やはり投資家からのニーズが強いセグメントや大株主情報を詳細にXBRL化する予定だ。これは台湾証取でもまだ対応していない分野である。データ品質についても、次世代EDINETではバリデーション(データ及びXBRLの妥当性チェック)が強化されるため、その向上が期待できる。

 日本企業も、台湾同様、言葉の壁を抱えている。日本の有価証券報告書は世界的に見ても情報量が多いと言われ、CSR報告書や中期経営計画も多くの企業が作成しているが、海外の機関投資家にこれらの情報は共有されにくい。今や日本株は「アジア株のひとつ」として調査をするアナリストも増えてきた。日本企業と“ライバル”であるアジア企業との電子的な開示の差は、巡り巡って日本企業の不利益になるかもしれない。XBRL化の取り組みには他のアジア諸国の動きを意識した観点も重要ではないだろうか。また当局の取り組みだけでなく、企業自身の積極的な姿勢も必要と言える。

1) XBRL(eXtensible Business Reporting Language):拡張可能な事業報告言語。
2) 台湾FSC(Financial Supervisory Commission):金融監督管理委員会。
3) 英語ラベル:XBRLの機能のひとつ。各勘定科目等を表すタグは、複数の言語による名称を持つことができ、表示アプリケーションに言語選択機能と連動させることができる。
4) タグ:HTMLや、XMLで、マークアップ(印つけ)をする文字列。XML系言語の一つであるXBRLでも、各勘定科目についてタグを設定し、その科目名の意味を伝えている。
5) EDINETでは、金融庁が用意した勘定科目のタグ以外に、自社で専用のタグを拡張し提出することができる。
6) 2013年1月18日に公表された次世代EDINET 第3次ドラフトでは子会社数など、一部の数値情報は取得できるようになっている。

※組織名、職名は掲載当時のものです。

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Writer’s Profile

三井千絵

三井千絵Chie Mitsui

金融デジタル企画一部
上級研究員
専門:企業開示